メルカリが2月6日に発表した第2四半期決算では、コア営業利益が前年同期比79%増、流通総額(GMV)は2960億円で前年同期比5%増だった。マーケットはこれを好感し、翌日の同社の株価は急騰した。
一方で気になるのが国内マーケットプレイスのMAU(月間アクティブユーザー)の減少だ。Q2は2279万人となり、前年同期比では2四半期連続での減少となった。MAUの減少について、メルカリはどのように捉えているのか。同社で日本事業責任者を務める山本真人氏に話を聞いた。
ーー国内マーケットプレイスのMAUが2期連続で減少していますが、どのように受け止めていますか
山本氏:国内マーケットプレイスのMAUはすでに約2300万と大規模に成長しています。当社は7月から会計年度がスタートし、ちょうど2月6日の決算発表で上期が終わった段階ですが、上期が始まる前から「Back to Startup」というスローガンを掲げるなど、事業の伸ばし方を社内で明確化してきました。
もう少し具体的に申し上げると、すでに一定の安定的な利用は得られていますが、そこで満足するのではなく、ここからさらに大きな成長を目指すというメッセージを打ち出しています。その中でMAUについては「ただ数を伸ばす」よりも「質的に高めていく」への転換が必要だと社内では考えております。
ーーMAUの質を高める転換について具体的に教えてください
山本氏:今回MAUが減少もしくは横ばいして見える点については、いくつかの要因を分解できると思っています。
1つは、新規ユーザー獲得による増加だけでなく、既存のお客様にもっと継続的かつ深く使っていただくアプローチも重要だという点です。特に、既存ユーザーへのアプローチを大きく変えており、もともと活発に使ってくださる方や、さらに利用が増えそうなお客様を重視しています。
一方で、メルカリが大きくなったことで、不正利用目的や、キャンペーン時に一度だけ使ってやめてしまう方なども増えていたのですが、そこにとらわれるよりも、アクティブに使い続けてもらえるお客様をきちんと育てることに注力しました。
結果的に、見かけ上はMAUが減少または横ばいに見えても、ユーザーの質の向上が大きく進み、それがGMVやコア営業利益率の改善につながっているというのが今回のポイントです。後半の話題にも出てくると思いますが、マーケティング費用の最適化などもあり、数字全体としてはむしろ改善しているというのが社内での受け止め方ですね。
ーーMAUの向上は今後目指さないということですか?
山本氏:そうではありません。表面的な数としてMAUの増加を目指すのではなく、プロダクトを改善した結果としてMAUが伸びていく姿を作っていきたいと思っています。
ーー新規のユーザー獲得も今後は重視しないのでしょうか
山本氏:新規ユーザー獲得施策をまったくやめたわけではありません。後述するプロダクトそのものの利便性向上や、安心して使える仕組みづくりに力を入れているということです。12月頃から大きくUI/UXを改善し、結果として新規利用者数もじわじわと回復傾向にあります。
ーー今回の好決算はコスト削減が寄与したとの見方もありますが、いかがですか
山本氏:必ずしも「コストを削減しようとした」わけではありません。メルカリは立ち上げ当初からキャンペーンやテレビCMなどマーケティングを重視してきました。これらは新規ユーザー獲得には大きな効果がある一方、既存ユーザーをよりアクティブ化するという観点では、正直狙い通りにいっていませんでした。
そこで、特にこの半年ほどは、広告費を大きく投下するマーケティング一辺倒というより、プロダクトと連動した大規模なバージョンアップに力を入れました。具体的には、2024年12月頃にホーム画面、商品詳細、検索機能、出品画面など、マーケットプレイスのコア領域をほとんど刷新し、より簡単で分かりやすく、安心して使える画面へと変更しています。
新しく変わった部分をユーザーの皆さんに伝えるマーケティングはしていますが、ユーザーの利用を促進する主役はプロダクトの改善です。つまり「結果的にコストを削減しているように見える」のが実態に近いですね。
ーー結果的に削減できたコストのうち、大部分はマーケティング関連費用なのでしょうか
山本氏:マーケティング関連が大きいのは確かですが、それだけではありません。さまざまな観点で最適化が進んでいます。
たとえば、C2C部門では人数をスリム化し、プロダクトにフォーカスした体制に切り替えています。そして新規事業(たとえば「メルカリハロ」やクロスボーダー領域など)に人材を移す、という形ですね。
結果的に「C2C部門でのコスト削減が進んだ」ように見えていますが、マーケティング費用だけでなく、組織再編や人員配置転換など総合的な見直しが大きく寄与しているのです。
ーー生成AIなどのAI技術を活用して、オペレーションの効率化を進める計画はありますか?
山本氏:すでに実行フェーズに入っています。当社はテクノロジーを基盤にする会社として、数年前からAI全般の活用を進めてきました。近年の生成AIの進化でさらに取り組みが加速しています。
プロダクト面では、出品時に写真を撮るだけで商品説明文が自動入力される機能、ユーザーの興味に合わせたレコメンドなど、AIを活用した機能を続々リリースしています。
オペレーション面では、不正利用対策やCS(カスタマーサポート)対応などの領域でもAIを活用し、効率化とサービス品質の向上を同時に目指しています。
ーー「日本のマーケットプレイス市場は成熟しており成長余地は乏しい」との見方についてはどう思われますか
山本氏:まだまだ拡大余地が大きいと考えています。多くの方がメルカリを使っていますが、実際に「本当にあらゆるものを売ったり買ったりしているか?」という観点では、意外とカテゴリーごとに偏りがあると思っています。たとえば、頻繁に服を売っている方でも、スマホや本は売ったことがないとか、安いものだけ売っていて高額なものは扱っていない、といったケースですね。
そういう意味で、既にメルカリを使っている方の中にも伸びしろがあります。ここは当社のサービスを拡充することで、例えば「高いものでも安心して売買できる」「大型の商品でも気軽に送れる」といった仕組みをつくり、今まで売っていなかったモノも出品していただけるようにしていくのが大事だと考えています。
実際、「大きいものは送れないのでは?」「メルカリで売るのは不安」と思われている方もまだ多くいらっしゃると思います。ですから、どんなものでも簡単に送れて安心取引できるという状態を作れば、1人あたりの利用もさらに伸びるはずです。
加えて、メルカリのMAUが約2300万人というのは確かに大きい数字ですが、日本の人口全体で考えると、まだすべての人が使っているわけではありません。たとえば、「不要品をゴミに出す」を誰もがやるように、いずれは「いらなくなったものはメルカリで手放す」が当たり前になる可能性があると考えています。究極的にはそこまで行ける余地があるということですね。
そういう意味で、1人のユーザーが今よりもっと多くのカテゴリーを利用する伸びしろもあれば、まだ使ったことがない人が新たに始める伸びしろもあります。ですから、国内のC2C事業にはまだ大きな成長機会が残っていると考えています。
ーーメルカリはここ数年で続々と新サービスをローンチしています。5年後、10年後はどのような企業像を目指しているのでしょうか?
山本氏:大きく2つの価値を提供し続ける企業になりたいと考えています。1つ目は「あらゆる価値が循環する場」になることです。不要になったモノを売り、欲しいモノを手軽に買える――そういった“循環”の領域は、まだまだ伸びしろがあります。より高額な商品や大型商品、デジタルコンテンツなど、“売れる・買える”カテゴリーを広げ、誰もが何でも循環できる市場を目指します。
2つ目は、新しい技術・サービスの“はじめて”を提供する場です。たとえばメルペイで初めてキャッシュレス決済を使ったり、メルコインで初めて暗号資産を扱ったりするように、新技術に触れるきっかけとなるプラットフォームであり続けたいと考えています。最新のテクノロジーを積極的に取り込みながら、お客様の“最初の体験”をサポートすることを重視しています。
ーーありがとうございました。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)