ANALYSIS

トランプ氏のゼレンスキー氏批判は個人的嫌悪による攻撃に 唯一の勝者はロシア

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ロシア軍に向けて榴弾(りゅうだん)砲を発射するウクライナ軍兵士=1月11日/Stringer/Reuters

ロシア軍に向けて榴弾(りゅうだん)砲を発射するウクライナ軍兵士=1月11日/Stringer/Reuters

この背景には、トランプ1次政権時の対立関係が、将来の両氏の関係に避けられない暗い雲を垂れ込めさせるというリスクが残っていたことがある。当時、両氏の間で行われた電話会談でゼレンスキー氏はトランプ氏の要求に応じず、この会談がトランプ氏の弾劾(だんがい)につながった。今、その雲は音を立てて破れ、ウクライナは濡れ始めている。

ゼレンスキー氏は、トランプ氏が「偽情報の空間」に生きているという発言を軟化させ、トランプ氏と米国民を大いに尊敬していると付け加えた。しかしトランプ氏はそのような補足は求めないどころか、「独裁者」はウクライナを救うために迅速に行動する必要があり、「ぼろもうけ」していると返した。

トランプ氏は5日間で2度、欧州の民主主義指導者らを暴君と誤って呼ぶ一方で、同じ演説の中でロシアの独裁主義には触れなかった。バンス米副大統領は先週末、ドイツ・ミュンヘンで、欧州の民主的な米国同盟諸国は有権者を恐れていると述べた。今、トランプ氏はロシアの最大の敵は自らが「独裁者」になりつつあると述べている。

ウクライナにとって、自国の存在に関わるジレンマは今、戦時大統領と主要な軍事支援国である米国のどちらかを選択する余裕があるかどうかだ。

ゼレンスキー氏は今や、世界最強の権力者による中傷的な投稿の対象となっている。同氏は、出どころ不明のロシアの主張を定期的に繰り返し、1940年代以降で欧州最大の戦争が向かう先を変えている。

トランプ政権のウクライナに対する財政支援は危機にひんしている。支援がなければウクライナの生き残りは実に疑わしいものとなる。トランプ氏は、ウクライナに行われた援助の行方は「不明」であり、ゼレンスキー氏は「ぼろもうけ」していると何度も虚偽の発言を行ってきた。同氏は、おそらく援助自体が削減される結果になるという筋書きを米国民向けに用意している。

ゼレンスキー氏は当初起こるとは思っていなかった戦いに6年間の在任期間の半分を費やしてきた。なぜ同氏は投票を呼び掛け、自身の正当性に関する議論を終わらせないのだろうか。それはウクライナの選挙が過去20年間、平時でさえ厳しいものだったからだ。ロシアは干渉を試み、2004年には選挙を盗んだ。このことは票を盗んだ代理候補を失脚させる大規模な抗議運動を引き起こした。

戦時中は戒厳令が敷かれ、選挙は一時停止される。トランプ政権も提案している停戦により、戒厳令が一時解除され、兵士が投票できるようになる可能性がある。しかし、国外に避難している何百万人ものウクライナ人はどうなるだろう。合法的で現代的な投票に必要な選挙改革と緊急立法はどうなるのか。迅速な結果を得るために急ぐべきか、それとも国際的な正当性を得るための完全な絶対的基準を実現するために努力すべきか。ロシアのドローン(無人機)攻撃やミサイルで投票日が台無しになったら? すべてがうまくいかない可能性があり、ほぼ確実にそうなるだろう。

結果は取り返しのつかないほど疑念に包まれ、欠如していると誤って非難されているゼレンスキー氏の権限をさらに損なうか、あるいは完全な正当性を持たない代替候補に力を与えることになる。それは、ウクライナの前線や国内のいたるところ、そして欧州各地に避難しているウクライナ人に混乱をもたらすだろう。これはまさにロシアが望んでいることだ。ロシアは前線に広がるウクライナの苦悩に政治的苦痛を加えることを望んでいる。

トランプ氏の動機を推し量ることは難しくなっている。地政学的安全保障とNATOに関して、はったりをかけることはできない。敵は同盟の弱みを探り、同盟国に対して強硬な交渉姿勢を取ったところで、トランプ氏をさらに恐れることはないだろう。国境の維持と国民の生存を危ぶむ国に、傷ものの和平を強いることはできない。戦時下の指導者を弱らせることはできないし、その軍隊が前線で動揺することを期待することはできない。過去2週間でトランプ氏が世界秩序を急激に書き換えたことで達成された戦略的利益はただ一つ。それはNATOが対峙(たいじ)するために設立された唯一の敵の利益だ。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。

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