「強い農林水産業」と「美しく活力ある農山漁村」の実現に向け、農山漁村の地域資源を引き出すことで地域の活性化や所得向上を目的にした取組が日本各地でおこなわれています。農林水産省では、その優良な事例を「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」として選定し、全国へ発信しながら他地域への展開を図っています。第11回となる令和6年度は、「全国496件」の応募の中から「30件(27団体と3名)」が選定されました。その中から、今回紹介する特別賞は審査にあたった10名の有識者懇談会委員がそれぞれ選出し、命名した賞です。ソトコトオンラインでは、各受賞者を取材し、取組の内容やこれからの目標について伺いました。<前編はこちら>
パリ五輪に勝るとも劣らない活躍・ジュニア賞
林良博座長(国立科学博物館顧問、東京大学名誉教授)
群馬県立尾瀬高等学校
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尾瀬ヶ原を中心とした周辺環境フィールドで学べる尾瀬高校の「自然環境科」
群馬県沼田市にある『群馬県立尾瀬高等学校』は、平成8年に尾瀬ヶ原を中心とした周辺環境をフィールド学習で学ぶ「自然環境科」を全国で初めて設置しました。「自然環境科」では、フィールドワーク中心の「探究的な学び」を受けたい子どもたちを全国各地から募集しています。今回「自然と共生できる人づくりが地域を支える!」という理念が評価され、特別賞を受賞しました。
「自然環境科」ができたことで、学校や地域に起きた変化
「自然環境科」ができたことで全国から子どもたちが集まり、その生徒たちにとって沼田市と隣接する片品村が「第2のふるさと」になることで、新しい関係人口がつくられています。学校のなかでも普通科の地元生徒と自然環境科の生徒がいい具合に化学反応を起こしていて、学校が「人づくり」はもちろん、新しい価値を創造する拠点として機能し、「地域づくり」にも貢献しています。
地元住民の皆さんが全国から来る学生を自然に受け入れていることや、「自然環境科」が体験型の環境教育として発展していることも「自然環境科」ができたあとの変化として大きなポイントになっています。
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「自然環境科」卒業生との関わりと今後の展開
「自然環境科」の卒業生は今もその教育を支えてくれており、例えば環境省や片品村役場等の職員として関わっている場合や、卒業生が地域活性化を担う人材として「自然環境科」の探究学習等でレクチャーをしているなど、快く後輩たちに自らの経験を伝えてくれています。
今後の展開については、VRゴーグルによる自然体験、サーモグラフィー搭載ドローンによる動物生態調査など、DXによる地域活性化と自然保護活動の展開が進展中です。それ以外にも姉妹校である台湾・高雄市の高校との相互訪問や中国・上海市の高校とのラムサール条約湿地研究交流など、国際交流活動を通じた関係人口づくりにもさらに力を入れていく予定です。
農泊賞
藤井大介委員( (株)大田原ツーリズム代表取締役社長、(株)ファーム・アンド・ファーム・カンパニー代表取締役社長)
80%山のまちを元気にする協議会
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八百津町ファンになってもらうべく、関係人口づくりに奔走
岐阜県・八百津町にある『80%山のまちを元気にする協議会』は、宿泊関係者、飲食関係者、体験提供者からなる12 団体で協議会を設立し、「農泊」事業に取り組んでいます。
協議会では体験イベントや地元住民による町内ガイドツアーを通して、町を訪れた他所の人たちが地元住民との触れ合うことで八百津町のファンになってくれるような関係人口の創出に取り組んでいます。今回「大自然に育まれた八百津『あるべき姿』を考える」ことが評価され、特別賞を受賞しました。
八百津町ファン、すなわち関係人口づくりのための企画づくりでは、地元の事業者の皆さんと対話を重ねながら企画を練っています。事業者ごとではなく、地域連携を意識した企画づくりを検討することで必然的に昔、そして今の八百津町の話になり、よりよい「八百津らしさ」を引き出すきっかけになっています。
熱烈な八百津町ファンになってもらうために
実際に八百津町に訪れた方のなかには、「癒されたいので、また来ます!」という方もいて嬉しかったです。もちろんその言葉は八百津の自然に向けられた言葉か、出会った地元の人たちや口にした食べ物に向けられた言葉かはわかりません。しかし、日常とは少し違う場所に来たことでリフレッシュしていただける場所として、八百津町を覚えてくれる人が増えていくのは嬉しいことです。
八百津町を楽しんでもらうために、スムーズな進行でキッチリとしたタイムテーブルや仕組みづくりも大切だとは思いますが、せっかく八百津町に来てもらったのなら、地元の方や生活にふれることができたという実感のある体験を提供したいと考えています。
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さらに情報発信と解像度をあげていく
私たちは引き続き、八百津町の歴史・文化的な関連や共通点がある地域との交流・連携をしながら、地域の魅力を発信していきます。また遠方からの旅行者が「八百津」に来る理由をイメージできる発信や仕組みづくりを更に進めて行きます。八百津にあるストーリーを丁寧に説明し、都市部やSNSなど、ストーリーを受け取れる場所へ発信することで誘導は可能だと考えています。これまで企画した内容の解像度を上げながら、「八百津」の発信の範囲を広げていきます。
里山里海賞
三國清三委員( (株)ソシエテミクニ代表取締役)
北海道積丹町におけるブルーカーボン創出プロジェクト協議会
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ウニの餌となる藻場を取り戻すために立ち上がった
北海道・積丹町の『北海道積丹町におけるブルーカーボン創出プロジェクト協議会』は、気候変動の影響で「磯焼け」が拡大した海の、ウニの餌となる藻場の減少や漁獲量の減少を憂慮し、平成21年に設立されました。今回「ウニから始まるSDGs」の取組が評価され、特別賞を受賞しました。
このプロジェクトにより藻場再生活動に対する漁業者の自信と活動意欲が向上し、ウニ殻を活用する循環推進事業として地方創生事業に発展するなど、平成21年に始まった活動は、どんどん発展を続けています。
持続可能な漁業生産を可能にするための活動
プロジェクトの成果が実感できたのは、令和2年5月にウニ殻肥料による藻場再生効果を確認できたときと、令和5年度の「Jブルークレジット®認証・発行」や各コンテストでの受賞のときでした。プロジェクトがきっかけで、藻場再生活動に対する漁業者の自信と活動意欲の向上も明らかに見られています。私たちが採用している「積丹方式」といわれる手法についても、情報提供や講演、現地視察の依頼が全国から多数舞い込むなど注目を集めています。
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「ウニから始まるSDGs」で実現する豊かな海づくり
この「ウニから始まるSDGs」でいちばん意識していることは、持続可能な漁業生産による地域経済の推進です。循環型再生産によって気候変動対策、特に再生藻場によるCO2吸収量はブルーカーボン・クレジットの取引にもつながります。結果的に「ウニから始まるSDGs」は、生物多様性(豊かな海づくり)にも貢献することになります。
さらにこのプロジェクトでは、コンブを羊の飼料にする事業を畜産会社と連携して推進したり、『SHAKOTAN海森学校』を立ち上げて水産業に関わる積丹町の取組を体験型プログラムにしたり、地域の魅力向上を図る総合的な学びの場を設けたり、「ウニから始まるSDGs」の拡大と浸透に努めています。
お宝食料・料理継承アタック賞
向笠千恵子委員(フードジャーナリスト、食文化研究家、郷土料理研究家)
大正町市場協同組合
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「土佐久礼かつお」で、「久礼大正町市場」が県内屈指の観光スポットに!
高知県・中土佐町の『大正町市場協同組合』が運営する久礼大正町市場では、鮮魚店の目利きでカツオの赤身の選別を徹底し、質の良いカツオを提供。また、「NO KATSUO NO LIFE(カツオなしでは生きていけない)」を合言葉に、「釣るプロ」「売るプロ」「食べるプロ」が揃う三位一体の「土佐久礼かつお」のブランド力を強めていきました。この結果、現在では年間15万人以上が訪れる県内屈指の観光スポットになっています。今回、このカツオの取組が評価され、特別賞を受賞しました。
このプロジェクトを通じて、世の中に「久礼のカツオ」を取り上げていただく機会が増え、商店街のメンバーや住民の皆さんにも「久礼はカツオの町だ」という自信が生まれてきています。
「カツオ英才教育」や「カツオHANDBOOK」で文化を広める
久礼大正町市場は、カツオの一本釣り漁が400年も続く小さな漁師町にあります。町のカツオ文化を広めるため、町内の小中学校でカツオの選別などをテーマにした特別授業を開催しています。また「カツオHANDBOOK」を制作し、生態や一本釣り漁の歴史、商店街で味わえる多彩なカツオ料理を紹介しています。
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なぜ「久礼大正町市場」のカツオは美味しいのか? その理由は「釣るプロ」の漁師、「売るプロ」の鮮魚店、「食べるプロ」の町民たち、それぞれのカツオに対する情熱にあります。
カツオ文化とブランドをさらに守るために
「カツオ愛」に根差した、400年以上続く歴史あるカツオ文化の存続は私たちの使命です。一本釣り漁の技術だけでなく、それを支えてきた食文化も大切な財産であり、それを存続させるカツオへの愛が大事です。しかしながら、本質を変えるつもりはないものの、昔ながらの経営体質のなかで課題となっている部分については、積極的に変革を進めてきました。長年培ってきたカツオ文化の価値を守りながら、経済的な発展も遂げる。その両輪を意識しながら、これからも取り組んでいきたいです。
楽しさ・想いが次世代につながる地域貢献賞
横石知二委員( (株)いろどり代表取締役社長)
合同会社ねっか
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田園風景を次世代につなげるために、持続可能な焼酎づくり
福島県・只見町の『合同会社ねっか』は地元農家と協力して、田園風景を次の世代へつなげる活動をしています。「地域資源を最大限に活かした持続可能な焼酎づくり」に関する取組、そして「楽しいを形にし、想いを次世代につなぐ」姿勢が評価され、特別賞を受賞しました。
このプロジェクトをきっかけに、地元の小学生の農業への関心が深まり、20歳を迎えた若者に焼酎をプレゼントすることで地元への誇りが育まれることになりました。地域を盛り上げようとする機運が高まり、町民による応援の輪も広がっています。
地域の希望になった「ねっか」誕生に大事だったこと
焼酎の事業は「特産品焼酎免許」の活用が突破口になりました。新規参入者にとって一般的な酒類製造免許の取得は難しいものですが、地域特性を活かした特産品焼酎免許を取得することで、地元産米を使用した焼酎「ねっか」の製造が可能になりました。
地域の農家と連携し、自社で田んぼを持つことで安定した原料の調達が可能になりました。米づくりから自分たちで行うことで、品質管理も徹底でき、地域の田園風景を次の世代につなげる活動にもなっています。地元のものを使ってつくることで、地域の文化を大切にしながら「ねっか」を広めることができる基盤が整いました。
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今後もさらに持続的な地域発展を促すための仕掛けづくり
地域資源を活用するうえで最も大切なことは、地域住民が同じ方向を見て、お互いに支え合いながらメリットを共有する関係を築くことです。その結果、子どもたちが将来も安心して地域で子育てできる環境を残すことが可能になります。地域全体が一体となり、明るい未来を描けるような取り組みを大切にしていきたいです。
今後は米を軸にしたウィスキーづくりにも挑戦します。蒸留所を宿泊施設のとなりに構え、他所から訪れる人が地域の魅力を深く体験できる場を提供する予定です。蒸留所見学や試飲体験、地元食材を活かした食事などを通じて地域の観光資源として機能させ、新たな活力を生み出し、地域の持続的な発展につなげていきたいと考えています。