焦点:木枯らし吹く韓国建設業、文政権の公共事業削減が直撃
[1/3]11月28日、韓国のチョン・ミョンインさん(56)は、トラック代金を返済するために、仕事を探して毎日800キロも自分のダンプトラックで移動し、睡眠時間は3時間ほどだ。写真はソウルの高層住宅建設現場。2016年8月撮影(2018年 ロイター/Kim Hong-Ji)
Hayoung Choi
[ソウル 28日 ロイター] - 韓国のチョン・ミョンインさん(56)は、トラック代金を返済するために、仕事を探して毎日800キロも自分のダンプトラックで移動し、睡眠時間は3時間ほどだ。
それでも、燃料代も払えない他のドライバーに比べて、自分はラッキーな方だと言う。
アジア第4位の韓国経済で国内総生産(GDP)の5分の1近くを占める建設業にとっては、冬は閑散期にあたる。だがチョンさんやドライバー仲間は、今年はいつもより長引くのではないかと懸念している。
建設業の投資額(季節調整後)は第3・四半期に8.6%低下しており、1990年代の金融危機以来で最大の下落ペースとなっている。
投資額はさらに減少すると、エコノミストは予想する。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権がインフラ支出を削減し、社会のセーフティーネット強化に資源を振り向ける政策を推進しているためだ。
一部には、このような政策シフト自体が、何千人に上るチョンさんのような労働者をセーフティーネットを必要とする立場に追い込んでいるとの批判もある。
文大統領は2017年5月に就任して以来、より広い範囲の人々に共有され、投機に依存しない「良質」な成長をもたらすよう、議論を呼ぶさまざまな経済改革策を導入してきた。
だが改革の柱となる政策の一部は、逆効果を生みつつある。最低賃金の記録的な上昇によって中小事業者が打撃を受けた。これにより労働市場が過去9年間で最低の水準にまで落ち込んだと批判されている。
また、住宅規制の強化によって取引が減速し、低所得層が不動産市場から締め出されてしまった。
今年の公共投資予算が14%削減されたことで、建設業の低賃金労働者も悪影響は避けられない、とエコノミストは指摘する。
建設業における1─10月の雇用増加率は2.3%で、2017年通年の6.4%増から減速。パイプライン建設プロジェクトが完了し、公共事業のさらなる削減が見込まれる今年は、雇用増加率がマイナス成長に転じる、と大多数のエコノミストが予測している。
<賃金減少で失業も増加>
チョンさんの月収は、トラックの返済とメンテナンス費用、保険料や燃料代を差し引くと、約230万ウォン(約23万円)程度だ。建設業が好況だった1年前と比べ、半分程度にまで下がったという。
今年1月以降、チョンさんが住む仁川の町では新たな公共事業は始まっておらず、より小規模な住宅建設プロジェクトも近く完了する。
「もし100万ウォンの利息を払えなかったら、トラックが競売にかけられてしまう」。チョンさんはそう言うと、2時間ほど離れた金浦にある建設現場での夜勤に出かけていった。
韓国建設産業研究院のLee Hong-il研究員は、建設業の減速により、9万2000人の雇用が失われ、2019年の韓国全体の経済成長を0.4ポイント下押しすると見込んでいる。
朴槿恵(パク・クネ)前政権による公共事業の大半が、需要を過剰に見積もったプロジェクトだったため、韓国の建設ブームは長続きするものではなかった、と多くのエコノミストは指摘する。
韓国道路公社のデータによると、2008─17年に開通した高速道13路線の平均利用率は58.1%にとどまっている。
韓国財務省は、2019年のインフラ事業予算は既存プロジェクトの完成に集中し、新規事業は削減する方針だ。20カ国・地域(G20)の中で、韓国はすでに1平方キロ当たりの高速道路の長さが最長で、鉄道路線の長さも6位にあるためだ。
韓国の記録的な低出生率と高齢化により、ソウル近郊では住宅建設のペースが鈍化している。ソウル首都圏に30万戸の住宅を建設する文政権の計画は現段階では進展がなく、デベロッパーは、首都圏外における住宅建設には消極的だ。
郊外で進められている住宅プロジェクトのほとんどが、完成間近の段階にある、とアナリストは言う。建設契約の5分の1程度を占める改築工事も、経済の鈍化や安全基準の強化を受けて減速している。
「建設会社の長期見通しは暗い」とハナ金融投資のアナリストChae Sang-wook氏は語る。
<海外へ>
こうした状況を背景に、建設大手会社は、特に東南アジアの都市部での開発やインフラプロジェクト受注に成功するなど、海外で攻勢を強めている。
国際建設情報サービスによれば、サムスン・エンジニアリング<028050.KS>が1─11月に海外で締結した契約額は前年同月比で5.3倍となる69億ドル(約7850億円)に達し、サムスンC&T<028260.KS>の海外契約額も同282%増の35億ドルに上った。
大宇建設<047040.KS >も、同31%増の15億ドルの契約を結んだ。
だが、より規模の小さい会社には、海外に目を転じる選択肢はない。そして国内の仕事は枯渇しつつある。
「いまは、ただ様子見するしかない」と、中堅建設会社の幹部は言う。「以前はうちで建てたアパートはほとんど売れたが、今では半分ぐらい売れ残っている」
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」