※本記事は、2022年12月30日に公開した記事の再掲です。
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- デザイナーのアレクシ・ハウタマキさんはパートナーとともにフィンランドの島を購入し、これを「プロジェクトÖ」と名付けた。
- ハウタマキさんたちは全てを自分たちでデザインし、今では1泊1800~2400ドル(約24万7000~32万9000円)で貸している。
- 露天風呂やサウナなども付いている。
Googleマップを5年間検索し続けてきたデザイナーのアレクシ・ハウタマキ(Aleksi Hautamäki)さんとミラ・セルキマキ(Milla Selkimäki)さんは2018年、松林に囲まれた、上から見ると動物のかぎ爪のような形をした島を購入した。
「ヘルシンキの自宅を出てこの島に着いた途端、脈拍が下がり、呼吸がゆっくりになるのを感じました」とハウタマキさんはInsiderに語った。
ハウタマキさんたちが購入したフィンランドの群島国立公園の端に位置するこの岩だらけの島には、今ではオフグリッドの贅沢なキャビンが建ち、2人は1泊1800~2400ドルで貸している。ここまで来るのに100万ユーロ(約1億4400万円)かかったという。
2人はどのようにしてこの島を見つけ、安らぎの地へ変えたのか、話を聞いた。
Googleマップで島を見つける
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子どもの頃は父親のボートで約2000の島々からなる群島国立公園をよく見て回っていたと、ハウタマキさんは話している。6年前にセルキマキさんと出会った時もこの趣味は続いていた。2人は3~4週間かけて島を見て回り、錨を下ろして野生生物を見たり、ピクニックを楽しんでいた。
ずっと住み続けられる島を買いたいと2人が考えるようになるまで、さほど時間はかからなかった。ただ、不動産会社に問い合わせても、なかなかこれといった島は見つからず、ハウタマキさんはGoogleマップを使って自分で探すことにした。
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ハウタマキさんは群島国立公園の無人島を探し回った。「不動産会社にも問い合わせてみましたが、島の売買はそれほど取引が盛んではないので、Googleマップで誰も住んでいない島を自分で探して、所有者に売却するつもりがないかどうか、聞いてみることにしたんです」とハウタマキさんは当時を振り返った。
「誰も住んでいなさそうな島を見つけたら、役所に行って書類を調べて、その島の所有者を突き止めなければならなかったので、なかなか進まず、時間がかかりました」
ハウタマキさんは最終的に、広さ5エーカー(約2万平方メートル)ほどの無人島を見つけた。「この島を見た途端、わたしたちはすぐに恋に落ちました」とハウタマキさんは語った。
前の所有者はこの島を近くの別の島を買った時の"おまけ"として譲り受けていて、喜んで売ると言ってくれた。ハウタマキさんとセルキマキさんは島の購入を申し出て、ヘルシンキのマンションを売ってそれをプロジェクトの費用にあて、自分たちはヘルシンキの賃貸マンションに引っ越した。契約は2、3カ月でまとまり、2018年4月から2人は島でプロジェクトをスタートさせた。
フィンランドの伝統をヒントに現代的なキャビンを建てる
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飲食店などの空間デザインを手掛けるハウタマキさんとグラフィックデザイナーのセルキマキさんは、島の景観に溶け込むようなキャビンを作りたいと考えていた。「できるだけ合理化しつつ、周辺の島々の建物を参考に伝統的なデザインから着想を得ました」とハウタマキさんは話している。島の海岸線がとてもユニークだったので、地形になじむようなキャビンを建てたいと2人は考えた。木材といった資材も悪目立ちしないものを選んだ。
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自宅の床にテープを貼って、どんな空間になるのか確認しながら間取りを考え始めた。2人とも家をデザインするのはこれが初めてだったので、ハウタマキさんはこのプロジェクトを自身のクライアントと仕事をする時と同じ方法で進めることにした。
「職場では常に『どうすればお客様に最高のサービスを提供できるか?』を考えています」とハウタマキさんは語った。
「わたしたちは自分たちを顧客として扱い、自分たちがどのような生活を送っていて、キャビンにどういった機能を持たせる必要があるのか、考えました」
2人は一連のプロジェクトを「プロジェクトÖ」(「Ö」はスウェーデン語で「島」を意味する)と呼んでいて、木製の通路でつながっているメインのキャビンとゲストハウス、屋内キッチン、屋外キッチン、サウナなどを作った。建物のファサードには保温性の高い松材が使われていて、時間とともに岩と同じような灰色に変わるという。
「島での生活は、屋外で過ごす時間が全てです。だからこそ、十分な機能を備えたキッチンを屋外に作りたかったんです」とハウタマキさんは話している。
オフグリッドの家
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ハウタマキさんとセルキマキさんは作業を5カ月で終えた。天候が不安定で、午後3時には日が沈んでしまう秋になる前に作業を終わらせようと、2人は急いだ。骨組みと窓の設置は業者に依頼し、ハウタマキさんは通路や手すり、テラスを作ったり、内装を整えるために、3カ月半休職した。
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「大工仕事の経験は多少ありましたが、大がかりなものはやったことがありませんでした」とハウタマキさんは語った。
「なので、友人に聞いたり、YouTubeを活用しました」
2人は太陽光発電も設置した。飲み水にはバルト海の水をろ過したものを使っている。サウナストーブはキャビンで使う水を温めたり、床暖房の熱源として機能している。壁の断熱材には泥炭 —— 100%天然の資材で、防音に優れている —— を使っている。
キャビンは島の端に建っているので、全ての資材は船で運ばなければならなかった。
「注文したものが足りないと、次の船を待たなければなりません」とハウタマキさんは当時を振り返った。建築業者が陸に上がりやすいように、2人は桟橋も作らなければならなかった。
"らしさ"をプラス
プロジェクトÖの大部分は2018年8月までに完成したものの、2人は"自分たちらしさ"をプラスし続けた。
自然の景観に少し手を加えたかった2人は、50トンの砂を島に運び、入り江をプライベートビーチに変えた。崖の上に泥の埋まったくぼみを見つけると、その泥をすくい、薪ストーブの力を借りて露天風呂を作った。「露天風呂はラッキーでした。家の近くに小さな池があって、露天風呂にするのにちょうどいい深さだったんです。試行錯誤を繰り返して、なんとか水を循環させて、風呂を沸かせるようになりました」とハウタマキさんは語っている。
行政からもう1軒家を建てる許可をもらっていた2人は、次の計画を立て始めた。
現在、2人は週に2、3回、ボートで本土から食料を島に運んでいる。ただ、今はもうフルタイムで家を建てているわけではないので、釣りに行って、そこで獲れたものを屋外キッチンで料理したいと考えているという。
オフグリッド生活を収益化
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2022年7月、ハウタマキさんとセルキマキさんはプロジェクトÖを「Off Grid Hideways」というプラットフォームを通じて貸し出すことを決めた。島を貸している時はヘルシンキのマンションに戻っている。
2人はインスタグラムとフェイスブックのアカウントも運営している。「初めは(プロジェクトÖのような)人里離れた場所に家を建てるプロセスを見てもらいたかったんです。それからいろいろと手を加えていく中で、『フォロワーに最新の情報を届けるようにしてみたらどうか』と考えるようになりました」とハウタマキさんは話している。
2人が手掛けた島はこれまでに、一番遠いところではスイスやオーストラリアからもゲストを迎えている。
プロジェクトÖの成功を受け、ハウタマキさんとセルキマキさんはオフグリッドのホテル経営を仕事にすることを考え始めた。
「ゲストは皆、島で楽しい時間を過ごせた、期待以上だったと言ってくれていて、とてもやりがいを感じています。わたしたちがここでやったことを評価してくれる人がこれからもっと増えていけばいいなと思っています」とハウタマキさんは語っている。
それまでは新しいオフグリッド生活を満喫するつもりだ。
「この島を買ってから、わたしはこれまで考えたこともなかったような景色を目にしたり、音を耳にしてきました」とハウタマキさんは話した。
「この間、松の木の間を歩いていたらパキ… パキ… という不思議な音が聞こえました。松ぼっくりが開く音だったんです」