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彼女が慈善事業から、コロナは茶番、ノーマスクピクニックに変わるまで

著者:加藤文宏、ハラオカヒサ

陰謀論者はいつから陰謀論者なのか

コロナ禍では“コロナはただの風邪” “コロナは茶番” のほかワクチンをめぐる陰謀論がSNSを駆け巡り、驚くほど多くの人を影響下に置いた。

では影響された人は最初から陰謀論者で、“コロナはただの風邪” “コロナは茶番” “ワクチンを打つと5G電波に支配される” という言説を取り入れただけだったのか。

もちろんこのような人もいただろうが、ごく普通の人(にみえる人)が陰謀論に共感して陰謀論者になったと考えるほうが自然であるし、あまりにも多くの陰謀論アカウントが発生したことにもかなっている。

Xとハラオカヒサは新型コロナ肺炎にまつわる陰謀論者が発生する以前から、原発事故についてのデマを信じ込んで不安を煽られ自主避難した人々と関わりをもち、避難後の生活があまりな悲惨なため相談と説得に携わった。(Xとハラオカヒサが合流したのは、このような原発事故デマや誹謗中傷、脅迫に対処するためだった)

この活動を通じて陰謀論に陥る人の傾向を把握し、陰謀論に染まる経緯も理解したつもりだったが、陰謀論に染まった瞬間を目撃していないため「陰謀論者はいつから陰謀論者なのか」との問いに確たる答えを示すことができなかった。

「ノーマスクピクニックとは何だったのか」を追う過程で、運動の旗振り役になっていた一人の女性にXが注目した。

ノーマスクピクニックの関係者の多くが2020年中からイベントの直前につくられたツイッターアカウントの所有者だった。このためコロナ禍に触れ人がどのように変わるか検討する対象には不適格なものが多かった。

しかし、ある女性は2015年から同一アカウントを継続的に使用していた。

適格とする理由は以下の通り。
・大きな心理的インパクトを持った原発事故を経験したあとの様子がわかる。原発事故を経験したことで陰謀論者やデマ扇動アカウントになっていない。
・特定の目的(趣味、社会運動、政治的主張、宣伝など)に使われたアカウントではなく日常のできごとや感情を吐露が追えるものだった。
このようにコロナ禍以前の時期からの感情と行動の推移を観察するのに適している。

「陰謀論者はいつから陰謀論者なのか」「陰謀論者に変わる瞬間にどのような変化が生じるのか」を、この女性(仮にTMとする)のツイートを紹介し、陰謀論が感情と思考を支配して行く流れを考えることにする。

※TMはツイッターアカウントを公開状態にしているためアカウント名もまた公然のものであると解釈できるが、この記事が公開されることによる当人への影響を考慮してアカウント名およびアイコンにモザイク処理を加える。

この記事の趣旨は特定の人物を批判し晒し者にすることにはない。コロナ禍という災厄に見舞われて様々な人が感情だけでなく生活習慣を改めたなかで特定の思考に大きく傾いた人がいて、こうした変移がどのようにして生じたか記録し考察することにある。[特定個人を誹謗中傷する前提で記事を読み進めることを禁じます。また当記事と引用した資料をもとに特定個人を中傷することを禁じます]

よくあるアカウントだった

一日の生活で気づいたことや感情の動きをつぶやいて、おいしい食べ物を食べれば記念や記録をかねて感想を語り、趣味について折々に触れるアカウントは珍しくない。こうしたアカウントにあまり多くないフォロアーがいても見守っているだけで会話が成立していない、というのもよくあることだ。ツイッター本来の使用方法とも言える。

TMはまさにこのようなアカウントだった。2015年にアカウントを開設して以来、2020年4月陰謀論に染まるまでTMは淡々とツイートを続けている。前述の特徴と、繊細で内気っぽい感情を吐露するアカウントと言えば、多くのツイッターユーザーは身近にもいる人々(アカウント)を想像できるのではないだろうか。

TMは繊細で内気なだけではなかった。途上国を支援するNGOの活動を紹介し自らも寄付をしたり、その途上国へも出かけていったことがあるらしい。また癌治療で毛髪が抜けた人へ髪を寄付するヘアドネーションを2回も行っている。まとまった長さに髪を伸ばす必要があるヘアドネーションを2回行っていることから慈善事業への熱意のほどがわかる。

このようなTMの人となりがわかるツイートを紹介する。ツイッターのスクリーンショットなので時間が下から上へ流れている点を注意してもらいたい。

2019年1月4日から7月1日───
TMのツイート数が約半年でこの程度であるのを憶えておいてもらいたい。

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2019年7月1日から12月11日───

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こうしたTMのツイートから彼女を陰謀論者であるとするのは無理がある。

2019年は離れて暮らす父親を気遣い、北海道から実家がある九州に帰りたいとするツイートが印象的だ。そして、これが1年分のツイート量である。

きっかけと人脈

TMの生活もまた私たちと同じように訳がわからないままコロナ禍の時代へ突入する。

以下に、2月から4月にかけての全ツイートを紹介する。時系列を理解するには、期間ごとの画像最下段のツイートから上にむかって読む必要がある。

2020年1月1日から1月10日───
2020年の正月は平和なうちに訪れている。

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そしてしばし沈黙が続く。1月は以下のようなできごとがあった。

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2月11日から3月4日───
新型コロナ肺炎の危機感が日本全土を覆い始めた時期。マスク、トイレットペーパー、消毒薬の不足がはじまっている。ツイートが数日おきであり、これがTMのツイート習慣だったことに注目。

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3月27日から3月28日───
新型コロナ肺炎についてはじめて具体的なツイートをしている。防疫について精神論に傾いた内容を語っているが、この種の発言は特に珍しいものではない。スピリチュアルな傾向から「瞑想」の呼びかけがある。

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2月から3月は、次のようなできごとがあった。北海道は日本ではじめて緊急事態宣言を経験した。

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4月2日から4月11日───
2020年4月8日、TMははじめて陰謀論に触れた。不安を背景にしたオカルト的な話題を陰謀論へつなげるYouTubeの番組から陰謀論に入っている。「他にもいくつかの」と発言していることからチャンネル内の番組を梯子したのがわかる。即座に内容を鵜呑みにしている。
強気、高揚感といった大きな感情の変化がある。饒舌になっている。

4_の1

4月12日から4月13日───
あきらかにツイート数が増える。ビル・ゲイツについての言及がある。他者との会話に陰謀論の影響があらわれている。

4月の2

4月13日から4月15日───
他者との会話の増加。強気、高揚感、饒舌さが続く。

4月の3

4月15日から4月16日───
後々相互に強い影響をもつ陰謀論アカウントとの繋がりが生じる。「今日も生きて目覚めることが」できた、「どんどん良くなる」に注目。

4月の4

4月19日から4月20日───
陰謀論アカウントとの交流が盛んになる。

4月の5

4月20日から4月21日───
「純粋に私がやりたいこと」発言に注目。とてもあたりまえな日常、多くの人が望んでいる日常を列挙している。TMが陰謀論を信じる背景にある願望だ。

4月の6

4月24日から4月25日───
ツイートにあるカンボジアは、彼女が支援しているNGOが活動している国。発言がかなり支離滅裂になっている。「怖がるから狂犬が寄ってくる」から「ウイルスも怖がる人に集まる」へ因果関係を結びつけるのは以前からの彼女の傾向と思われる。論理が破綻しているが、このような傾向を持つ人は皆無とは言えない。

4月の8

4月25日から4月28日───
同じ陰謀論を信じる者同士が共闘しているとする意識があり、陰謀論者の典型が現れている。「相当なことが無いと信用することが難しい人間」と自己分析しているが陰謀論はYouTubeの番組を見ただけであるし、寄ってきた陰謀論アカウントは会話ひとつで信用している。「相当なこと」はかなり恣意的である。
さまざまなできごとや陰謀論を統合し独自な解釈をはじめている。

4月の9

4月28日───
4月最後のツイート。

4月の10

4月は次のようなできごとがあった。

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他のアカウントと交わした会話の一部を紹介する。TMはアイコン下に下線。

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4月の5の1

陰謀論はYouTubeからやってきた

過日、ワクチン陰謀論を盛んに発信している人の傾向を探っているとき、彼らの情報系統に垂直(上下)方向の関係だけでなく水平方向の広がりもないことに気づいた。

ワクチン陰謀論を流す有名アカウント(フォロワー数が多く、たびたびツイートが反ワクチン界隈以外でも取り上げられるインフルエンサー)を除いて、ワクチン陰謀論を下支えし情報を盛んに消費していると思われるアカウントのうち初期から活動している100件をサンプリングした。

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それぞれが他のどのアカウントと会話したりRTなど交流があるか調べると、1つのアカウントが固有のコロニーをかたちづくって、コロニーとコロニーを結びつけるハブ的役割をするアカウントがいないか、いても限られた人が限られたコロニー同士の間に存在するだけだった。

またサンプリングしたアカウントによってインフルエンサーと目されるアカウントが発したツイートを取り上げられるのは稀で、取り上げてもインフルエンサーから情報を得ている様子が乏しい。独自に情報を入手して独自に拡散して独自に消費している傾向がある。

巨大な反ワクチンアカウント、デマアカウントがある以上、彼らの言動が重要な意味を持っているのは間違いないが、反ワクチンの旗手となって多数の人々を扇動しているといった印象とやや異なる構造がある様子だ。

ここでも「陰謀論者はいつから陰謀論者なのか」という疑問が生じるし、「どこで情報を収集しているのか」も不明なのだった。

TMが陰謀論に目覚めた過程からYouTubeが重要な意味を持っていることがわかった。ともすると百家争鳴状態にあるツイッターが陰謀論の温床になっているように考えがちだが、元ネタはYouTubeが供給し、ツイッターは仲間内の交流、共感や同調、連絡のため使用されていると見て間違いないように思われる。

1.不安や疑問を抱く → 2.検索する。おすすめされる → 3.YouTubeの番組に出会い視聴する 4.感情が動かされ、類似の番組を更に視聴する(チャネル内で梯子する) → 5.陰謀論を信じる 6.YouTube内やSNSで同好の士がつながる

このようにして陰謀論が広がり、陰謀論者のコロニーができあがるのではないか。(今後、詳細に検証する必要がある)

誰もが陰謀論者になりうるのか

Xとハラオカヒサが、原発事故にまつわるデマに扇動された自主避難者の相談にのり帰還を説得していたことは既に説明した。この過程だけでなく、それ以前に反原発系の人々やデマ元から嫌がらせだけでなく脅迫を受け、警察や弁護士に救済を求め法的対処をとってきた。

こうして騙された側の自主避難者だけでなくデマや陰謀論を流す人々の実名から境遇まで把握できたのは貴重な経験だった。

デマを鵜呑みにしたり陰謀論にどっぷり浸かる人、信じてはいない陰謀論で他人を騙し続ける愉快犯は、社会または家族から切り離された孤独な人物が多かった。

ある女性は、マスコミやミニコミの世界で当人が望んだ華やかな存在になれなかっただけでなく、年齢が離れた配偶者が下半身麻痺になり自己顕示について鬱屈を抱えていた。

ある男性は、親の家と資産を弟と相続して二世帯住宅に同居していたが、社会との関係が途切れ弟夫婦との関係も切れかかって部屋に篭って生活していた。

ある女性は、原発事故をめぐって子供の教育ほか家庭の運営で配偶者と意見が対立したあと亀裂を深め続け、周辺の人々をも蔑んで孤立していた。

コロナ禍で陰謀論に染まった人々に、このような孤立した人、鬱屈を抱えた人がかなりの割合で含まれているのではないか。

TMが新型コロナ肺炎への不安と危機感から陰謀論に飛びついたのは、もともとスピリチュアルなものに興味があったり、正義感や献身の精神が災いしたように見える。だが気になるのは、北海道で暮らし九州の実家を懐かしがるツイートの比率が高かったことや、匿名性のためだったかもしれないが生活の広がりを伝えるツイートが少なく、SNS上での他者との会話もすくなかった点だ。

孤立または孤独に、極端な言説が入り込む隙はなかったか。陰謀論に触れてからの熱狂的な高揚、饒舌、同好の士との共闘には、本来のTMが求めていたポジティブで理想的な自分の姿があったのではないかと思わざるを得ない。

このテーマは以後、さらに考察しつづけようと思う。

今回は触れなかったが、このコロナ禍に関西から各地へ遠征してノーマスクの宴会を催し続けている人物がいる。回数といい活発な移動といい、街宣活動や布教が目的とはいえ個人の行動としては極端すぎる気がする。異常なほど強い高揚感に支配されているのではないか。

2020年のGWに大所帯のノーマスクBBQを多摩川で行った横浜の人物は、批判を浴びたあとも同じ趣旨で都内と神奈川県内でパーティーや食事会、スポーツイベントを休むことなく主催し続けている。陰謀論とは関係ないが、やはり特有の高揚感の発露を見る思いがする。

もしかすると、孤独・孤立と高揚感に陰謀論、反自粛について考えるヒントがあるのかもしれない。

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加藤文宏
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