血糖値を下げるにはどうしたらいいか。糖尿病専門医の矢野宏行さんは「飲み物には注意が必要だ。選び方や摂取方法を間違えると、食べ物以上に血糖値を上げることにつながりかねない」という――。

※本稿は、矢野宏行『薬に頼らない糖尿病の大正解』(ライフサイエンス出版)の一部を再編集したものです。

コーヒーには血糖値を下げる効果が

みなさんの中にはコーヒーがお好きな方が多いと思いますが、コーヒーに含まれるポリフェノールも血糖値を下げる作用があることが分かっています。

コーヒーと糖尿病の関連性を調べた研究では「コーヒー消費量が240ml/日以上の人はコーヒーを飲まない人よりも血糖値が低い(※1)」という報告があります。

ただし、コーヒーが糖尿病に良いからと言って甘いカフェオレや砂糖入りの缶コーヒーを飲むのはお勧めできません。コーヒーはブラックあるいは砂糖なしで牛乳を少量加えるなどして飲むとよいでしょう。なお、コーヒーに含まれるカフェインには睡眠を妨げる作用があります。遅くとも就寝の4時間前までに飲むようにしてください。

また、糖尿病にはお茶類もお勧めです。

緑茶に豊富に含まれているカテキンには糖尿病を予防する作用があることが分かっています。研究によると、「緑茶を週1杯以下しか飲まない人と比べて1日6杯以上飲む人は糖尿病になるリスクが33%下がった(※2)」という報告があります。

なお、カテキンには内臓脂肪を減らしたり、コレステロールや中性脂肪を下げたりする働きもあるので積極的に飲むとよいでしょう。ただし、緑茶にもカフェインが含まれているので摂取時間帯には注意してください。

糖尿病にはコーヒー、緑茶、ルイボスティーがお勧め。
糖尿病にはコーヒー、緑茶、ルイボスティーがお勧め。[出所=『薬に頼らない糖尿病の大正解』(ライフサイエンス出版)]

ルイボスティーにも予防効果がある

また、馴染みのない方が多いかもしれませんが、桑の葉茶やルイボスティーも糖尿病の予防効果があることが知られています。

桑の葉茶は食後高血糖を抑えるDNJ(デオキシノジリマイシン)を豊富に含んでいるので食前に1杯飲むのがお勧めです。ルイボスティーはアスパラチンという抗酸化物質が体内の活性酸素を除去し、糖尿病の発症を抑える作用があることが分かっています。

マウスを対象にした研究ですが「ルイボスティーの抽出物を投与すると血糖値が下がった(※3)」という報告があります。

ただし、ルイボスティーにはマグネシウムが多く含まれており、飲み過ぎると下痢になる恐れがあるので注意してください。摂取の目安としては1日にペットボトル1本(500ml)程度にするとよいでしょう。

糖尿病に良い飲み物について解説してきましたが、これとは反対に糖尿病に良くない飲み物もあります。これについて解説していきたいと思います。

「野菜ジュース」は健康にいいのか

みなさんの中には健康に気を使って朝に野菜ジュースを飲んでいるという方も多いのではないでしょうか?

確かにこれらの飲み物は食物繊維やビタミン、ミネラルが含まれ、健康に良いと言われています。しかし、野菜をジュースにしてしまうと製造過程でこれらの栄養が失われてしまうことをご存じでしょうか?

野菜ジュースに含まれる食物繊維には血糖値の上昇を緩やかにする作用があります。しかし、実際には野菜ジュースの原料の野菜に含まれる食物繊維が製造時に野菜の絞りカスとして取り除かれてしまいます。したがって、野菜ジュースは糖尿病に良い栄養素が含まれるという以上に大量の糖分によってかえって血糖値を上げてしまうのです。

糖尿病患者にとって「もっとも危険」な飲み物

これは野菜ジュースと同様に健康的だと思われているフルーツジュースでも同じ現象が起こっています。研究でも「フルーツジュースを飲むと糖尿病のリスクが上がる(※4)」ことが分かっています。

これを聞いて「ジュースに含まれる糖分が良くないのなら、カロリーや糖質ゼロの飲み物を飲めばいいのではないか」と思われる方がいるかもしれません。

しかし、これらの飲み物に含まれる人工甘味料は糖尿病患者さんにとってもっとも危険と言っても過言ではありません。

人工甘味料にはアスパルテームやスクラロースなどさまざまな種類がありますが、砂糖と比べて数百倍の甘味を感じさせる作用があります。そのため、かつては人工甘味料は甘味を感じるのにカロリー摂取量が少なくて済み、血糖値を上げるグルコースも含まれていないため、糖尿病や糖尿病予備軍の人にお勧めできる食品と言われてきました。

糖尿病には糖分が多く含まれたジュースや人工甘味料が含まれた飲み物は避けたほうがよい。
糖尿病には糖分が多く含まれたジュースや人工甘味料が含まれた飲み物は避けたほうがよい。[出所=『薬に頼らない糖尿病の大正解』(ライフサイエンス出版)]

「糖質ゼロ」なのに、なぜ…

しかし、研究では「人工甘味料が含まれたソーダの摂取によって日本人男性の糖尿病リスクが上昇した(※5)」ことが分かっています。健康に良いはずの人工甘味料なのになぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか?

通常糖質を摂取すると、それが合図となってインスリンが分泌され、糖質をエネルギーへ変えたり、脂肪として蓄えたりします。しかし、人工甘味料の場合は食後の血糖値上昇が起こらないため、脳がエネルギーをさらに摂取するように促してしまうのです。その結果、かえって糖尿病や肥満といった生活習慣病を誘発してしまうことにつながってしまいます。

また、最近の研究では、人工甘味料が人間の大腸や小腸に住み着いている腸内細菌叢に悪影響を及ぼしているということが分かりました。研究によると、「人工甘味料を投与したマウスは腸内細菌叢のバランスが乱れ、空腹時血糖の異常を引き起こす(※6)」ことが分かっています。したがって、糖尿病になったら、人工甘味料をなるべく控えるようにしましょう。

お酒を飲みたいなら蒸留酒を選ぶ

また、みなさんの中にはアルコール飲料で晩酌するのが楽しみだという方がいるかもしれません。アルコール飲料と言うと、健康全般に良くない印象がありますが、それ自体は血糖値を上げる物ではありません。

オレンジ色の水
写真=iStock.com/Luca Rossatti
※写真はイメージです

しかし、アルコールは肝臓内のグリコーゲンをブドウ糖に分解する働きがあるため、一時的に血糖値を上げる作用があります。加えて、ビール、日本酒、ワイン、カクテル、果物の入ったサワーなどのアルコール飲料には、糖質がたくさん含まれているのでお勧めできません。

もし、アルコール飲料を飲むのであれば、糖質が含まれていないウイスキーや焼酎を選び、ウイスキーならダブルで1杯(60ml)、焼酎ならロックで1杯(100ml)程度、アルコール換算で20gを1日の目安とするとよいでしょう。

ここまで糖尿病に良くない飲み物について見てきましたが、実は血糖値を下げるには水分の摂り方にもポイントがあります。これについて解説します。

なぜ「こまめな」水分補給が大事なのか

大学病院に勤務していた頃、急激な血糖値上昇で緊急搬送される糖尿病患者さんが度々いらっしゃいました。とくに脱水症状が増える7〜8月の暑い時間帯はこうした患者さんが増える傾向にあります。そこで、糖尿病に良い水分の摂り方を具体的に紹介したいと思います。

脱水症状は気温や湿度が高くなることで体内の水分量が不足して起こります。体内の水分が5%程度失われると、脱水症状が起こる可能性が高まり、実際に脱水症状になると血液中の水分も不足し高血糖状態になります。

ちなみに、脱水症状を予防するために水分を一気に摂る人がいますがこれはお勧めできません。水分がしっかりと吸収されないばかりか体に負担がかかります。したがって、脱水症状を予防するのであれば、喉が渇いたと感じる前の小まめな水分補給が大切です。脱水が続くと動脈硬化の原因になり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高めるので注意してください。

炭酸水にスプーン一杯加えるだけ

また、夏の暑い時期や運動の際などにスポーツドリンクで水分補給をする方がいるかと思いますが、これには大量の糖分が含まれ、血糖値を大幅に上げるので控えてください。

矢野宏行『薬に頼らない糖尿病の大正解』(ライフサイエンス出版)
矢野宏行『薬に頼らない糖尿病の大正解』(ライフサイエンス出版)

実は血糖値が上がるとさらに喉が渇くようになります。すると、喉の渇きとスポーツドリンクによって高血糖のループを繰り返すことになるので注意してください。なお、冷た過ぎる水分も交感神経が刺激されて胃腸の働きが低下するのでお勧めできません。水分補給をするのであれば、常温の飲み物を選ぶようにしましょう。

また、食事の際に水を飲む方が多いかと思いますが、糖尿病の方は毎食30分前にコップ1〜2杯の水を飲むのがお勧めです。これによって食前に適度な満腹感を得られ、食事の量を抑えることができます。

研究では「食事の30分前に毎回必ず水分を摂ったところ12週間で体重が4.3kg減少した(※7)」ということが分かっているので、肥満気味な方は試してみるとよいでしょう。

とはいえ、味のしない水を毎食前に飲むことにストレスを感じる方もいるかもしれません。そこで、水を炭酸水に置き換えて、1杯の水に対し、大さじ1杯のリンゴ酢を加えてみましょう。リンゴの風味とほのかな酸味で水が飲みやすくなるはずです。

アップルサイダービネガー
写真=iStock.com/Madeleine_Steinbach
※写真はイメージです

研究によると、「リンゴ酢を毎日摂取すると血糖値を下げる(※8)」ことも分かっているので試してみてください。

※1:Kabeya Y, et al. Cross-sectional associations between the types/amounts of beverages consumed and the glycemia status: The Japan Public Health Center-based Prospective Diabetes study. Metabol Open 2022; 14: 100185.
※2:丸山広達ほか.緑茶・コーヒーの糖尿病予防効果―JACC Studyの結果から.糖尿病 2008; 51: 471-472.
※3:Sasaki M, et al. A Beneficial Role of Rooibos in Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-Analysis. Molecules 2018; 23: 839.
※4:Muraki I, et al. Fruit consumption and risk of type 2 diabetes: results from three prospective longitudinal cohort studies. BMJ 2013; 347: f5001.
※5:Sakurai M, et al. Sugar-sweetened beverage and diet soda consumption and the 7-year risk for type 2 diabetes mellitus in middle-aged Japanese men. Eur J Nutr 2014; 53: 251-258.
※6:Suez J, et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 2014; 514: 181-186.
※7:University of Birmingham. A bottle of water before each meal could help in weight reduction, researchers say. News archive (August 26, 2015).
※8:Jafarirad S, et al. The improvement effect of apple cider vinegar as a functional food on anthropometric indices, blood glucose and lipid profile in diabetic patients: a randomized controlled clinical trial. Front Clin Diabetes Healthc 2023; 4: 1288786.