「ストリップサーチいたずら電話詐欺」の版間の差分
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'''ストリップサーチいたずら電話詐欺'''とは、[[2004年]]に犯人が逮捕されるまで約10年間続いた、一連の事件の総称である(サーチ=身体検査)。犯人はレストランや食料雑貨店に電話をかけて[[警察官]]を自称し、「警察への協力行為」の名のもとに店長らを誘導、女性店員を裸にして[[身体検査]]をしたり、その他の異常な行為をするよう仕向けた。狙われた店の多くは、小さな田舎町の[[ファーストフード]]レストランだった。 |
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2013年7月1日 (月) 01:37時点における版
ストリップサーチいたずら電話詐欺とは、2004年に犯人が逮捕されるまで約10年間続いた、一連の事件の総称である(サーチ=身体検査)。犯人はレストランや食料雑貨店に電話をかけて警察官を自称し、「警察への協力行為」の名のもとに店長らを誘導、女性店員を裸にして身体検査をしたり、その他の異常な行為をするよう仕向けた。狙われた店の多くは、小さな田舎町のファーストフードレストランだった。
一連の犯行は70件を数え、行われた場所も30州もの広範囲にわたっていた。最後に起こされた2004年のケンタッキー州マウントワシントンにおける犯行から、当時37歳で、アメリカの刑務所・収容所運営会社であるコレクションズ・コーポレイション・オブ・アメリカの従業員であったデビッド・スチュワートが逮捕された。
一連の犯行(マウントワシントンでの犯行以前のもの)
さまざまな州で犯行は次のように行われた。
警察官を名乗る男が電話をかけてきて、店長かフロア責任者と話したいという。店長らが電話口に出ると、男は警察への協力を要請し、容疑をかけられている従業員がいるので、拘束して身体検査をするよう依頼する。どの従業員が疑われているのか店長らにわかるよう、男は容疑者の身体的特徴を挙げる。
電話の大半はファーストフードレストランにかけられ、チェーン展開する食料雑貨店にかけられたケースもあった。以下は主だったケースである。
- 1992年に2件、ノースダコタ州デビルズレイク、ネバダ州ファロンのそれぞれで電話が確認される。
- 2000年11月30日、ケンタッキー州リッチフィールドにあるマクドナルドの女性店長が、電話をかけてきた男の指示に従い客の前で服を脱ぐ。店長は男に、目の前の客は性犯罪の容疑者であり、囮となった彼女に客が興味を示せば、覆面警官が客を逮捕できると信じ込まされていた。
- 2003年2月、ジョージア州ハインズヴィルのマクドナルドで、女性店長のもとに警察官を名乗る者から電話がかかってくる。その者は、フランチャイズ加盟店のGWDマネジメント社の営業責任者が同席していると述べた。女性店長はその者に言われるがままに19歳の女性従業員を女性用トイレに連れて行き、服を脱がせて身体検査をし、さらには55歳の男性従業員に命じて女性従業員が膣内部にドラッグを隠し持っていないか調べさせた。この件で、マクドナルドとフランチャイズ加盟店のGWDマネジメント社は訴訟を起こされ、2005年アメリカ地方裁判所判事ジョン・F・ナングルはマクドナルドに対する略式判決を認め、GWDマネジメント社に対しては一部を除き認めた。この判決は2006年アメリカの第11巡回控訴裁判所でも支持された(上訴は棄却された)。
- 2003年1月26日、レストランのアップルビーズ・ネイバーフッド・グリル&バーの店長補佐が、エリアマネージャーを名乗る者からコレクトコールを受けたあと、ウェイトレスに危害を加える。
- 2003年6月3日、アラスカ州ジュノーのファーストフードレストランタコベルの店長が、本社と協力して薬物乱用の捜査に当たっていると自称する者に電話で指示され、14歳の女性客の服を脱がせ、わいせつな行為を強要する。
- 2003年7月、フロリダ州パナマシティーのウィン・ディキシー食料雑貨店の36歳の店長が、電話で指示され、電話で述べられた身体的特徴に適合すると思われた19歳のレジ係の女性を事務所に連れて行き、服を脱がせて身体検査を行った。レジ係は服を脱ぐよう強制され、身体検査のために様々なポーズをとらされ、他の店長が事務所にカギ束を受け取りに来て初めて解放された。
- 2004年3月、アリゾナ州フェニックス近くのファウンテンヒルズのタコベルで、17歳の女性客が店長に服を脱がされ身体検査をされる。店長は警察官を名乗る男から電話を受けていた。
マウントワシントンでの犯行
2004年4月9日、ケンタッキー州マウントワシントンのマクドナルドに1本の電話がかかる。店長補佐のドナ・サマーズによると、電話の主は自分を警察官「スコット巡査」と名乗り、「華奢な体つきで黒髪の若い白人」というあいまいな特徴の女性に窃盗の容疑がかけられていると述べた。サマーズはその女性は当日シフトに入っている女性従業員ルイーズ・オグボーンだと考えた。従業員への身体検査などという些細な仕事に派遣できる警察官はいないため、店内で身体検査をしてみてほしいとサマーズは要求された。女性従業員は事務所に連れていかれ服を脱がされ、サマーズは電話の主の指示通りに、女性従業員の服をビニール袋に入れ自分の車の中にしまった。もう一人の店長補佐であるキム・ドッケリーも電話の主によって、身体検査の立会人としてその場に居合わせる必要があると信じ込まされた。1時間後にドッケリーはその場を離れ、サマーズは自分もカウンター業務につかなければいけないと電話の主に告げた。そして、手伝いのために信頼できる誰かを呼ぶよう要求された。
サマーズの婚約者であるウォルター・ニックスが呼ばれ、サマーズから女性従業員の件を引き継いだ。警察官からの電話だと信じ込まされ、ニックスは電話の主からの指示に2時間ものあいだ従い続けた。女性従業員の裸を隠していたエプロンを奪い、飛び跳ねさせたりジャンピング・ジャックスさせたりした(ジャンピング・ジャックス=ジャンプしながら両手を振り上げて頭上で打ち鳴らす動作)。それからニックスは女性従業員に、身体検査のため指を膣に入れて内部を彼に見せるよう強制した。また、彼の膝の上に座り彼にキスするよう要求し、彼女が拒むと、命令に従うと彼女が誓うまで尻を叩いた。電話の主は女性従業員とも会話をし、言われたとおりにしないとさらにひどい罰を受けねばならないと脅した。女性従業員はこの時のことを「あの恐怖は一生忘れることはできない」と述べている。
2時間半ものあいだ事務所に閉じ込められたのち、女性従業員はニックスにオーラルセックスを行うよう強要された。
電話の主は、サマーズがときどき事務所に戻って来る時は、エプロンで裸を隠すよう女性従業員に命じた。状況に動揺してきたニックスは、電話の主に席を離れることを許可され、その代わりにサマーズがニックスの代わりになる誰かを見つけるよう指示された。その場を離れたあと、ニックスは友人に「とんでもなく悪いことをしてしまった」と電話している。
ニックスはいなくなり、夕食の時間になって店が混みはじめて従業員に余裕がなくなってきたため、ニックスの代わりとなる誰かが必要となった。サマーズはロビーで、普段は店のメンテナンスを担当しており、ちょうどデザートを食べようと店に立ち寄ったトーマス・シムズを見つけた。サマーズはシムズに、事務所で女性従業員を見張っているよう指示した。シムズは電話の主の命令に従うのを拒んだ。ここに来て初めてサマーズは疑いを抱きはじめ、店長に電話をしようと思い立った。電話の主は、店と店長の両方と同時に通話していると話していたからだ。店長と電話をしたことで、サマーズは店長は仮眠をとっており警察官と会話などしていないこと、先ほどからの電話がいたずら電話だと知った。電話は途端に切れた。次に他の誰かから電話がかかってくる前に、従業員の一人が「*69」をダイヤルし、先ほどまでの電話をかけていた人物の電話番号を調べた。サマーズは事の次第に気付いて青くなり、謝りながら女性従業員を解放した(ぶるぶる震えており、すぐに非常用毛布で包まれた)。無実の罪で拘束されてから3時間半が経過しており、警察に通報がなされ、ニックスは性的暴行の容疑で逮捕され、電話の主を探すための捜査が始まった。
出来事のすべては事務所に設置されていた監視カメラに記録されていた。サマーズはその記録をその日の夜に見て、弁護士の助言に従い、ニックスとの婚約を解消した。
捜査と刑事裁判
当初この電話は、店と交番の両方を見渡して警察官の行動を把握できる、店の近くの公衆電話からかけられたと考えられたが、のちにフロリダ州パナマシティーのスーパーマーケットにある公衆電話からかけられたことが分かった。
マウントワシントン署は簡単な単語をネット検索することで、この事件が10年近く続く一連の同様の犯行の最新の一つであることをすぐに突き止めた。もっとも、マウントワシントンのマクドナルドにおける犯行は、一連の犯行の中で最も電話をかけた場所と電話をとった場所が遠く、最も犯行時間が長く、最も多くの人々を巻き込んでいた。
電話はAT&Tのテレフォンカードを使ってかけられており、こういったカードを一番多く売っていた店はウォルマートであった。捜査員らはパナマシティー署と連絡を取り、マサチューセッツ州のフラハティという探偵がボストン地区のレストランにかけられた電話に関して既に調査を進めていることを聞いた。彼はパナマシティーの地元のウォルマートの監視カメラの映像を入手済みであるという。フラハティの協力により、捜査員はマウントワシントンの件で使用されたテレフォンカードのシリアルナンバーを突き止め、それがマサチューセッツ州の件で使われたカードとは別のウォルマート店舗で購入されたことを知った。そのウォルマート店舗のレジに残された記録から、該当するテレフォンカードが購入された時刻が分かり、警察は監視カメラの映像を押収した。マサチューセッツ州の事件では、監視カメラがレジではなく駐車場に向けられていたので途中で捜査が止まってしまったが、マウントワシントンの事件で使われたカードが購入された店舗では、監視カメラがレジに向けられていた。その映像には民間刑務所・収容所運営会社であるコレクションズ・コーポレイション・オブ・アメリカの刑務官の制服を着た男がテレフォンカードを買う様子が映っていた。2つのウォルマートで撮られた動画・静止画を見比べると、マサチューセッツ州の件で使用されたカードが買われたウォルマートでも、同じ男がカードが購入された時間よりも前に入店し店内に滞在していたことが分かった。警察はこの映像を容疑者の前面・背面姿のモンタージュ写真に加工し、コレクションズ・コーポレイション・オブ・アメリカの人事部に照会したところ、この者はデビッド・R・スチュワートという妻と5人の子を持つ男だと判明した。
警察の取り調べに対してスチュワートはテレフォンカードを買ったことを否定したが、捜査官はスチュワートの家から1枚のカードを押収し、そのカードは過去に9件のレストランに電話をかける際に使われたこと、そのレストランの中には店長がだまされたアイダホフォールズのバーガーキングも含まれていたことが分かった。また何十もの各市警への願書、何百もの警察関連雑誌・警官を模したコスチューム・ピストルやそのケースも押収され、容疑者は警官になること、あるいは警官になっている自分を想像しながら犯行に及んだのではないかと推測された。
逮捕後、スチュワートは警察官を騙った罪と男性同士の性交を唆した罪でケンタッキー州に移送された。しかし有罪判決は受けなかった。検察と弁護側双方が、彼の犯罪への関与を示す直接的な証拠がないため法的判断ができないと主張したからである。
事件の余波
サマーズは事件後すぐにニックスとの関係を解消した。そして会社の内規を破った(社員でない者を事務所に入れたことと、人の服を脱がせて身体検査を行ったこと)としてマクドナルドに解雇された。ドッケリーは配置転換された。
ニックスは犯罪に加担したことを悔い、スチュワートの裁判で証言をすることを条件に、2006年2月に性的暴行その他の罪で刑に服した。被害者を殴ったのは彼であり、性犯罪にも関与したため、懲役5年の判決であった。サマーズは自らが行った監禁罪と軽犯罪に関してアルフォード・プリー司法取引を行い、1年の執行猶予を受けた(アルフォード・プリー司法取引=「自分は無罪である」と主張しながらも、有罪答弁をおこなうこと。英米法では無罪答弁を行えば公開した法廷で事実審理が行われるが(これをトライアルという)、その結果として予期していたよりも重い罪を背負う恐れもあるので、被告人が戦略的に有罪答弁を行ってトライアルを回避することがある)。サマーズは性犯罪には関与していないと判断された。
被害者は暴行を受けたトラウマから来るストレスでうつを発症し、抗うつ剤の処方を含む治療を受けた。ルイビル大学で医学部予科生になるという長年の夢も諦めねばならなかった。ABCニュースのインタビューで彼女は、暴行後「自分が汚れていると感じ」て「誰も近づけることができない」ため、友達を作ったり交流したりすることができなくなったと語った。
警察はスチュワート逮捕後、一連のいたずら電話は止んだと発表した。現在、スチュワートはいくつもの州で一連の事件の容疑をかけられている。
マウントワシントンの事件の3年後、被害者は治療を受けながら、苦痛から彼女を守るのを怠ったとしてマクドナルドに対し2億ドルの賠償を求める裁判を起こした。マクドナルドはマウントワシントンの事件よりも少なくとも2年前から、ケンタッキー州以外の4つの州で起きた同様の事件に関連して訴訟を起こされており、本部はいたずら電話がかかってくる可能性があることやその危険性について気づいていたにもかかわらず、セキュリティ責任者が上層部に対策を提案するなどの適切な対応策を講じなかった、というのが彼女の主張であった。サマーズも同様に、マクドナルドは他の店舗にかかってきていたいたずら電話に関する情報を彼女に伝えなかったとして、5000万ドルの賠償を求める裁判を起こした。
マクドナルドの主張は以下の4点であった。(1)サマーズは「人の服を脱がせて身体検査をしてはならない」という内規に違反していたため、サマーズは雇用範囲外におり、彼女のいかなる行動に対してもマクドナルドは責任を負わない。(2)労働者災害補償法は、被用者が雇用者を訴えることを禁じている。(3)実際に犯罪を行ったのはニックスであり、彼はマクドナルドの社員ではない。(4)被害者が逃げ出さなかったのはおかしい。
民事訴訟は2007年9月11日に始まり、10月5日に結審した。陪審は、マクドナルドが被害者に対して懲罰的賠償金として500万ドル、損害その他費用の賠償として110万ドル支払うことを命じた。サマーズにも、懲罰的賠償金として100万ドル、損害賠償として10万ドルを支払うよう命じた。陪審は被害者が受けた暴行の責任は、マクドナルドと、いまだ誰とは判明していない電話の主とが半々に負うべきとした。マクドナルドとその弁護団はトライアル(公開法廷審理)に必要となる証拠を保存するよう義務付けられた。
2008年11月、マクドナルドは原告の弁護士費用の240万ドルも支払うよう命じられた。2009年11月20日、ケンタッキー州上訴裁判所はサマーズが受け取る懲罰的賠償金を40万ドルに減額した他は、陪審判決を支持した。マクドナルドはケンタッキー州最高裁に上訴し、その審理が係属中の2010年、被害者は懲罰的賠償金の請求を取り下げ、110万ドルを受け取ることでマクドナルドと和解した。
判決後、マクドナルドは店長に、いたずら電話に気づきやすくなり、従業員の権利を守るようになるトレーニングプログラムを受けさせるようになった。このようなトレーニングは以前から行われていたが、事件に巻き込まれた2人の店長とその部下の3人の従業員はその内容をうまく思い出せなかったという。
メディアにおける描写
一連の事件は『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』のエピソードの一つの元となり、ロビン・ウィリアムズが電話の主を演じた。権威者に人間がどのように従ってしまうかを実験したミルグラム実験にちなんで、「ミルグラム巡査」と名乗るという役であった。また2007年・2008年公開の短編映画『Plainview』、クレイグ・ゾベル監督の2012年公開映画でサンダンス映画祭でプレミア上映された『コンプライアンス 服従の心理』の元にもなった。