『刃牙』シリーズをBLとして読むオタクの感想が書籍化 著者金田淳子さんに話を聞いたら早口長文が返ってきた
タイトルは『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ』。
『グラップラー刃牙』シリーズをご存じでしょうか。1991年から連載している板垣恵介さんによる人気漫画で、累計7500万部を突破しています。そんなシリーズをBL(ボーイズラブ)視点から読み進めたWeb連載が『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ』として河出書房新社で書籍化します。
著者はBL愛好家の金田淳子さん。ボーイズラブ研究家として知られ、共著に『オトコのカラダはキモチいい』があります。金田さんは2018年からWebプラットフォーム「note」で『刃牙』をBL視点で読み解く連載「乙女の聖典 〜女子こそ読みたい『刃牙』シリーズ」をスタート。『刃牙』愛読者から戸惑いをもって受け止められました。
『刃牙』愛読者やBL好きも多いねとらぼ編集部。金田さんに連載の経緯や書籍化について話を聞こう……としたところ、想像の3倍以上のコメントをもらいました。ほぼそのまま掲載します。
金田淳子さんに聞く『刃牙』との出会い
――感想記事をnoteに書き始めたきっかけはなんでしょうか?
実は私、『グラップラー刃牙』シリーズについて、存在はもちろん知っていましたが、一度も読んだことがなかったんです。インターネットでよく画像が流れてくるんですが、それを見て、筋肉の表現が気持ち悪いなと思っていました。周りにも読んでいる人があまり居なくて、話題になることもなかったです。とはいえ、超有名作品なので、機会があれば読みたいと思っていました。
そう思っていたところへ、昨年の8月に『グラップラー刃牙』『バキ』『範馬刃牙』のそれぞれ最初の3冊が無料公開されていたんですね。それで何気なく読んでみたんです。
そしたら、全くそういう期待はしてなかったのに、すごくBLっぽい内容だったんですよ。例えば、『グラップラー刃牙』1巻第1話は、炭酸抜きコーラとか「オイオイオイ」「あいつ死ぬわ」という場面ばかり注目されてますが、もっと大事な場面があります。刃牙さんが、パンチしてきた愚地独歩(おろち・どっぽ)さんの拳に「CHU(ハート)」ってキスするんですよ。
――それは……現実ですか?
はい。『グラップラー刃牙』を読んだことのない人は、「金田さん……BLばかり読んでるから、幻覚を見たんでしょう」と疑うかもしれませんが、本当に描かれているので、今すぐ読んでください。他にも「男が男のことを気にしすぎでは?」「性的な目で見てるのかな?」という描写があまりにも多くて、気になりすぎて、9時間ぐらいしか眠れない夜もありました。
それで、これってBLなのかナ? という重大テーマについて真剣に語り合いたいと、周囲を見渡したものの、女友達が多いのもあって、みんな全然、『グラップラー刃牙』シリーズを読んでないんですよ。なんで読んでないんだよ! 読めよ! まあ私も、つい数日前までは読んでなかったわけですが。
そんな時に、T橋さんという友人が現れます。T橋さんは某動画配信サイトのディレクターで、私はよくLINEで仕事の相談や、雑談をやりとりしていました。話の流れで、「いま刃牙のことばかり考えちゃって、他のことが手につかない」と言ってみたら、このT橋さんが、中高生の時に正中線連撃の練習を(脳内で)していたほどの刃牙ファンだ、と打ち明けてきたんです。そこで「あれBLですよね?」と圧をかけたところ、彼は即座に、「この話を僕との雑談だけで満足して、消費してはいけない。文章を書きましょう」と提案してきたんです。T橋さんは職業病で、なんでもすぐ企画にしちゃうんですよ。
私もnoteで何か書いてみたいという気持ちはあったので、「じゃあ書きます」と、まだ9冊しか読んでないのに、思いのたけを放出しました。それが始まりです。ありがたいことに、最初の無料記事をたくさん読んでいただいて、「2018年9月にnoteで最も読まれた記事」のひとつになりました。
この感想記事は、1本100円で売っているのですが、特に『グラップラー刃牙』シリーズのファンの方々がおもしろがってくださって、現在は「その23」(ピクル編)まで進んでいます。いや、お前1年かけてそこまでしか感想書けてないのかよ! という驚きは私の中にもあるんですが、じっくり少しずつ楽しんで書いています。
板垣先生と秋田書店さんは本当にアナルが広い
――今回、書籍化されたきっかけは?
書籍化の話は、今年の4月頃だったか、『バキ』の感想まで書き終わった頃に、またT橋さんがむくむくと動き始めて、企画書を作っていたんですね。「まとまった分量になったから、僕の知りあいの出版社に持ち込んで、書籍化しましょう」と。え、何この人……こわい……とも思ったんですが、書籍化したら、もっと多くの人に『グラップラー刃牙』シリーズの思いがけない魅力(BL)を伝えることができて、シリーズの売上にも貢献できるかなと思いました。この時に秋田書店さんにも連絡して、書籍化の許可をいただいています。おそらく、この手の企画が絶対に通らない著者さんや出版社さんはあると思うので、板垣先生と秋田書店さんは本当にアナルが広いですよね。
――許可出てるのかな? と気になっていました。すごい。
あと河出書房新社さんのアナルもかなりのサイズだと思いました。この企画の担当編集であるM田さんは、この企画を紹介された時の気持ちを、次のように振り返ってくれています。
「『グラップラー刃牙』シリーズをBLで……と初めに聞いたときは、意味がよく呑めこめず何度も聞き返しました。刃牙ってあの刃牙で、BLってあのBLですかと……。でも、訝しみながら金田さんのnoteの記事を読んでみたら、刃牙をほぼ読んだことがないとか、BLに詳しくないとか、そういうこと関係なくめちゃくちゃ笑えたんです。行き過ぎた愛の持つエネルギーはすごい、と感動しました」――。
M田さんは、ドストエフスキーが好きな女性で、これまでの人生で刃牙を読むきっかけが2、3回あったけど、どの時も5冊ぐらいで挫折したという因縁をお持ちの方です。でもこの仕事のために『グラップラー刃牙』を歯を食いしばって読んでくれて、23巻でローランド・イスタスの「ジョイント・アレルギー」のエピソードをとても気に入り、おもしろさに目覚めてくれました。この時は本当にうれしかったですね。刃牙について食わず嫌いの方は大勢いると思いますが、筋肉の描写は1カ月ぐらいしたら慣れて、むしろ他のだいたいのマンガが虚弱体質に見えてきます。それはそれで取り返しがつかない事態のような気もしますが、BL抜きにしてもおもしろいので、がんばって読んでみてください。
KKP100万点
――ねとらぼ編集部内では範馬勇次郎推しが多いのですが、金田さんの推しキャラクターは誰ですか?
アッ、推しキャラって言いました? いま言いましたよね? 参ったなぁ……推しについて語るのすごく恥ずかしいけど、そこまで問い詰められたらしょうがないですね。
神心会の最終兵器、「身長186.5センチ、体重はうっすら脂肪を残し116キロ」こと、愚地克巳(おろち・かつみ)さんです。
克巳が最初に登場した時のことは、皆さんもはっきり覚えてると思いますが、『グラップラー刃牙』21巻181話ですね、独歩さんの「地下闘技場(あそこ)へ 克巳を送り込む」っていうセリフの後、キャップを目深にかぶって目が見えないという強キャラ感MAXの演出で出てくる。早くもここで1KKPですね。
――すみません、「KKP」とは……?
KPとは、「克巳(K)がかわいくて(K)やばいポイント(P)」ですね、克巳の魅力をワカりやすく説明するために今、私が考案しましたが、皆さんも今日から使ってください。
それで克巳なんですが、登場した次の瞬間には、何の罪もないラガーメンの前歯を抜いて、乱闘になって圧勝する。これラガーメンに訴えられたら普通に前科がつく系の行動だし、こんな人がリアルに周囲にいたら嫌だなって思うんですが、独歩さんが克巳の体型について「うっすら脂肪を残し」って説明してるのがなんかエッチで、気持ちがウキウキしてくるんですね。その後も立て続けに、「セクハラ男を成敗して開放骨折させ、被害者に『やりすぎでは?』的なことを言われて、『やっぱりそう?』と満面の笑顔」とか、養父の独歩さんに対して「才能がないッ」発言とか、胸がキュン……としますよね。新ジャンル「慢心かわいい」ですよね。ここら辺ですでに累計923KKPぐらいありますね。
――(どんどん早口になっている……)なるほど、コメントありがとうございました!
いやまだ話が1%も終わってないんで。本来は、1コマ1コマ解説しないといけないんで。克巳が夜叉猿Jr.(やしゃざるジュニア)をボコってるとき、「桃太郎」を歌ってるのが恥ずかしいとか、そういう痛々しい部分もファンとして見つめないといけないんです。それで個人的に『グラップラー刃牙』で克巳の一番かわいい場面といえば、花山さん(花山薫)と闘った時に、結果としては勝利したけど、実質3回ぐらい負けてるところですね。それで神妙な顔をしてるんだけど、独歩さんに向かって「あなたなんかと違って……天才だから(ハート)」って、まだ慢心してる。これ他の人間だったら神心会門下生100万人に囲まれてタコ殴りにされると思うんですが、克巳だから、なんでこんなにかわいいのかよって、神心会のみんなもキュンとしてしまうんですね。1人1KKPとしても100万KKPですよね。ここらあたりでKKPが限界突破するんで、克巳のかわいさのせいで死人が出てもおかしくない。私もかなり危なかったんですが、ここではギリ、死なずに済みました。そして克巳といえば、何と言っても『バキ』の最凶死刑囚編ですね。ここでの克巳の一挙一動と、おかしな私服が、読者を殺しに来るんですよ。やっぱり皆さんも一番気になってるのは、克巳がどの男とつきあってるのかってことだと思うんですが、『バキ』では、克巳が男とイチャイチャする場面が多発するんですよ。考察とか妄想以前に、もうすでに描いてあるって感じなんですね。こうなるともう、KKPが数という概念を超えてきますね。私のイチオシのカップリングは……
――そろそろコメントだけで4000字超えてしまいそうなので、最後に一言だけお願いします!
あっ、はい。私の本のことはいいんで、『グラップラー刃牙』シリーズを読んでください。現在、第五部『バキ道』が『週刊少年チャンピオン』で連載中です!
『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ』は11月下旬発売。note版(現時点で全18編)から17編を改稿・校正し収録、コマ画像や編注やモブキャラ初出データなども入り、240ページ(約10万字)を予定します。価格は1600円(税別)です。
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