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助け求める6歳の少女らに335発の銃弾を撃ち込む非道―国連も批難声明

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
殺害されたヒンドちゃん 親族提供の写真を赤新月社が公開

 今年1月末、パレスチナ自治区ガザで、イスラエル軍の攻撃を受けた車に取り残され、電話で助けを求めていた6歳の少女ヒンド・ラジャブちゃんが、12日後に遺体で発見され、彼女の救助に向かった赤新月社の救急隊員2名も死亡した事件が改めて注目を浴びている。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、今月19日の声明でヒンドちゃんと彼女の家族、救急隊員2人の殺害を戦争犯罪であるとし、当時イスラエル軍は現場にいなかったとするイスラエル側の主張を「受け入れられない」と非難した。


〇避難しようとしていた一家を皆殺し

 6歳の少女の非業の死は、アラブ/イスラム諸国の人々に衝撃を与えたにとどまらず、イスラエルに軍事支援する米国で、各地の大学での若者達の抗議活動も大きな影響を及ぼし、若者からの支持の急落は、バイデン米国大統領が再選を目指した今秋の大統領選からの撤退する一因にもつながった。

 ガザ中心部ガザ市で、今年1月29日、ヒンドちゃんとその家族はイスラエル軍の避難命令を受け、車で避難しようとしたが、その最中にイスラエル軍の攻撃を受け、ヒンドちゃん以外の家族は全員死亡した。車の中に取り残されたヒンドちゃんは、赤新月社(中東における赤十字社)に携帯電話で助けを求め、応対した赤新月社の職員は約3時間、ヒンドちゃんと通話し励まし続けた。「とても怖いので、来てください、ここから助け出してください。助けてくれますか?」と必死で訴えるヒンドちゃんの通話音声は各国のメディアで報じられ、ヒンドちゃん救出を多くの人々が求めていた。

〇許可を得て現場に向かった救急隊員も殺害

 ヒンドちゃん救出のため、赤新月社はイスラエル軍と連絡を取り合い、その許可を得て現場に向かったのだが、その直後、消息を絶った。その12日後、ヒンドちゃんが取り残された車から約50メートルの近くで大破した赤新月の救急車が発見され、乗っていた救急隊員2名、ユスフ・アル・ゼイノさんとアハメド・アル・マドフンさんも死亡が確認されたのだった。また、その現場では米国製多目的戦車砲弾M830A1の破片も発見されたとの報告もあり、イスラエル軍が米国から供与された兵器で、赤新月社の救急車を攻撃した疑いが指摘されている(関連情報)。

〇至近距離から銃撃、335発の弾痕

 この件について、イスラエル側は当時、ヒンドちゃんが取り残された車の近くにイスラエル軍はいなかったとして、関与を否定したが、米紙ワシントンポストは衛星画像を分析し、ヒンドちゃんの現場近くでイスラエル軍の装甲車数台が写っていることを確認した。

 また、英ロンドン大学を拠点に人権問題や環境問題などについて調査する国際的な研究チーム「フォレンジック・アーキテクチャー」も、事件当日の衛星画像で、イスラエル軍のメルカバ戦車と思われる装甲車両が写っていると指摘。さらに、ヒンドちゃんの乗っていた車に同乗していたヒンドちゃんの従姉のラヤン・ハマダさん(15歳)の通話音声から、イスラエル軍の戦車はヒンドちゃんやラヤンさんを視認できる距離(13~23メートル)から発砲していたと分析。ラヤンさんはこの通話の最中に死亡したものと思われる。そして、ヒンドちゃんやラヤンさんの車には335もの弾痕が残っていたという。

〇国連も批難声明

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、今月19日の声明で、事件から5カ月も経つのにイスラエル側の調査が進んでいないことや、ヒンドちゃんら家族と救急隊員らの殺害が戦争犯罪に該当する可能性があるとして、強く批判した。

 また、ヒンドちゃんら殺害のケースは例外的なものではないと指摘。「人道支援や国内避難民の避難所として使用されている場所を含む、明らかにガザの民間人を狙った攻撃に、我々は非常に困惑している」として、赤十字国際委員会(ICRC)のガザ事務所や、アル・マワシ地区の国内避難民テント、アシュ・シャティ難民キャンプ、国内避難民が避難しているUNRWAアブ・オレイバン学校などが攻撃されたこと、その結果として、約320人が死亡し、その半数は女性と子どもだったことを列挙。「こうした攻撃は国際人道法の重大な違反に相当し、迅速かつ確実に捜査され、厳重に処罰されるべきである」と訴えた。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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