焦点:西アフリカのカカオ大国「終わりの始まり」か、生産が壊滅的落ち込み

焦点:西アフリカのカカオ大国「終わりの始まり」か、生産が壊滅的落ち込み
 3月28日、彼女のカカオ農園は有毒物質で汚染され、赤茶色に染まった水たまりが点在していた。写真はカカオの実。ガーナ・オシノの農場で2月撮影(2024年 ロイター/Francis Kokoroko)
[サムレボイ(ガーナ) 28日 ロイター] - 彼女のカカオ農園は有毒物質で汚染され、赤茶色に染まった水たまりが点在していた。違法な金採掘業者が残したものだ。農園の所有者ジャネット・ジャムフィさん(52)は、この荒れ果てた風景に心が折れかけている。
ガーナ西部にあるこの27ヘクタールの農地には、昨年まで6000本近いカカオの木が植えられていたが、残っているのは12本に満たない。
「この農園は私が生きていくための唯一の手段だった」と涙するジャムフィさんは離婚し、4人の子どもを抱えている。「この農園は子どもたちに残すつもりだったのに」
金の違法採掘により破壊されたカカオ農場の様子を嘆くジャネット・ジャムフィさん。2月撮影(2024年 ロイター/Francis Kokoroko)
西アフリカのガーナと隣国コートジボワールは長い間カカオの供給量が世界全体の60%超を占める「カカオ大国」だった。しかし今シーズンは収穫量が壊滅的に落ち込んでいる。チョコレート原料のカカオ豆は供給不足に陥る見通しで、ニューヨーク市場のカカオ先物は年初から価格が2倍以上に跳ね上がった。相場は連日のように史上最高値を更新しており、上昇基調に変化の兆しは見られない。
ロイターが農家、専門家、業界関係者など20人余りに取材したところ、ガーナのカカオ生産の落ち込みは違法な金採掘の横行、気候変動、業界の運営ミス、カカオを枯らす病気の急速な蔓延など、さまざまな要因が重なったことが分かってきた。
ロイターが独占入手した2018年以降のデータによると、ガーナの政府機関「ココア委員会(COCOBOD)」は最悪の場合59万ヘクタールの農園が、最終的にカカオを枯死させる「カカオ膨梢ウイルス」に感染していると推定している。
ガーナのカカオ栽培地は現在約138万ヘクタールだが、COCOBODによるとこの数字には、まだ収穫はあるが既にカカオ膨梢ウイルスに感染した木も含まれる。
トロピカル・リサーチ・サービスのカカオ専門家、スティーブ・ウォータリッジ氏は「生産は長期的な減少傾向にある」とした上で、「臨界点に達しなければ、収穫量がガーナで20年ぶり、コートジボワールで8年ぶりの水準にまで落ち込むことはなかった」と述べた。
専門家は、ガーナの収穫量急減は簡単には解決不可能な問題で、市場に衝撃を与えており、西アフリカ諸国がカカオ市場を牛耳っていた時代の「終わりの始まり」になるかもしれないと指摘する。
カカオ不足の影響は既にチョコレート市場に出始めている。調査会社ニールセンIQのデータによると、米国ではイースター(感謝祭)用に売られているチョコレートの店頭価格が1年前より10%以上高くなっている。
チョコレートメーカーは仕入れの数カ月前にカカオ価格をヘッジすることが多いため、西アフリカ諸国の収穫量激減が実際に消費者を直撃するのは今年後半だとアナリストは見ている。
ある専門家は「チョコレートバーは贅沢品になるだろう。手に入っても価格は2倍になる」と急激な値上がりを予想した。
Reuters Graphics Reuters Graphics
<違法採掘業者の襲撃>
ジャムフィさんが暮らす西部サムレボイはカカオ生産の中心地。COCOBODの現地事務所によるとカカオの作付け面積は3年前にはおよそ3万8000ヘクタールだったが、今では1万5400ヘクタールに落ち込んだ。
ジャムフィさんによると違法金採掘者が出没するようになったのは数年前から。彼女のカカオ農園は昨年6月に違法採掘業者に突然占拠され、ブルドーザーにカカオの木を掘り返された。鉱夫が群がって金を採掘。農園は有毒化学物質で汚染されて使用不能になり、ローンは返済できなくなった。
金の違法採掘により破壊されたカカオ農場。ドローンより2月に空撮(2024年 ロイター/Francis Kokoroko)
ジャムフィさんは警察とCOCOBODに助けを求めたが、何の反応もなかったという。
地元警察署の警察官は、苦情を受け付けたが警官を送ったかどうかは覚えがないと証言。記録の確認を拒否した。
COCOBODの広報担当はジャムフィさんの事件について法務部門が関与すると述べた。
ガーナは全国各地で小規模な違法金鉱採掘業者によってカカオ農園が侵食されつつある。カカオ専門の開発経済学者、ゴドウィン・コジョ・アエノール氏は「今や壊滅的だ。カカオ産地のほぼ全域が被害を受けている」と述べた。
一方、5人の農民や地域リーダーによると、農園の売却に前向きな農民も増えている。
カカオ農家のアシーアマハ・イエボアさんは今シーズンのカカオ収穫量が7袋と、2015年の50袋から大幅に落ち込んだ。資金が不足し、人手を見つけるのも難しい。「天地に恥じない。もし彼らが私の農園で採掘したいと言ってきたら売る」と言い切った。
<病気と気候変動>
イエボアさんをはじめ農民はCOCOBODにも責任があると訴えている。
カカオ産業の規制と振興を幅広く担うCOCOBODは負債が膨張。今シーズンは運営資金と協調融資の確保に苦しんだ。
肥料や農薬の配布は数年前に停止。老木の若返り計画も足踏み状態で、カカオ膨梢ウイルスとの戦いに敗北しつつある。
世界最大のカカオ生産国、コートジボワールも似た状況だ。トロピカル・リサーチ・サービスのウォータリッジ氏の推定によると、同国のカカオ農園の最大30%がカカオ膨梢ウイルスに感染している。
専門家によると、たとえカカオの木を植え替えても、木が成熟して豆を生産できるようになるまでには2年から4年かかる。
一方、西アフリカ諸国は気候変動の影響でカカオの生産が難しくなると研究者は予想している。コートジボワールのカカオ栽培に最も適した地域は2050年代までに50%以上縮小すると予想する研究もある。
天日で乾燥したカカオ豆が入った袋を運ぶ作業員。ガーナ・クワベンの倉庫で2月撮影(2024年 ロイター/Francis Kokoroko)
降雨パターンは既に変化しており、大雨の期間が以前より集中し、暑く乾燥した時期が長期化していると、コートジボワールの森林保護団体IDEFの代表バカリー・トラオレは言う。
一方、西アフリカ諸国がカカオ生産で苦戦する中、価格高騰が呼び水になり、他の熱帯地域、特に中南米でカカオの作付けが増えそうだ。
VOICEネットワークのファウンテン氏とカカオ専門家のウォータリッジ氏は、2027年までにエクアドルがガーナを抜いて世界第2位のカカオ生産国になると予測。ブラジルとペルーも躍進する可能性があるという。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

トムソン・ロイター

Joe Bavier is currently on a secondment with Reuters' Live Page team. He normally reports on how business is done across sub-Saharan Africa, covering major trends in trade, innovation and Africa's interactions with the global economy. He has spent more than 15 years reporting on Africa for Reuters from Kinshasa, Abidjan and Johannesburg. Joe was part of a team of reporters that Reuters named as Journalists of the Year in 2016 for coverage of Monsanto. And he was a Journalist in Residence at the University of Chicago's Booth School of Business in 2021. When he's not working, Joe likes to ride his bike, read and travel.