活版印刷ヒストリア。

私の勤めてる会社は戦後まもなく創業で活版印刷をやっていた会社なわけですが、年末に会社の大そうじやった時に出てきたブツをSNSに流したらそこそこ反響あったのでちょっとまとめて公開しておきます。ホラなんか今活版ブームらしいし。ついでにプリプレスの歴史をちょっと概観してみたい。まあ私も当時の状況を知ってる訳ではないので間違いは多々あるかも知れません。適当にツッコミつつ軽い読み物としてお楽しみください。

これが活版父型。活字の大元です。父型を持っていた会社は全国的にもそう多くはなく、ウチは数少ないそういう会社のひとつだったようです。この活字を作ったのは精興社書体と同じ「君塚樹石」とのこと。
※正確にはこれはベントン彫刻機の「パターン」で、本来の父型とは別、というツッコミをいただきました。ただ、「ベントン母型父型彫刻機」なんていうワードも引っかかるので、混用はされていたかも。
※さらに補足。ベントン彫刻機は最初は父型を作るもので、それがやがてパターンから直に母型をつくるものになったとのこと。とするとこれが大元には間違いなさそう。

こちらが活版母型。暗かったのでちょっとブレてますね。すいません。
母型は活版父型を「ベントン彫刻機」という機械でなぞりながら縮小して彫り込んで作ります。ベントン彫刻機はもしかしたら倉庫にあるかもしれないけどまだ探してない。

昔は父型から母型を作ることをメインの仕事にしていた会社もあり、有名なのは「岩田母型製造所」さんでしょうか。今の株式会社イワタです。

で、活版母型をもとに鋳造機で活字を作るわけですが、活字そのものは見当たりませんでした。当時は母型があればいつでも活字は鋳造できるという意識があったために活字そのものは保存しなかったのかもしれません。なお鋳造機ももしかしたらまだあるかもしれない。そのうち見てみます。

いわゆる「組版」は、文選によって選び出されたそれぞれのページに必要な活字を組み上げる作業です(植字ともいう)。版面が完成するとその状態で一度刷り作業が行われ、刷られたものが校正刷りとして出版社に送られます。で、赤字が入ったのが戻ってきて組み直す。何度かそれが繰り返されて「校了」になると、濡らした特殊な紙を版の上に載せて熱と圧力を加え、「紙型」を作ります。

この「紙型」に溶けた鉛を流し込んで鉛版を作り、この鉛版を使って実際の印刷作業が行われたわけです(版がすり減ったらまた紙型から鉛版作って刷る)。「紙型」は東日本大震災の時までは結構大量に保存してたらしいのですが、地震をきっかけに処分してしまったとのこと。アレ産業廃棄物扱いらしいのでちょうどいい機会だったのかも。

で、これが手動写真植字機の「文字盤」。写真植字、「写植」は、活版印刷の後期に平行して存在していたテクノロジーですが、本文印刷では活版が優勢だったよう。写植の最大のメリットは文字を自由に拡大縮小できることですが、本文組みではほぼ文字サイズ固定だったのであまりメリットがなかったのでしょう。なのでウチの会社には手動写植機はありませんでした。これは大阪の大石さんとこから貰ってきたヤツ。書体は写研の本蘭明朝です。私の実家には手動写植機あったんですけどね。この書体もあった。

こちらが電算写植機。「写植」の名前で呼ばれてますが、実質的にはPCのアーキテクチャを使った「専用機」です。なおこいつはモリサワのMK-110。さすがにこいつで新しく本を作ることはありませんが、データ抜き出し用にまだ生きてます。

電算写植は2000年代初めにはほぼ汎用コンピュータにソフトウェアをインストールして使う「DTP」に置き換わりますが、それまでの間、日本の印刷物はこの電算写植機で作られていました。2000年代初頭、日本でのDTPのさらなる普及を目指していたAppleとAdobeが突き当たっていた壁は、ひとつが日本語の(特に縦組みの)組版、もうひとつが電算写植機に対しての文字の数の不足だったようです。当時はQuarkXpressがDTP組版アプリのスタンダードで、かなり工夫しないと縦組みの組版が難しかったのは私も記憶しています。

(まあSMI Edicolorなどはあったとはいえ)縦組みで日本語の伝統的な組版ができるAdobe InDesignが普及して初めて電算写植機の完全な置き換えが可能になったと言えるでしょう。文字の数に関しては、2000年に最初のバージョンが策定されたJIS X0213を軸にして写研の文字セットを取り込んだ「Adobe-Japan1」規格のOpenTypeフォントが普及することで、電算写植機で使われていたのと同程度の文字を使えるようになりました。かくして電算写植機は歴史の中に消えていくことになったわけです。
※正確にはApple Publishing Glyph Set(APGS)がJIS X0213の領域をカバーし、Adobeが最初に出したAdobe-Japan1-4は完全にはカバーしてなかったとのことのよう。APGSを追認したAdobe-Japan1-5で初めてカバーしたことになるのですね。なお現在のAdobe-Japan1規格はAdobe-Japan1-6まであり、約23000の字形をフォローしています。

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