日本企業に一体何が起こっているのか
アシュリー・ギエム記者、BBCニュース(シンガポール)
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日本は長い間、誠実さ、確実な品質、製品の信頼性において輝ける手本となっていた。
しかし神戸製鋼のデータ改ざんをめぐる不祥事が深刻化するにつれ、「メイド・イン・ジャパン」ブランドの輝きがさらに曇る可能性がある。
神戸製鋼の問題は今月8日、同社が200社以上に納入していた一部の製品について、品質、強度、耐久性についてデータ改ざんがあったことを認めた時に始まった。納入先には、ボーイングや日産、トヨタが含まれている。
神戸製鋼は13日、出荷先が500社に増えたと述べた。この一件で同社の時価総額は今週、約18億ドル(約2000億円)消失した。
しかしここ6年ほどで不正や不祥事を認めた日本の大手企業は少なくとも6社に上っており、なぜこのようなことが起こり続けるのか、日本には制度的な問題があるのか、といった疑問の声が上がっている。
「手抜きという手段」
1990年代以降長期間にわたって続く経済成長の鈍化が、大きな要因となっていると専門家は指摘する。この鈍化により、日本企業はビジネス・モデルの変更を余儀なくされており、それがこのような問題を引き起こしているようなのだ。
「大企業はかつて、安定的で予測可能な成長市場に身を置いていた。しかし状況が変わり、一部の企業は手抜きという手段に訴えた可能性がある」と指摘するのは、都内に拠点を置く独立系リサーチ会社ジャパン・マクロ・アドバイザーズの社長でチーフ・エコノミストの大久保琢史氏だ。
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20年前まで、日本企業は成長戦略に注力していた。しかし日本では、これほど力強い経済成長はもはや望めないと気づいたことで、企業は再建、経費削減、極限までの合理化を進めざるを得なかった。
富士通総研のマルティン・シュルツ上席主任研究員はBBCに対し、このような痛みを伴う調整に際し、「新しい競争のルールに適応する」のに苦労している企業もいると語った。
効率性の向上を追求する姿勢から、経営陣は好調な業績を示すのに必死になり、それが時には品質管理の限界を試すところにまで行ってしまっている、とシュルツ氏は説明する。
さらに、中核社員や管理職者がギリギリまで追い込まれ、過労や不正につながるケースも中にはあるというのだ。
しかし利潤を押し上げるために海外で新規市場の開拓を必要としていることで、日本企業にとってまた別の問題が、海外支社を中心に起こっている。
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ザ・エコノミスト・コーポレート・ネットワークの北東アジア・ディレクター、フローリアン・コールバッハ氏は、一部の企業は、運営を指揮した経験のある管理者が十分いないのに、海外事業の拡大を急ぎすぎたと指摘する。
不正行為の発見
神戸製鋼でのデータ改ざんの前には、日産自動車と三菱自動車による燃費不正問題や、欠陥エアバッグで6月に民事再生法の適用を申請した自動車部品メーカーのタカタなどの不祥事が相次いでいた。タカタは死者16人と多数の負傷者を出し、世界規模でのリコールとなった。
わずか2週間前には、無資格の従業員が完成検査を行っていたとして日産自動車が自動車120万台のリコールを発表したばかりだ。
さらに、エレクトロニクス大手の東芝は、利益の水増しという不正会計問題で今でも揺れている。
このように目立つケースが度重なっているにもかかわらず、日本における品質とコンプライアンスは今も卓越していると、専門家は話す。
とは言うものの、不正行為や違法行為にまつわる不祥事は、今後さらに明るみに出てくるだろうと専門家は予測している。
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コールバッハ氏はその理由の一つとして、さまざまなモノがインターネットにつながるIoTやセンサーのような新技術で、不正や不具合が検知しやすくなったことを挙げる。また一方でデジタル化が、問題があった際の情報の拡散や透明性の向上を後押ししてきた。
神戸製鋼のデータ改ざんがいかにして発覚したのかははっきりしていないが、「より透明性の高い企業環境では、自社の過ちや不正について早いタイミングで認めなければならない」とシュルツ氏は言う。
日本企業からさらなる不祥事発覚か
さらに、内部告発者を保護する法律「公益通報者保護法」が2006年に施行されたことを受け、今後さらに不正や不祥事が明るみに出るとみられている。
同法の施行から5年後、最も衝撃的なケースが明るみに出た。オリンパスの社長だった英国人のマイケル・ウッドフォード氏が自社の不正を告発。企業不正を告発した史上最も職位の高い人物となった。
ウッドフォード氏は、オリンパスが1990年代からの投資の損失隠しで最大1178億円もの粉飾決算をしていたことを暴露した。
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コールバッハ氏は、法の施行以来、より多くの人が不正行為を報告しているが、自分の会社の不正行為を告発するために同法を活用できている人が具体的に何人いるのか確認するのは困難だと話す。
さらに、告発者が適切に保護されているのか否かについては、日本でいまだに激しく議論されているという。というのも、同法は告発した社員を解雇したり降格したりするなどして罰した企業への罰則を定めていないのだ。
中には、2009年設置の消費者庁が、不正に対する保護強化になっていると主張する人もいる。
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消費者庁は、低水準の製品が原因の事故が複数発生したことや、中国製冷凍餃子を含む多数の食中毒騒ぎを受けて設立された。
「不具合を出した製造業者の対応はかつて政府の中央官庁がしていたが、消費者庁がその役割を引き継いでいる」と話すのは、コンサルタント会社アジア・ストラテジーのキース・ヘンリー氏だ。
ヘンリー氏はさらに、新たな報告制度は製造業者よりも消費者寄りであり、また規制機関は調査や不正行為の起訴を積極的にしていく姿勢だと話す。
ブランドの再建
このような好ましくないスポットライトが日本企業に当たることが、実はいい影響をもたらす可能性があると考える人も、なかにはいる。
「コストや、利潤の増加だけに焦点を当てるだけでは、将来的な戦略としては十分ではないという考えが、広く同意を得ているようだ」とシュルツ氏は話す。
コールバッハ氏は、「企業が運営にもっとしっかりと目をやり、問題があればより大きな何かに発展する前に確実に手を打つ」ようになるだろうと考えているという。
しかし、政府が定めた水準を満たせない企業に対しては、より厳しい罰則が必要だと警告する意見もある。自主規制は必ず機能するわけではないようだからだ。
労働基準法違反罪に問われた広告大手の電通が6日、わずか50万円の罰金しか科されなかった裁判を引用し、大久保氏は「何かが非常に間違っている」と指摘した。
しかし日本の制度的な問題を強調するのではなく、同氏は、不正行為の多発は「日本のコーポレート・ガバナンスが機能している」証拠だと話す。なぜなら、社内的な問題を報告することで、企業はその問題を解決しようとしているからだと説明する。
不正や不祥事から距離を置きたい企業に対して大久保氏は、次のように話す。「各製造業者はそろそろ『日本企業』というブランド付けをやめ、代わりに自社のブランドを構築すべき時だ」。