肉弾戦をしないプリキュアはラスボスにどう立ち向かったのか? 「わんだふるぷりきゅあ!」が描いた“大好き”を伝えることの意味:サラリーマン、プリキュアを語る(1/2 ページ)
戦うために変身しなかった「わんだふるぷりきゅあ!」の成功は、この先の「プリキュアの変身」の可能性を大きく広げました。
戦わないプリキュアだからこそ描けた、あなたに「大好き」を伝えるプリキュア。
「わんだふるぷりきゅあ!」は新しい時代のプリキュアを描きつつも、「プリキュアが存在する意味」をクリティカルに表現した作品だったのではないかと思うのです。
※注意:本文中に終盤の展開のネタバレがあります
kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
- これまでのプリキュア連載一覧
「わんだふるぷりきゅあ!」最終回
2025年1月26日、「わんだふるぷりきゅあ!」が最終回を迎えました。
同作は犬や猫がプリキュアになる初の試みに加え、キックやパンチといった「肉弾戦」をしないことや、いわゆる「追加プリキュア」が登場しない(最初から明かされていた)こと、作中で「主人公プリキュアに恋人ができる」展開、そして「ペットの死」を逃げずに描き切ったことなど、多くのことにチャレンジした作品となりました。
中でも「肉弾戦の封印」はプリキュアという作品の“アイデンティティー”に関わるもので、「戦わないプリキュア」がどうなるのか、開始当初は不安な声も聞かれました。
しかし、いざ始まってみると、キラリンアニマルを駆使した「追いかけっこ」風の戦闘シーンはアイデアにあふれた楽しいもので、「新時代のプリキュアアクション」を見せてくれました。
さらに肉弾戦の封印は「プリキュアは敵が怖くて見られない」というお子さまの新規獲得にもつながったようです。
また、「彼氏もちのプリキュア」が誕生する、というある意味衝撃的な出来事も、少し前なら一部の否定の声が出ていたかもなのですが、昨今ではそういった描写も受け入れられる風潮になってきたこともあり、子どもたちだけではなく「いい大人たち」も2人の恋の行方をSNSで応援するという盛り上がりを見せることとなりました。
これら挑戦の多くは、子どもたちはもちろん大人ファンにも大きく支持され、実際「関連商品の売り上げ」も絶好調となりました。
最終決戦で描かれたこと
さて、そんな「わんだふるぷりきゅあ!」ですが、中盤で「人間が絶滅させてしまった狼の復讐」といった重めのテーマが提示されました。
そして終盤、敵のボスである狼のガオウは、実はその友達の「人間のスバル」であったことが明かされます。スバルは狼を絶滅させガオウをあやめた人間への復讐のために、ガオウになりすましていたのです。
終盤になって物語の対立構造が「人間vs絶滅させられた狼」から「人間vs人間」の形に推移していきます。
同作は決して動物を悪者にしません。ガルガルたちは苦しんでいる動物が暴れているだけですし、「映画わんだふるぷりきゅあ!」でも敵は動物ではなく「暴走したプログラム」となっていました。
そしてスバルの「人間を許せない、でも本当に許せないのは俺だ」というセリフに象徴されるように、スバルの憎悪の対象は「人間」という大きな主語から「スバルという個人」の問題に収束していきます。
狼が何を考えているかは分からない。でも「ガオウという個」の気持ちは知ることができます。その思いを伝えるのが「動物の言葉を理解できる」同作の主人公、キュアワンダフルに与えられた役割です。
ガオウの声を届けるために、キュアワンダフルはスバルの元に駆け付け、ガオウの思いを伝えます。
「ガオウはスバルが大好きなんだよ!」
物語の帰結は、「狼が人間をどう思っているのかは分からないけど、あくまで『ガオウ』は『スバル』が大好きである」としたのです。
「わんだふるぷりきゅあ!」は、あくまで「個人」のつながりを物語の中心に置きました。
それは動物を扱う作品としてとても真摯(しんし)な姿勢だと思います。
現実ではしゃべることのできない動物に、「狼は人間を恨んでいませんよ」と勝手なことを言わせることはできません。「勝手に相手の思いを推測して、こうだと決めつけること」をせずに、あくまで「本人」がどう思っているのかに焦点を当てたのです。
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