山形県朝日町にある町立朝日中学校の中には、民間企業がオフィスとして利用する教室があります。廃校ではなく、現役で稼働中の公立中学校の一部を会社で間借りするお話です。
空き教室を貸してください
僕が代表を務める『地域振興サポート会社まよひが企画』がある山形県朝日町は、山形市から西側にある人口5,800人ほどの小さな町です。中学校は町に1校で、昔は各学年最大4クラスあった時代もあったそうですが、現在は人口減少で1クラスずつしかありません。空き教室が目立ちます。
「この空き教室を、まよひが企画のオフィスとして貸してもらえませんか?」
そんな打診をしてみたのは2021年の3月のことでした。職場体験や職業講話で、中学生に自分の仕事の話をすることは何度もあったのですが、学校の中に自分のオフィスがあれば、いつでも見学ができるし、先生とも何か新しい仕事ができるかもと思っての提案でした。
弊社は地域振興のコンサル会社で、ゆるキャラ運営からドキュメンタリー映画づくりまでなんでもやっている会社ですが、特に固定された場所にこだわる必要はありません。国の進めるギガスクール構想のおかげで、学校内の通信環境は良く、冷暖房も完備の学校はオフィス空間として適していました。
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コミュニティ・スクールを活かそう
公立の中学校の教室を営利企業が間借り。この言葉だけだと突飛な提案に聞こえますが、それを支える考え方に「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」という仕組みがあります。
コミュニティ・スクールを簡単に説明すると、学校と地域が協力して、より良い学校づくりを目指す仕組みのことです。ポイントは主に3つ。
地域にとって重要な存在である「学校」の運営に、先生だけでなく地域住民も参画することで、地域と連携がとれた学校をつくっていこうという取り組みです。
朝日町ではこのコミュニティ・スクールを取り入れており、僕も中学校の運営協議会の委員でした。委員の活動を通して、空き教室の存在や、先生の業務の多さなどをリアルに知ることになり、せっかくコミュニティ・スクールをしているので、ぜひ地元企業として何かしたいので、空き教室を使わせてもらえませんか? という提案になったのです。
ルールと学校へのメリット
学校側も、前例がまったく無い提案でしたが、校長先生や町教育委員会も一蹴はせず、協議を重ねた結果、2021年の11月からプレ利用、2022年の5月から正式にオフィスとして利用をさせてもらえることになりました。ルールは大きく2つ設けました。
1つは、仕事関係のお客様をオフィスに通す際は、一度、職員室に顔を出して報告すること。
2つ目は、生徒を商業目的に利用しないこと。
としました。安全対策としてこれが十分なのかは、まずはこれでやってみながら見ていこうとなりました(現在でも大きな問題は起こっていません)。
『まよひが企画』から学校側に提供できるサービスとしては、先生の授業相談に無料対応することをお約束しました。
教職員の方の多くは町外から来ている方が多く、郷土学習や探究活動など、地域を知っていないと進めにくい授業があります。そういった時に、気軽にカリキュラム相談ができるのが、地域振興サポート会社を掲げている弊社の強みなのです。
田舎でサードプレイスは難しいからこそ
また、月と木の放課後は生徒にオフィスを無料開放することにしました。
部屋の中央に配置した回転式の本棚にはボードゲームや書籍も多数揃え、自習・交流スペースとして生徒たちは自由にオフィス内を利用できます。友達との楽しい時間を過ごしたり、僕や仕事関係で来ている方とも会話が交わせる場づくりは、中学生にこれまでになかった新しい居場所を提供することを狙っての取り組みです。
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一般的にはこういった居場所のことを「サードプレイス」と言うのでしょうが、過疎地に住む中学生にとっては学校の外にサードプレイスをつくったとしても、そこに行くための移動手段がなく、自分の意志で校外の居場所を求めることは難しいというのが実情です。
家でも学校(職場)でもない第3の居場所をつくるのが難しいからこそ、サードプレイスが学校に近づくのはどうだろう? そんなひらめきから、この日本ではじめての公立中学校内オフィスを「スキマクラス 2.5組」と名付けました。
「セカンドプレイス」と「サードプレイス」の間の存在、空き教室というスキマにできた「2.5プレイス」はこうしてスタートしたのでした。
次回は、このスキマクラスに散りばめた仕掛け付き家具の数々や、新しく生まれた授業などをご紹介します。