【解説】 なぜ今年の夏はこんなに暑いのか 世界各地で最高気温を更新
ジャスティン・ロウラット気候担当編集長、BBCニュース
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暑い。とても暑い。そして気温は下がりそうにもない。
アメリカ国立気象局によると、アメリカでは人口の3分の1近くに当たる1億1300万人に対して、何らかの高気温に関する勧告が出ている。
アメリカ全土で、気温が数十年ぶりに記録を更新している。テキサス州エルパソでは27日間にわたって最高気温が37度を超え、1994年の記録を更新した。
イギリスでは、6月の気温が観測史上最高を記録しただけでなく、文字通り破られた。今年6月の気温は、1940年の最高記録からさらに0.9度高かった。この差は非常に大きい。
北アフリカや中東、アジアも同様に、これまでにない暑さに襲われている。
ヨーロッパ中期予報センターが、今年の6月は史上最高に暑い月だったと見方を発表したのも、当然のように思える。
そして、その暑さはおさまっていない。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスは、観測開始以来最も暑い日が先週だけで3日あったと発表した。
7月3日、世界の平均気温は16.69度を記録。翌4日には初めて17度を超え、17.04度となった。暫定値ではあるが、7月5日にはさらに17.05度まで上がったという。
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イギリス気象庁と英エクセター大学の気象科学者、リチャード・ベッツ教授は、これらの記録は気候モデルの予測に則したものだと話す。
「世界の気温が高いのは意外でもなんでもない」と、ベッツ教授は話した。
「ずっと前から分かっていたことを、あらためて確認しているだけだ。大気中の温室効果ガスを増やすのを止めない限り、極端な現象は増え続けるだろう」
暑さについて考える時、私たちは日常で経験している大気の温度を考えがちだ。
しかし地表面の熱の大半は大気ではなく、海に蓄積されている。今年の春から夏にかけて、海水温も記録を更新している。
たとえば北大西洋では現在、水面の温度が観測史上最も高くなっている。
この海の熱波は特にイギリス周辺で顕著になっており、例年の水温から5度近くも上昇している場所もあるという。
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米海洋大気局(NOAA)は、この熱波をカテゴリー4と分類している。これは熱帯以外の地域ではほとんど使われないカテゴリーで、「過剰な」暑さを示している。
英ブリストル大学のダニエラ・シュミット教授(地球学)は、「北大西洋でのこうした異常な気温は前例がない」と話した。
一方、太平洋の熱帯地域では、エルニーニョ現象が発達してきている。
エルニーニョ現象とは、南米沖で暖かい海水が海面まで上昇し、海全体に広がることで引き起こされる繰り返し起こる気象パターンを指す。
大西洋と太平洋で共に熱波が起きているなら、今年4月と5月の海面水温が、英気象庁での1850年の観測開始以来最も高くなったことも、意外ではないのかもしれない。
海が通常より暖かくなると、大気も暖かくなると、英エクセター大学のティム・レントン教授(気候変動専門)は話す。
レントン教授によると、温室効果ガスによって閉じ込められた余分な熱は海面を温める。この熱は深海に向かって下向きに混合される傾向があるが、ちょうどエルニーニョ現象のように、海流によって再び水面に戻されることもある。
「このようなことが起きると、熱の多くが大気中に放出され、気温が上昇していく」とレントン教授は説明した。
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この例外的な暑さを異常だと思うのは簡単だが、絶望的なことに、気候変動の結果、記録を更新するような高気温が普通になっているのが真実だ。
温室効果ガスの排出量は毎年増加している。増加率はわずかに減速したが、国際エネルギー機関(IEA)によると、エネルギー産業に関連した二酸化炭素(CO2)排出は昨年1%近く増えた。
地球の温度が上がると熱波のリスクも高くなると、英インペリアル・コレッジ・ロンドンのグランサム研究所の気候学者フリーデリケ・オットー氏は指摘する。
「こうした熱波は、地球温暖化が起きていない場合と比べると、頻度が高くなるだけでなく、より暑く、より長くなる」と、オットー氏は述べた。
専門家らはすでに、エルニーニョ現象の発達により、2023年は世界で最も暑い年になると予想している。また、これによって一時的に、地球の平均気温の上昇を工業発達以前と比べて1.5度以下におさめるという気候変動を食い止める基準が破られる可能性があると懸念している。
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だが、これはまだ始まりにすぎない。温室効果ガスを劇的に削減しない限り、気温は上がり続けると予測されている。
英気象庁は今週、今年6月の記録的な気温が起きる可能性は、人為的な気候変動によって倍増したのだと発表した。
こうした気温上昇はすでに、世界中の生態系に根本的な、そしておそらく不可逆な変化をもたらしている。
たとえばイギリスでは、6月の記録的な高温により、河川や運河で魚の大量死が起きた。
ブリストル大学のシュミット教授は、今回の海での熱波は前例がないほど激しいため、イギリスにどのような影響を与えるかわからないと警告する。
「他の地域、たとえばオーストラリア周辺や地中海では、生態系全体が変わり、コンブの森が消滅し、海鳥やクジラが餓死してしまった」
世界は今、実質的に競争状態にある。
我々がより暑く、より混沌とした気候の未来に向かって加速していることは明らかだが、人間には排出量を削減する技術と手段がある。
今問われているのは、気候の大暴走を減速させ、地球温暖化の影響を管理可能な範囲内に抑えられるよう、それに間に合うだけの速度で、私たちが対策を打てるのかどうかだ。