水も汚れも弾きます!構造色塗装技術への一歩〜ロータス効果のある色褪せしない次世代塗装材料に向けて〜

2025.01.09

目次

この記事をシェア

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEでシェアする
  • はてなブックマークでシェアする

■研究の概要:
 千葉大学大学院工学研究院の桑折道済教授と融合理⼯学府博士前期課程2年の前島結衣氏らの研究グループは、武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社の武田真一氏と国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の不動寺浩主席研究員らと共同で、超撥水性を示す構造色塗装が可能な技術を開発しました。疎水化メラニン粒子を含む溶液を刷毛や筆で塗ると、わずか数分で構造色による塗装が可能です。塗装後の表面は超撥水性を示し、水を弾くのみならず自浄作用を示すことから、次世代塗装材料としての応用が期待されます。
 本成果は、2024年12月18日に、学術誌Macromolecular Reaction Engineering誌で公開されました。

図1. 開発した疎水化メラニン粒子が分散した溶液を滴下してガラス基板上に塗装した構造色の様子。見る角度を変えても色調が変化しない単色構造色が発現。

■研究の背景:
 構造色は、サブミクロンサイズ注1)の微細な周期構造に光が当たった際に、光の干渉・回折・散乱といった物理的性質によって光が反射されて発現する色です。独特の光沢や艶があり、高い発色性や耐久性を示すなどの特徴があります。構造色は、鳥や昆虫などの生物の発色にもしばしば見ることができます。
 当研究グループはこれまでに、孔雀の羽毛の色がメラニン注2)が形成する微細構造由来の構造色であることに着目して、メラニン粒子注3)を用いる構造色材料の作製を実現しました参考文献1)。しかし鮮やかな発色が可能である一方で、構造色の発現に時間がかかることが課題となっていました。また、塗料などへの応用には、見る角度を変えても同じ色が見える単色構造色の発現、ならびに、雨などの水を弾く撥水性や汚れを綺麗にする自浄作用が求められてきました。

■研究の成果:
 本研究では、混ぜるだけの簡便な手法でメラニン粒子と疎水性分子を反応させ、表面にさまざまな疎水性分子を導入した疎水化メラニン粒子を作製しました。バルクの溶媒と粒子表面に拘束された溶媒の分子運動性が異なることを利用し、時間領域核磁気共鳴(TD-NMR)法注4)により粒子の疎水性を評価した結果、表面にオクタデシル基(炭素数18のアルキル基)を導入した粒子は、高い疎水性を示すことで知られるフッ素化合物を導入した際と、ほぼ同等の疎水性を示しました。これにより、環境や人体に有害なフッ素化合物を用いずに、高い疎水性を付与できることがわかりました。さらに、オクタデシル基を導入した疎水化メラニン粒子は、塗料などに使用されているヘキサンなどの有機溶媒への分散性が向上しました。
 作製した疎水化メラニン粒子を分散させたヘキサン溶液をガラス基板上に滴下すると、沸点の低いヘキサンがすぐに蒸発し、わずか数分で構造色による塗装が完了しました。粒子配列の規則性を意図的に低下させたことで、角度を変えても色調が変化しない単色構造色が発現します(図1)。刷毛や筆で建築材などに使われるメラミン化粧板などに塗って塗装することも可能です。得られた構造色塗装表面は、粒子表面の疎水性分子と、粒子同士が形成する階層的な凹凸構造の相乗効果により、水の接触角(CA)が160度以上となる超撥水性を示しました(図2)。

図2. 筆塗りによる構造色塗装の様子と、塗装表面の水の接触角が160度を超える超撥水性を示すデータ。


 この構造色塗装したメラミン化粧板に水を滴下すると、水が弾かれて転がり落ちる様子が観察されました(図3 ※下記URLから動画もご覧ください)。このような効果はロータス効果注5)として知られ、泥や埃などがついても雨が降ったら自然に流れ落ちる自浄効果を示します。

図3. 構造色塗装に滴下した水滴が転がり落ちるロータス効果。

■今後の展望:
 本研究では、超撥水性の構造色塗装に向けた技術開発を行いました。構造色は微細構造が維持される限り色褪せしない特徴があります。退色しやすい色素などを使わずに、壁紙の塗装などに利用できる次世代塗装材料としての応用が期待されます。
 現在は本研究成果の実用化に向け、微細構造のより強固な固定化手法も含めて研究開発を進めています。

■用語解説:
注1)サブミクロンサイズ:1ミクロン(1µm)以下の大きさのこと。1ミクロンは1mmの1/1000。
注2)メラニン:ヒトを含む動植物に広く存在する褐色から黒色の生体高分子であり、紫外線から細胞を保護する役割を持つ。
注3)メラニン粒子:メラニン模倣物質であるポリドーパミンを構成成分として含む粒子。
注4)TD-NMR法:プロトンの緩和時間から材料の物性評価を行う測定方法。
注5)ロータス効果:ハス(ロータス)の葉のような撥水性と自浄性を持つ表面特性を示す用語。

■研究プロジェクトについて:
本研究は、以下の支援によって行われました。
・科学研究費助成事業 基盤研究(B)(JP23H02018)
・NIMS連携拠点推進制度(2024-042)

■論文情報:
タイトル:Michael Addition Reaction-Assisted Surface Modification of Melanin Particles for Water-Repellent Structural Color Coating
著者:Yui Maejima, Mana Tomizawa, Ai Takabatake, Shin-ichi Takeda, Hiroshi Fudouzi, Keiki Kishikawa, Michinari Kohri
雑誌名:Macromolecular Reaction Engineering
DOI:10.1002/mren.202400040

■参考情報:
参考文献1)2016年9月26日公開プレスリリース「孔雀の羽の発色を構造・素材ともに再現!~構造色を基盤とする次世代インク開発に期待~」
https://www.chiba-u.ac.jp/about/files/pdf/20160926_2.pdf

次に読むのにおすすめの記事

このページのトップへ戻ります
pFad - Phonifier reborn

Pfad - The Proxy pFad of © 2024 Garber Painting. All rights reserved.

Note: This service is not intended for secure transactions such as banking, social media, email, or purchasing. Use at your own risk. We assume no liability whatsoever for broken pages.


Alternative Proxies:

Alternative Proxy

pFad Proxy

pFad v3 Proxy

pFad v4 Proxy