宮台真司インタビュー後編

宮台真司がネトウヨを語る「あれは知性の劣化ではなく感情の劣化だ」

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──なるほど、〈表現〉/〈表出〉の軸から考えると、昨今のリベラルの凋落も説明できそうですね。実際、リベラル的言説がネット右翼現象を充分に抑止できているとは言いがたいですから。

宮台 朝日新聞系の識者は、ネトウヨに対し、歴史を知らないとか教養がないとか言うだけ。歴史を知らないのも教養がないのも本当だが、それを「ネトウヨに対して」言っても始まらない。〈感情の劣化〉とはそういう現実を言うわけ。僕がハッキリ気づいたのは2000年のアメリカ大統領選だった。アル・ゴアが知能指数200、ブッシュは100以下の馬鹿、とネットで喧伝されたら、逆に「だったら俺たちはブッシュの味方だ!」という動きか盛り上がったわけだ。同じことが安倍晋三にも言える。安倍が立憲民主主義の何たるかさえ弁えず、先進各国のエスタブリッシュメントから馬鹿にされまくっているのは事実だけど、それを指摘しても安倍支持者は動かない。それがB層狙いの意味です。B層とは「社会的弱者なのに、それを自覚できないIQの低い連中」のこと。2005年小泉総選挙の際、竹中平蔵関連コンサルの戦略メモにこれを標的にせよと書いてあった。ネット動員を軸とする昨今の自民党の基本戦略でもある。この戦略は、民主制を妥当に回すことに反していたにせよ、先の〈疑似包摂社会〉を前提にした動員戦略として極めて妥当です。学生企業の取締役だった80年代に統計的なマーケット分析の仕事をした僕の経験からも断言できます。

──「馬鹿だからこそ支持する」という心性は理解しがたいです。通常、愚かしさは恥ずべきものと考えられます。

宮台 ネトウヨは年長から見れば恥知らずな輩だけど、恥の感覚は周囲の視線を気にして初めて可能になります。河野太郎と河野洋平も区別できず、お門違いに河野太郎に河野談話問題で文句をつける、劣化した輩を例にとります。ネットが一般化する90年代半ばまでなら「それは親父の方だろ。そんなことも知らねえの?」と周囲に一喝されて終了。なのに「それでも河野太郎は気に食わねえ!」と恥なく返せるのは、それを許容する〈劣化空間〉があるから。ネットは開かれた参加スペースに見えて、サンスティーンいわく「他を遮断して同じ穴のムジナだけで戯れる閉鎖空間」を与える。それが〈劣化空間〉。昔ならあり得ない恥知らずな議論が超伝導回路の電流みたいに永久に流れ続ける。その意味で、〈感情の劣化〉を被った人々が涵養や陶冶の機会に出会わずネグレクト(放置)されるのが、ネット空間の特性です。それが恥ずべき言論や行為が先進各国で蔓延する背景を与える。何度も言うけど日本だけじゃない。昨今のアメリカでのエボラ騒動もそう。アフリカで自己犠牲的にエボラ熱拡大阻止に奮闘した医師らが、科学的に無根拠な愚民迎合によって幾つかの自治体で隔離対象になり、オバマ大統領が涙を浮かべて抗議会見をしたでしょう。

──彼らは根本からして反知性的であるようにしか思えません。教養がないから何かと比した選択を自発的に決定することができず、また想像力も足りないから相手の立場になって考えないということなのでは?

宮台 自分が日本人というだけでゴキブリ呼ばわりされたらどう感じるか想像しないのは、想像力より感情能力の問題だ。アダム・スミスは、資本主義が神の見えざる手を駆動させるのは、市民が〈同感能力〉を持つ場合だけだと考えた。僕だって君だって、「日本人にネトウヨが大勢おり、それが支持する安倍晋三が首相をやっている」というだけで、他国でゴキブリ扱いされたくないよね。スミスの〈同感能力〉は、自分が嫌なことを人にしない感情の能力のこと。でも、そんなことを〈感情の劣化〉を被った輩に言っても始まらない。佐藤優の「反知性主義の時代」に知性的言説を発したところで所詮は一部界隈にしか届かない。届かない界隈には、知性的折伏でなく、感情的感染で臨む他ない。学校の教室なら、「◯△はゴキブリ!」みたいに、見も知らぬ人を一括して敵だ味方とホザく輩は、馬鹿認定で終了。ただのイジメられっ子になっちゃう。

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