『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』インタビュー。コマンドに隠された細かな採点方式、想定外だった部分への賛否両論、結末への想い、35年ぶりの新作について開発者に聞く。

『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』インタビュー。コマンドに隠された細かな採点方式、想定外だった部分への賛否両論、結末への想い、35年ぶりの新作について開発者に聞く。
 数十年前に発売された往年の名作が、リメイクやリマスターで現代に蘇ることはあれど、そのシリーズの完全新作がリリースされることは珍しい。そんな名作の復活という、ファンにとっても夢物語だったものを実現させたのが、2024年8月29日に発売されたNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)用ソフト『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』である。

 本作は、ファミリーコンピュータ(ファミコン) ディスクシステムで発売された『ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女』から約35年ぶりとなるシリーズ完全新作タイトル。プレイヤーは空木探偵事務所の探偵となり、都市伝説上の人物“笑み男(えみお)”を巡る奇怪な事件に挑むことになる。

 『ファミコン探偵倶楽部』の新作が遊べるという状況に、胸が踊ったファンは多いだろう。かくゆう筆者もそのひとりだった。下記の先行レビューにまとめた通り、続きが気になった筆者はエンディングまで駆け足でプレイした。都市伝説がべースになったストーリー、個性の強い登場人物、パワーアップしたグラフィックや演出などに満足していたが、世間の評判をチェックすると、想像していた以上に賛否が分かれていて驚いた。

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 そんなプレイヤーの反応を、本作を手掛けたクリエイターはどのように感じているのか。開発のキーマンである任天堂の坂本賀勇氏と宮地香緒里氏にインタビューの機会をいただき、本作の開発秘話はもちろんのこと、プレイヤーの反応も含めて気になることをうかがった。

 なお、本稿にはネタバレを含む要素が頻出する。また、とくに重大なネタバレになる結末に関する部分はその前に注意文を記載しているので、以降の部分はクリアーしてから読むことを推奨する。

坂本賀勇氏さかもとよしお

『ファミコン探偵倶楽部』の生みの親であり、『消えた後継者』、『うしろに立つ少女』、そしてスーパーファミコンのリメイク版を担当。Nintendo Switchで発売されたリメイク版にも関わっている。そのほかの代表作は、サイドビューの『メトロイド』シリーズや『リズム天国』、『トモダチコレクション』など。文中は坂本。

宮地香緒里氏みやちかおり

おもにコーディネーターとして、『ドンキーコング リターンズ』や『絵心教室DS』、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』などを担当。Nintendo Switchの『消えた後継者』や『うしろに立つ少女』でもコーディネーターとしていろいろな調整を行った。文中は宮地。

『ファミ探』35年の沈黙と新作のきっかけ

――まずは本作における坂本さんと宮地さんの役割からお聞かせください。

坂本
はい。肩書きはプロデューサーということになっていますが、実際には原作、脚本、監督といったような役割を担当しています。

宮地
私はアシスタントプロデューサーとして携わっていますが、役割は坂本といっしょです。プロットを作る段階から入らせていただき、脚本、演出も担当しました。

坂本
それぞれを分業したようなものではなく、本当にいっしょに相談しながら進めていたので、明確に分かれるような部分がないんですよね。

――お互いにアイデアを出し合いながら開発を進めていったと。

坂本
そうです。

宮地
ただ、坂本はストーリーの構想を教えてくれないのに、「プロットのアイデアが欲しい」と無茶振りをしてくるんですよ(苦笑)。あとで全体がまとまったものを読んで、私のアイデアはこういう形で採用されたのかと知ることが多かったです。

坂本
自分の中で具体化できていない部分で足踏みをしたくなかったので、そういった部分のネタはいろいろ考えてもらいました。また、最終的に形にするには人名や地名も決めておく必要があるのですが、僕はお話を勢いで書いてしまうタイプで、そういうのを考えるのが苦手なんですよね……。 それなら、ストーリーを何も知らない宮地に任せようと思ってお願いして、僕が渡した情報をもとに、実在しない地名の候補を挙げてくれたんです。キャラクターの名前も姓名判断をしたうえで、語感のよさも意識して名付けてくれたので、とてもいい命名をしてもらったなと感謝しています。

宮地
坂本は情報と言っていますけど、1行程度しかなくて。たとえば久瀬純子の情報は、“クールな女刑事”としか書かれていないんです(笑)。

坂本
ストーリーで何があるかは教えない(笑)。ストーリー上の立ち位置などを知って、重要な人物とそうでない人物で名前の付けかたなどに差が生まれてしまうとよくないですからね。
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――なるほど。とはいえ。少ない情報をベースに、姓名判断や語感まで考慮して名付けるのはすごいですね。
宮地
1行程度の少ない情報から、自分なりにキャラクターのイメージをふくらませて名付けていきました。

――『ファミコン探偵倶楽部』の新作を作ろうとした経緯も改めてお聞きします。以前、ファミ通で坂本さんとMAGES.の浅田さん(浅田誠氏。MAGES.取締役で、Nintendo Switch版の『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女』を手掛けた)にインタビューをさせていただきましたが、その際、浅田さんから「ノウハウがかなり溜まったので、新作を作りたい」というお話がありました。この時点で坂本さんも新作を作りたいと考えていたのですか?
坂本
正直なところ、そのときは具体的には考えていませんでした。じつはこの時点ではまだ、新作に取り組むことに積極的ではなかったんです。ただ、浅田さんたちといっしょに開発できたことで、僕の中にもNintendo Switchで『ファミコン探偵倶楽部』を作るためのノウハウが溜まりましたし、つぎはこんなことができるんじゃないかというアイデアも浮かびました。リメイク版の表現力がすごかったこともあり、次第に新作を作りたいという気持ちがどんどん大きくなっていったんです。『ファミコン探偵倶楽部』向けにディスク版の開発当時に思いついたアイデアもあったので、それを軸にして、宮地に「こんなんどう?」って相談してみたんですよ。

宮地
ある日突然、坂本に「“笑み男”っちゅうのを考えているんやけど……」って言われて、「笑み男……?」って(笑)。

――それは戸惑いますね(笑)。

宮地
ただ、新作の種じゃないですけど、何かアイデアが浮かんだのかなと思ったので、そのときは「楽しみにしています!」とお返事しました。

坂本
宮地の反応は励みにもなり、プレッシャーにもなりましたね。それで「これはもうやらなあかん!」って勝手に盛り上がって、ものすごくモチベーションが上がったんです。「形にせえよ」と、天の声が聞こえた気もして、やる気が最大まで高まりました。

――天啓を得たんですね。『ファミコン探偵倶楽部』としては、スーパーファミコンのリメイク版やサテラビューの『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』(※1)を除くと、1989年の『うしろに立つ少女』以来35年ぶりとなります。数年ぶり、10年ぶりといった続編の発売はたまにありますが、ここまで期間が空いて新作が発売されることはそうそうありませんよね。
※1:サテラビューは、スーパーファミコンの周辺機器として登場した衛星放送を使ったサービスで、音声連動のゲームが楽しめた。『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』は、その中で配信されたタイトル。橘あゆみ役は、当時も皆口裕子さんが担当している。
坂本
はい、僕も新作を出せるとは思っていなかったです(笑)。冷静に考えてみたら、「35年も経っていたんやな」ってところはありますね。

――35年のあいだに、新作を作りたいという考えはなかったんですか?

坂本
じつはファミコンディスクシステムで『ファミコン探偵倶楽部』を作った後、世の中で実際に起きている事件の凄惨さや怖さを目にしているうちに、殺人事件をテーマにしたゲームを自分が発信してしまってええのかなと、ちょっと疑問を抱いて抵抗感を覚えたんです。

 また、ご存知の通り、
『ファミコン探偵倶楽部』はコマンドを簡略化して、物語に乗っかって遊ぶようなゲームですが、これをどう進化させたらいいんだろうかと考えたときに、答えが浮かばなかった。それもあって、どんどんフェードアウトしていきました。

 ただ、そんな中で先ほどお話のあった、スーパーファミコンで
『うしろに立つ少女』をリメイクをすることになって。これはもともと発信していたエピソードなので、そんなに実際の事件を意識せずにやれました。するとスーパーファミコンだと、表現できるもののレベルがとても上がっている。これはおもしろいなと思って『ファミコン探偵倶楽部』の新作にちょっとだけ意識が向きましたね。

 そして大きな転機となったのは、やはりNintendo Switch向けにリメイク版を開発したときです。Nintendo Switchの表現力を駆使した
『ファミコン探偵倶楽部』を作れば、自分が課題だと思っていた部分を解決できる。物語に乗っかって遊ぶゲームをより突き詰めた、鑑賞するということに振り切ったものが作れるんじゃないかと。 そんな『ファミコン探偵倶楽部』を作れば、自分が本当に伝えたかったことをちゃんと伝えられると思い、改めて新作を作りたいと考えるようになりました。
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一番人気は神原刑事。一方、福山先生は……


――そういった想いから生まれた新作ですが、最初は“笑み男”というキーワードが坂本さんから出てきたと。

坂本
そうですね。“笑み男”でいこうと。先ほども言いましたが アイデア自体は、オリジナルの『ファミコン探偵倶楽部』を作っているときからあったんです。笑顔が書かれた紙袋を頭部にかぶせられた遺体のイメージがあって、新作で描きたいテーマにうまくハマったと思っています。

――流れとしては『ファミコン探偵倶楽部』で都市伝説を扱いたい、といった発想から、オリジナルの都市伝説として“笑み男”が生まれたのでしょうか?

坂本
『ファミコン探偵倶楽部』の作品には、必ず怖い要素が入っています。今作でのそれは、目に見えない心霊現象や超常現象ではなく、本当に存在するかもしれないという、リアリティーのある恐怖を採用しないと、描きたいテーマと合致しないと考えました。

 今作の
『笑み男』のストーリーでは、都市伝説の背景になるものが作品の最大のテーマになっているので、恐い要素は都市伝説しかないと思いましたし、笑顔の紙袋を遺体にかぶせるというアイデアも、いかにも都市伝説っぽくて相性がいいなって。これまでの『ファミコン探偵倶楽部』で都市伝説を扱ってこなかったのは、ある意味ラッキーだったと思います。

――任天堂公式サイトの“開発者に訊きました”で、笑み男の紙袋のデザインは宮地さんが書かれたいろいろなデザインから選ばれたというお話がありましたが、こちらもプロットのときと同様に明確なイメージなどはなくお願いされたのでしょうか?
※任天堂公式サイト“開発者に訊きました”はこちら

宮地
はい。話の流れも何もわからない状態で、坂本からの詳しい説明がないまま、突然「笑顔を描いてくれない?」と言われて(笑)。どんな笑顔を求められているのかわからないので、思いつくままにいろいろな笑顔を描きました。子どものころに描いた笑顔を思い出したり、あえて利き手じゃないほうで描いてグニャグニャな線にしてみたり……。悩みながら描いた笑顔をいくつか提出したところ、その中からパーツが選ばれて完成したのが“笑み男”の笑顔の紙袋になります。

坂本
笑顔の紙袋は、笑み男という都市伝説の怪人の顔ではあるんですが、笑み男が誕生した背景を知ったときに、印象がガラッと変わるような顔を求めていたんですね。

宮地
私に作業を依頼するときは、こういう大事な部分を教えてくれないんですよ(笑)。

一同 (笑)。

坂本
要望を言わなくても、僕の要望に応えてくれるところが、都市伝説級にすごいなと思います(笑)。それにね、具体的に伝えるとヒントになってしまうじゃないですか。先入観のない状態で笑顔を描いてもらったほうが、「ええもんがいっぱい出てくるんじゃないか」と思ったんですけど、僕の狙い通りでしたね。目や口、鼻のパーツを組み合わせて作った笑顔が、本編に出てくる紙袋の笑顔の原型になりました。

宮地
いまにして思うと、絵がヘタだったのもよかったのかなと思います(笑)。ちなみに、笑み男の紙袋はデザインが2種類あって。私が描いたのは、佐々木英介がかぶせられている紙袋で、もうひとつは都市伝説の笑み男がかぶっている紙袋になります。後者は人々が都市伝説で作り上げたイメージということで、ちょっとデザインが違うんですよ。

坂本
都市伝説上の笑み男の顔は、序章の最後に挿入されるシーンで登場します。口だけではなく、目も三日月のような形をしていて、より不気味さが増しているといいますか。笑み男という都市伝説が独り歩きしたら、どんな顔になるだろう? って考えて、社内で実際にやってみたんです。

宮地
「“怖い笑顔”と言われたらどんな表情を思い浮かべるのか」というテーマで、社内のいろいろな部署の人間に描いてもらってコンペをしたところ、目と口を三日月にしているものが非常に多かったんです。

坂本
ですから都市伝説で笑顔の紙袋をイメージすると、目が三日月のような顔に集約されるんじゃないかと思います。

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――実際の都市伝説の生まれかたに近い方法でデザインが考えられていると。
宮地
そうですね。人々が勝手に作り上げたイメージに近いものにできたかなと思っています。

――笑み男と言えば、2024年7月10日に公開されたティザーサイトも印象的でした。あれは都市伝説の笑み男をイメージしてサイトを制作したのでしょうか。
宮地
話が伝播する内に形を変えていく“都市伝説”と、その裏にある真実というような見えかたになるイメージで制作しています。メインで使われていた笑顔の紙袋は、都市伝説の笑み男のものですが、一瞬だけ佐々木英介が頭にかぶされた紙袋の笑顔に切り換わる形で公開しました。細かいですがトレンチコートの着こなしかたや立っている時の姿勢も違うんですよ。

坂本
気づいている方もけっこういましたね。

――ああ、そういう仕掛けもあったんですね。数十年ぶりに『ファミコン探偵倶楽部』のシナリオを執筆するうえで、とくに苦労したところは?

坂本
僕は、プロットを書くときに苦労するんです。話がつながらないとか、ちょっと違うなと思って、ある程度まとめたものを捨ててしまうこともありますが、本作のプロットは苦労しませんでした。ただ脚本に落とし込む際に、自分の年齢などを考慮すると、たとえばキャラクターによっては、やり取りなどを書くのはちょっときびしいなと思って。ですので、苦労したというよりも、苦労するのがわかっていたので、宮地の感性に頼ろうと考えました。

――では宮地さんは、そういった掛け合いなどを中心に担当されたのでしょうか?

宮地
明確に例を挙げるとすれば、親しい間柄だからこそ遠慮がなくなってしまう部分や、子どもと大人の狭間にいる未熟な子たちがケンカをしたらどうなるかとか、そういった感情をぶつけ合うシーンは私のほうで書かせていただきました。

坂本
歳のせいか、若い子どもたちが感情をぶつけ合うシーンや女の子が語るシーンなどは、自分のイメージで書くと、リアルな描写にならないんじゃないかと思ったんです。そういった自分が書くよりも宮地に任せたほうがいいシーンについては、宮地メインで書いてもらっていますが、脚本に関してはお互いに意見を出し合っていますので、全体を通してはうまく混ざっていると思います。

――宮地さんはシナリオの執筆は初めてとのことでしたが、とくに心掛けた部分などはありましたか?

宮地
リメイク版を開発するときに、坂本から『ファミコン探偵倶楽部』のいちばん大きなテーマは、“家族愛”や“相手を想う気持ちなんだ”と教えてもらいました。そこに何らかの怖い要素を足して、ヒューマンドラマを描いているのが『ファミコン探偵倶楽部』なんだと。本作では2組の兄妹に加えて、まるで兄妹のように過ごしてきた幼なじみの運命が偶然交差したことによって、起こってしまった物語を描いています。

 それに関わる人々のそれぞれの気持ち、それぞれの背景など、個々によって抱えているものが異なるからこそ、登場人物の感情や人間らしさみたいなところは、実在する人間のような印象になるようにしたいなと。そこがいちばん強く心掛けた部分になるかと思います。キャラクターを演じる声優さんについてもこだわってキャスティングをさせていただきました。出演者の皆さんは、巧みな演技で登場人物たちの感情をしっかり表現してくれたのでうれしかったですね。

坂本
リメイク版では、声優事務所を持っているMAGES.さんにお願いしてキャスティングしてもらったんですが、今回は新作で僕や宮地のほうがより詳細なイメージができていたので、こちらでキャスティングをさせていただいたんです。このキャラクターはどう考えて、どんな言葉をしゃべるのか? それを自分と同じレベルで理解して、イメージできている宮地に声優の希望を挙げてもらったところ、「これでいけるんちゃうかな」と。最終的には宮地に一任しました(笑)。

宮地
一任というか、丸投げです(笑)。

――(笑)。希望に挙がった方が、キャラクターのイメージに合っていたんですね。

坂本
どのキャラクターも第一希望の方がイメージとピッタリで、これはすごいなと思いました。宮地はキャラクターの設定をまとめるときに、ビジュアルの雰囲気はこのタレントさん、声はこの人といったように、細かいところまでキャラクターのイメージを固めてバックボーンを作り込んでいたので、「そりゃ合うわな」って感じで。

 とくに印象的だったのは福山先生を演じてくれた小野友樹さん。サンプルボイスをひと言聞いて、「これ、福山やん!」って思いました。小野さんのほかにも、ピッタリだと思った方々に演じてもらえてよかったです。

宮地
本当にありがたかったです。最初にキャラクターのイメージを説明した後に収録が始まるのですが、どれもバッチリはまって。基本的には、出演者の方々の感性にお任せして演じていただきました。主人公役の緒方恵美さんや、あゆみちゃん役の皆口裕子さん、空木役の各務立基さんといった空木探偵事務所のメンバーはもちろん、どの登場人物の収録もすべて強く印象に残っていて話し出したらキリがないくらいです。本作についてたくさんの方からうれしいお言葉をいただけたこともとても励みになりました。

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――新キャラクターでは、KENNさんが演じた神原刑事も印象的でした。ふだんはチャラチャラしているのに、大事な場面でとてもシリアスになって。
坂本
ゲームのアフレコは声優さんが個別に収録することが多いんですが、神原と主人公の探偵くんが一対一で感情的になって会話をするあの車内のシーンは、アニメのように掛け合いで収録してもらったんです。

宮地
あのシーンだけ無理を言って。

坂本
セリフの“間”はおふたりのやり取りで自然に生じたものをそのまま使ったほうが、よりリアルな緊張感が生まれると考えました。こちらの要望をお伝えしたところ、緒方恵美さんとKENNさんに快諾していただけました。実現できて、本当にうれしかったです。

宮地
音響監督さんやサウンドエンジニアさんといっしょにブースで聞いていたのですが、全員が圧倒されて静かになって……。現場の緊張感がすごかったですね。

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――あの掛け合いからは、その緊迫感が伝わりますね。ほかにも、出演されている声優さんが豪華なのも驚きました。道路工事の作業員が大ベテランの銀河万丈さんだったりして。
坂本
有名な方がさりげなく出てきますからね。タクシーの運転手を演じてくれた花江夏樹さんとか。

宮地
声優さんに明るい方は、「なんでこの人がここに」と驚かれるかもしれません。ただ、豪華なメンバーを揃えたかったのではなく、登場人物のイメージにピッタリな方をキャスティングした結果、出演者が豪華になったんです。いろいろと調整してくださったキャスティング会社の方にも本当に感謝です。

――福山先生や神原刑事など、濃いキャラクターが多数登場しますが、どのように生み出しているのでしょうか?

宮地
新キャラクターの生み出したかたはそれぞれ異なりますが、福山先生と神原刑事のふたりに関してはある共通点があって、ちょっと特別かもしれません。ふたりとも、最初から登場人物として想定されてはいたのですが、ああいうキャラ付けになったのはじつは後からで……。本作の物語は全体的に重いと言いますか、シリアスな展開が続くので、プレイしているとしんどくなるし、心が疲れてくるときもあると思うんです。そんなときに、登場するだけでちょっとひと息つける、気持ちが軽くなるようなキャラクターがいたほうがいいよねということで、いまの彼らができあがりました。

坂本
『ファミコン探偵倶楽部』には、アクセント的に個性の強いキャラクターが数多く登場します。彼らもその位置づけではあるんですが、このふたりに共通して求めたのは、状況や感情の変化によるコントラストが強いところ。そういう考えもあって、ああいったキャラクターになったというところですね。

宮地
『ファミコン探偵倶楽部』では、尖った個性を持つキャラクターでも、実在するような、「こういう人いるよね」と感じられる人間らしさを大切にすべきだ、というのは坂本からも教えられていて。福山先生と神原刑事も、とてもユニークではありながら、身近に感じられる、仲よくなれるようなキャラクターを目指しました。

――神原刑事は、先ほどのお話にもあったシリアスな一面があったりとカッコいいですよね。モテそう。

宮地
モテそうですって! よかったね、神原刑事(笑)。

坂本
神原刑事は大人気なんで。

――もうひとりの福山先生は、もうとにかく勢いって感じのキャラクターだなと思いました(笑)。

宮地
あはは(笑)。

坂本
福山先生は、もうちょっと愛されるかなと思ったんですが……。福山先生の出るシーンで「“殴る”っていうコマンドが欲しい」という意見も出たことがありましたね(笑)。

一同(笑)。

――いろいろとツッコミたくなりますからね。

坂本
それを狙っていたんですけど、思った以上にアクが強かったみたいです(苦笑)。

――福山先生は、あゆみちゃんを巡る恋のライバルのようなイメージもありました。

坂本
あゆみちゃんに対しては、福山先生が何を考えているのかようわからんのですよ(笑)。かわいい後輩で仲よくしたいと思っているけれど、それ以上のことは考えていないみたいですね。ちなみに、神原刑事のシーンを書いているのはおもに宮地で、福山先生は僕なんですよ(笑)。

――(笑)。福山先生はまわりにいたらいいやつだなって思います。

坂本
ありがとうございます。おもしろがってくれた人にとっては、福山先生はすごくいいキャラだと思います。実際に身近にずっといたらしんどいと思いますが(笑)。

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――ふたりのほかに人気のキャラクターというと、笑子ママでしょうか。
宮地
そうですね。笑子ママは30代半ばという設定にはなっていますが、彼女もこれまでの人生の中でつらいことをいろいろ経験していて、それでも前を向いて明るく生きていくタイプのキャラクターです。福山先生や神原刑事とは違った明るさというか、前向きさは笑子ママにしか出せない魅力があるのかなと思います。

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――たしかに。意外に人気が出たなというキャラクターはいましたか?
坂本
人気だと、神原刑事はダントツだし……。

宮地
社内でも神原刑事はいちばん人気でしたよね。ほかは……おじいさんかな?

――おじいさん?

宮地
はい。何を言っているのか、よくわからないおじいさん(笑)。

――ああ、終盤にアパートの前で出会う。

坂本
そうですそうです。会話が成立しにくいんですが、じつは大事なことも言っているおじいさんなんです。あとは、語尾が「~ぢゃ」のキャラクターですね。『ファミコン探偵倶楽部』ではおなじみというところで、ファンの方に喜んでいただいているようですね。

――今回は鎌田刑事が「ぢゃ」の使い手ですね(笑)。やはり語尾が「~ぢゃ」のキャラクターは、シリーズのお約束として登場させているのでしょうか?

宮地
絶対に登場させようと考えていました。事前に、『ファミコン探偵倶楽部』シリーズのファンの方々が、入っていたらうれしい要素はなんだろうっていうのを関係者内ですり合わせたり、アイデアを出し合ったりして。こういう小ネタを入れようとか、このネタは外せないよねっていうものは、本作にも入れるようにしました。「~ぢゃ」と話すキャラクターもそのひとつですね。

坂本
これまで、熊田先生(『消えた後継者』に登場)、駒田先生(『うしろに立つ少女』に登場)ときたので、今回は“鎌田刑事”にしようかって。これも宮地が命名しました(笑)。

――カ行で、後ろに“田”がつく名字シリーズですね(笑)。

坂本
はい(笑)。こういうおなじみのキャラクターやネタを入れておくと、シリーズファンの方たちが喜んでくれるかなと。仮にこういった小ネタが入っていなくても、評価がものすごくマイナスにはならないと思いますが、さみしい気持ちになるはずなんです。だから本作でも小ネタはしっかり入れようと最初から決めていました。

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『笑み男』に登場した鎌田刑事。
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『消えた後継者』の熊田先生(左画面)と『うしろに立つ少女』の駒田先生(右画面)。

想定外だった部分への賛否両論。開発者が考える『ファミ探』らしさ


――続いてゲームシステムの話題ですが、リメイク版を踏襲しつつも、調査中にどのコマンドを選べばいいか、従来作よりも誘導が自然になり、とてもテンポがよくなったように感じました。一方、遊びやすくすると悩む時間が削られてしまう、言わばボリュームが減ってしまうという悩みもあると思いますが、バランスはどのように意識されましたか?

宮地
本作は35年ぶりの新作ということで、初めて『ファミコン探偵倶楽部』を遊ぶ方も多いと考えました。そういった方たちが途中で詰まったり、ぜんぜんわからないから攻略サイトを見たりしてしまうと、物語から気持ちが離れてしまうんじゃないかと思って。そうなってしまうのはできるだけ避けたかったので、誰でもストーリーを進められるようなバランスに調整しています。併せて、プレイヤーがこうかなと思ったときに選ぶコマンドと、実際にストーリーを進められるコマンドが、あまり乖離しないように意識しました。また、その代わり……というわけではないですが、会話を充実させたり、いろんな遊びを盛り込んだりしているので、過去作と比べてボリュームが減ってしまっているということはないと思います。

坂本
僕たちは本作のジャンルを、“インタラクティブドラマ”と表現しています。インタラクティブドラマというのは、ビジュアルノベルとテキストアドベンチャーのハイブリッドみたいなイメージで考えていまして。ボタンを押せば物語が進んでいくビジュアルノベルの快適さに、テキストアドベンチャーのように自分がその世界に入り込んで物事を展開させていくというような手応えや醍醐味を取り入れました。さらに、先ほど宮地が説明したように、調査や推理で理不尽に感じないような、手応えのいい部分だけを残したものを抽出したようなデザインにしようと考えて開発しました。

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――昔の『ファミコン探偵倶楽部』の調査でわかりにくかったところを、本作ではわかりやすく調整しているのですね。
坂本
過去の『ファミコン探偵倶楽部』のややこしいところは、僕らも把握しています。複数の場所を行ったり来たりしながらひとつずつフラグを立てたり、広い場所の中からピンポイントで捜し物を見つけたり、ふたりの人間を交互に呼びながら話を聞いたり……。そういった面倒だと感じるところを見直して調査しやすくしました。

宮地
あとは、意味のなかったコマンドも見直しています。コマンドはあるのに、選んでみても「……」しか反応がないものばかりになってしまうとガッカリしちゃうじゃないですか。調査や会話を楽しんでほしいのに、いやになってしまって気持ちが離れる原因になってしまうので、「……」の回答にならないようにかなり気をつけました。

坂本
当時、「……」を使っていたのは、これが出るとコマンドを選んでも意味がありませんよと、プレイヤーにわかりやすく伝えるためでした。ディスク版のころは容量の都合でテキストを増やせなかったのもありますが、今回は「……」の回答を多用しない形でちゃんと成立させることができました。これは僕にとっても新しい発見でしたね。

――選んだコマンドに応じたテキストのパターンはかなり増えていますよね。とくにカレー屋に行く、行かないに応じて、その後にカレーを食べたかどうかのテキストが変わったりしていて驚きました。フルボイスということもあって相応の苦労があったのではないかと思いましたが……。

坂本
カレー屋は宮地のアイデアです(笑)。

宮地
繁華街のお店は入れたほうが、おもしろいかなと思って。坂本に提案したところ、すぐに採用してくれました。

坂本
宮地からアイデアの小ネタがどんどん飛んでくるんですよ。「つぎは何を言うてくるんかな」と、楽しみに待っていました。繁華街のネタはどれもおもしろかったので採用しましたが、脚本は音声収録の前にすべて完成させていたので、僕たちに苦労はなかったですね。たいへんだったのは声優さんたちのほうです。セリフの量が増えますし、「何をしゃべらせられているんだろう」って思われていたかもしれません。ただ、小ネタを入れたことでおもしろくなったと思いますし、カレー屋は評判もいいみたいなので、やってよかったです。

――実際にカレーが出てきてビックリしました。

坂本
僕は乗っかるタイプなので、「実際にカレーのイラストを用意しよう」といって描いてもらいました。そうやって小ネタはどんどん増えていきましたね(笑)。

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――(笑)。ゲーム内では要所でまとめの推理や、穴埋めの問題などが出題されるようになり、従来よりも謎を解く機会が増えたようにも感じました。このあたりは、新作にあたって意識した部分なのでしょうか?
宮地
はい。本作で探偵くんが追うべき事件には、過去の事件であるとか、別のキャラクターの行動であるとか、いろいろなものが複雑に混ざり合っていて、どこかで足を止めて考える時間を作らないと、いま自分が何を追っているのか、混乱したり、勘違いしたりすると思いました。それで要所要所にまとめの推理や穴埋めの問題などを入れて、情報を整理するようにしています。

坂本
探偵となって調査をするゲームである以上、調査に手応えを感じる部分に、もうちょっと厚みを持たせたいなという狙いもありました。

――あゆみちゃんや空木先生に褒められるシーンが増えてうれしかったです。

坂本
あゆみちゃんや空木先生には、僕らの気持ちを代弁してもらいました。

宮地
あとやっぱり、褒められたら純粋にうれしいですし。

坂本
あゆみちゃんはとくにね(笑)。

――発売後、「『ファミコン探偵倶楽部』らしくない」という声もあるようです。そもそも『ファミコン探偵倶楽部』は、個人的にはいわゆるトリックなどの仕掛けがあるミステリーではなく、サスペンスドラマのようなイメージだと感じていたのですが、いかがでしょうか?

坂本
たしかにいわゆるトリックというのは一切使ってきませんでしたね。『ファミコン探偵倶楽部』は、ディスクシステムのころからシリーズを通して、自分で考えながら進めていく映画のようなものとして考えていて、一般的に言われている“推理ゲーム”ではないんです。

 プレイヤーは探偵として調査を行い、情報を集めていきます。そして自分の推理と事件の真相の答え合わせをしながら、「あ~思った通りや」とか、「それはわからんかったわ」といった考察を楽しむ。言ってみたら映画やドラマと同様の鑑賞型のエンタメだと、自分では考えています。もともと
『ファミコン探偵倶楽部』は頭の中で推理して楽しんでいただくものなんです。

 今作では探偵くんに加えて、新たにあゆみちゃんや空木の視点、さらに彼らのいずれのものでもない視点の回想シーンなどを取り入れています。プレイヤーという姿の見えない“もうひとりの探偵”の第三者視点による、より客観的な情報がインプットされることで、考察の幅がより広がったと考えています。

 そして、あえて細かい描写をしていないところも多いんです。そういった部分に関して、「こういうことなんかな」と考察してもらう。そういう意味では、ストーリーを進めるうえで考察する余地が多い今回の
『笑み男』は、いちばん『ファミコン探偵倶楽部』らしいのかもしれません。

宮地
Nintendo Switchのリメイク版をいっしょに制作する段階になったときに、坂本から「『ファミ探』は、巧みなトリックを解いてこの人が犯人だって当てるゲームシステムじゃない。人間の細かい描写を大事にしているんだ」というのも教えてもらって、そこもいわゆる探偵ものや推理ゲームとは異なる、『ファミ探』独自のおもしろさなのかなと思います。

坂本
『ファミコン探偵倶楽部』は鑑賞型のヒューマンドラマですからね。とはいえ、推理ゲームだと誤解されやすいとは思います。それもあって、僕らはインタラクティブドラマと呼んでいるんですが、そのイメージを浸透させていくのが今後の課題ですね。
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――坂本さんたちが想像していなかったところで賛否両論が起こったのは、35年のあいだにプレイヤーそれぞれの『ファミコン探偵倶楽部』らしさが生まれたから、という要因もあるかもしれません。自分の考える『ファミコン探偵倶楽部』はこうだっていう。
坂本
その要因もあるかもしれませんね。というのも、本作は『消えた後継者』や『うしろに立つ少女』と物語の構成を変えています。これまでの作品は、怪しい人がどんどんいなくなって自然と絞り込まれていくのに対して、本作は怪しい人や謎が残ったまま進行し、物語の最後に一気に明らかとなります。クライマックスで、点と点だったものが線で結びつく構成は従来通りなんですが、今回は山場の作りかたが違うというか、大きな山がラストで一気に来るというところが『ファミコン探偵倶楽部』らしくないと思われているのかもしれません。

宮地
ディスクシステムのころは前後編に分かれていたので、前編と後編それぞれの終わりにシナリオの山を作っていたんじゃないかな? と想像しています。でも『笑み男』の場合は真相にじわじわ近づいていく。それが今作の特徴でもあり、過去作との違いでもあるんだと思います。都市伝説を扱っていることもあって、怖さもじわじわ感じると言いますか。超常現象や怪奇現象のような実在しないものへの怖さではなく、嫌な噂や不審者の話などを聞いてふだんは何でもない帰り道が急に怖くなっていくような怖さに切り替わったのも、賛否が分かれた部分かなと。

――なるほど。もともと坂本さんが動画でお話をされていた賛否両論が生まれる(※2)というのは、いわゆる結末の部分に対する反応を想定されていたってことなんですよね?

坂本
僕がもともと思っていた賛否両論はおっしゃった通りで、本作の最終的な結末をネガティブに感じて拒否するか、受け入れたうえで自分はこう思うという意見が出てくるかなと思っていました。

※2:本作の発表時に公開された、“プロデューサー坂本 賀勇が語る『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』”の動画内で、坂本氏は「自分が描きたかったものをストレートに表現しているので、とくに結末は人によっては賛否が分かれるかもしれません」と語っていた。

――そちらはネタバレにもなりますので、のちほど詳しくお聞きさせてください。

坂本
ただ、想定外の部分はありましたが、多くの方からいろいろなご意見をいただけることは本当に貴重でありがたく思っています。また、僕たちが伝えたかったことをわかってもらえたうえで、応援してくださる方もいらっしゃって、ものすごく励みになりますね。

宮地
多くのゲームがある中で、本作を手に取っていただき、遊んでいただけているだけでもすごくうれしいですし、ありがたいことだと思います。それに本作は、日本語のほかに多くの言語(※3)を収録していて、海外でも評価をいただいています。日本を舞台にしている作品にも関わらず、海外の方に受け入れていただけたのは、とても興味深いですね。

※3:英語, フランス語, イタリア語, ドイツ語, スペイン語, 韓国語, 中国語 (簡体字), 中国語 (繁体字)を収録。
坂本
予想以上に、海外の多くの方々に今作のテーマやストーリーを高く評価していただいていることに驚いています。海外のアドベンチャーゲームやビジュアルノベルの市場は決して大きくないのかもしれませんし、そもそも『ファミコン探偵倶楽部』はリメイク版で対応していない言語もある中で、好意的に受け止められているのはうれしいです。以前と比べて、日本のサブカルチャーに興味を持たれている海外の方は多いので、メッセージをストレートに伝えれば、国や地域が違ってもちゃんと伝わるんだと手応えを感じました。

ネタバレ注意! ファンへの小ネタと結末への想い


――せっかくの機会なので、ネタバレに関することもお聞きできればと思います。小ネタのネタバレですが、本作では携帯電話が登場して電話番号入力でシリーズに登場した番号をかけると、『消えた後継者』の神田弁護士事務所を彷彿させる場所や、『うしろに立つ少女』のサンボラにつながるのがうれしかったです。これも『ファミコン探偵倶楽部』のお約束の要素として入れたのでしょうか?

宮地
シリーズをプレイされてきた方が「やるだろうな」ということは、期待に応えられるように用意しておこうっていう考えで入れています。

――本作の中で電話番号のヒントはないですよね?

宮地
ないですね。シリーズ作を遊んで、電話番号を覚えている方じゃないと気づかないと思います。

坂本
ただ、これまでの作品でも110番といったように、電話をかける要素は用意していましたから、それでピンときた方は体験版の時点で思いついた番号に電話をかけているようでしたね。

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サンボラの電話番号にかけると、受話器を取るのは……。
――シリーズファンは電話が出てきたらやりますよね(笑)。本作では、『うしろに立つ少女』の“あゆみちゃんとの相性チェック”に近い要素として、“福山先生の通信簿”が収録されていました。こちらも印象的でしたが、実装した経緯を教えてください。
坂本
通信簿はかなり細かい設定があって、これまた宮地に担当してもらいました。

宮地
本作では相性チェックの代わりに、プレイヤー自身の“探偵度”を測る要素として通信簿を入れました。あゆみちゃんとの相性チェックのときにも、コマンドの選びかたによって結果が変わる部分があったかと思いますが、それの強化版といった形です。福山先生を登場させた理由もちゃんとあって、ストーリーをクリアーした後、つらい気持ちになる方がいらっしゃるのではないかと思ったんです。そこで重たい気持ちを跳ね飛ばしてくれる役割を、福山先生に担当してもらうことにしました。

――持ち前の明るさで跳ね飛ばしてもらう。

宮地
坂本は「お前が言うんかい」ってツッコミを入れていましたが(笑)。

坂本
福山ってところがポイントなんです。「お前に評価されんの?」っていうところで、苦笑してもらおうかなって。

――しかも、福山先生けっこう辛口の評価ですよね?

坂本
だから余計に「お前が言うんかい!」って気持ちになりますよね。

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――福山先生がハンコで評価してくれるのも、通信簿っぽくていいなと思いました。
宮地
ハンコは坂本のアイデアです。顔はいっしょですが、手のジェスチャーが違っていて。

坂本
ハンコを見ても、「お前に評価されるんかい」ってツッコミを入れたくなるかなって(笑)。

――たしかに(苦笑)。ゲーム内の穴埋めなどはほぼ正解していて自分ではできていたつもりでもけっこう低評価だったのですが、どういった部分で判定されているのでしょうか?

坂本
評価に影響するものは、いっぱいあります。

宮地
通信簿の評価は、ゲームが始まった直後から細かく行っていますが、さりげなく用意しているので、気づかないままクリアーしている方が多いのではないかと思います。ストーリーを進めるためのコマンドのほかに、探偵として適切な行動を取れたかを判定するコマンドを用意していて、そのコマンドを選ぶと相手の対応や、探偵くんの聞き込みのしかたが変わったりするんです。なので、どれだけ“推理する”で正しい推理をしても、ふだんの行動が探偵らしい追求につながっていないと通信簿の評価は平均的になります。満点を取るのはけっこう難しいかも……。

――なるほど。それは気づかなかった……。

宮地
たとえば、序章の遺体発見現場で警官と会話する際、”死因”を聞くと、”絞殺”という情報が得られます。この”絞殺”という言葉にピンときた方は、凶器があるのかなと想像して、もう一度”死因”を聞くと思います。そうすると、ほかのコマンドを選んでから再度”死因”を聞いたときと探偵くんの聞き込みのしかたが変わり、警官の受け答えにも変化が表れます。これで通信簿に影響するポイントを獲得できる、という仕組みになっています。一度”死因”を聞いただけで別のコマンド、たとえば“死亡推定時刻”を選んだ場合は、ポイントが得られません。会話のほかにも、背景が変化するパターンもあって、気づいて調べることができればポイントが加算されます。こういった細かい判定が、各章にいくつか散りばめられています。

坂本
会話のやり取りを充実させるために、コマンドを選ぶ順番などはかなりこだわって開発しています。

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――とすると、特定の順番通りにコマンドを選ばないと、聞けない会話がそれなりにあるということでしょうか?
宮地
それなりにありますね。開発者としてはすべての会話を楽しんでほしいですが、あくまでも気づいた方向けのご褒美になっています。

――先ほど「多くの人が楽しめるように選択肢をわかりやすくした」というお話をされていましたが、そのわかりやすいフラグと並行して、この評価用の選択肢の順番を用意するとなると、複雑な選択肢の設計になる気がするのですが……?

坂本
作るのはなかなかたいへんでした(苦笑)。

宮地
用意するのは苦労しましたね。考えることが好きな方には、ぜひじっくり会話を聞いていただき、背景などにも注目しながらプレイしてみていただきたいなと思います!

――探偵としての資質が問われますね……。

※編注:ここからは非常に大きなネタバレがあります。未クリアーの方は、最後の最後までクリアーをしてから読まれることを推奨します。
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――本作では、終章をクリアーすると新たなエピソードがプレイできるようになります。こちらについてお聞かせください。このエピソードは、これまでの物語とは違って、空木先生のひとり語りのように進行し、さらにとある形式が挿入される形で進行していきますが、あのような表現にした意図などを教えていただけますか?
宮地
あのエピソードは、それまでと同じコマンドを選ぶような形式に落とし込むことも考えたのですが、開発のかなり早い段階から客観視点や神の視点で描こうということが決まっていました。

 我々が考える探偵というのは、犯人を当てるといったものではなく、真実を見つけ出す存在です。今作では、最終的に“笑み男という都市伝説は何だったのか”という真実を知るために、だいぶ昔のことまでさかのぼります。しかしそれは、主人公の探偵くんやプレイヤーが介入できる現在進行系の物語ではなく、もう取り返しのつかない過去として、何もできない、知ることしかできないということを表現するうえで、これまでにない形のものを目指して、ああいった表現にしています。

坂本
最後のエピソードに入った段階で、調査報告を行う空木と向き合っているのは、主人公の探偵ではなくプレイヤーなんです。もちろん、脚本でそのように明言はしませんが、我々はプレイヤーの視点で見てほしいという思いがありました。そのエピソードと本編を併せてこそ完結する一つの物語として、今作を描いているんです。

宮地
あとは内容が内容だけに、覚悟を決めて見てほしいという意味も込めて、本編とは切り分けるような作りにしました。社内でも「しんどくて見られない」という人がいたので。
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――たしかに非常に重い内容でした。空木先生の独白から、●●●(編注:ネタバレのため伏せ字)になるのも驚きました。
坂本
あの表現は、空木が調査した内容をもとに作られたものなので、誰の視点でもなく、客観視点で描かれたものなんです。

 そのエピソードをどう見るのか。えげつないなと見る人もいれば、深く心に刺さる人など、人それぞれでいろんな見えかたがあると思います。それはそこまでずっとこの物語に触れてきて、空木のパートのいろいろな話を聞いた方々がどう受け止めるか、どう感じるか、その解釈は遊んでくださった方の頭の中にあったものがすべてだと思うんです。それらを元にいろいろと想像してもらって、そのうえで空木の問いに各々の考えを持って答えてほしい、と思っています。

宮地
もしかすると空木からの問いへの答えは、プレイした方のそのときの気持ち、立場、年齢、経験などで変わってくる部分になるかもしれませんね。

坂本
このパートは、プレイヤーが直接的に介入するのではなく心でインタラクトするものだと考えているので、あの表現で描いたエピソードもまた、インタラクティブドラマの一部だと考えています。つまり宮地が言ったように、人それぞれの受け止め方がある。一連の物語を収めるためにはあの表現しかなかったと確信しているので、やってよかったという満足感はありますね。

――先ほどの話にもつながりますが、このエピソードの重さも含めて、坂本さんは賛否両論が生まれると思っていた、ということですよね?

坂本
もともと想定していたのは、「いや、これはもう受け入れられない」と拒否されるのか、「悲しいけれども、自分なりの答えを見つけなければいけない」と受け止められるのか……。物語を最後まで見届けた後の受け止めかたに関してですね。さらに言えば、こういったメッセージをゲームというエンタメで発信することがどう映るのか……といったことに対する賛否両論を想定していました。本作に対するさまざまなご意見を元に、我々のチャレンジの意義を見極めたいと考えたんです。

――主人公が犯人を当てて事件を解決するといったものを想定していたプレイヤーは、多かったのかもしれません。

宮地
いわゆる探偵モノのドラマやゲームでは、警察も探偵側に積極的に情報をくれるものが多い印象がありますが、実際の警察は当たり前ですけど民間人には全然情報をくれないんですよ。鎌田警部や神原刑事はわりと情報をくれたほうで。警察と探偵が同じことをしてもダメですし、そもそもの役割が違うのですが……もしかすると、私たちが考える『ファミ探』における探偵と、プレイヤーの方が想像されていた探偵モノに差があったのかなとは思っています。

――賛否両論はあったにせよ、35年ぶりの『ファミコン探偵倶楽部』の新作として、坂本さんとしてはやり切ったという感じでしょうか?

坂本
やり切ったと思っていますし、現時点ではベストなものができたと思っています。でも、本作で『ファミコン探偵倶楽部』というインタラクティブドラマが完成したかというと、そうではないというのが正直なところです。

 今作で確かな手応えを感じられた部分を、どうすればより良くできるのか? インタラクティブドラマとして進化させるためにさらに何が必要なのか? を考えていきたいですね。

――35年ぶりに復活したことで、『ファミコン探偵倶楽部』の今後の展開や新作を楽しみにしているファンは多いと思います。前述の任天堂公式サイトの“開発者に訊きました”では、坂本さんから宮地さんに「後継者が見つかりました」というお話もありましたが……?

坂本
いまの段階でどうなるかわかりませんが、『ファミコン探偵倶楽部』シリーズを続けられるなら、本作の開発を通して、同じものを見て、同じように考えて、結果を共有している宮地といっしょにやりたいですね。いわば“消えない後継者”として(笑)。『ファミコン探偵倶楽部』の未来はどうあるべきか。どのような課題があるのか。いろいろな問題をクリアーしていくのが、自分たちのやるべきことだと考えています。

宮地
“消えない後継者”になるためのプレッシャーと言いますか、『ファミコン探偵倶楽部』というIP(知的財産)を引き継いでいくのは、相当な覚悟が必要になります。ただ、35年という長い時間を経て、『ファミコン探偵倶楽部』がもう一度動き出したこと自体は、ものすごく価値のあることだと思っていますし、掘り下げたいキャラクターはたくさんいますので、いろいろな可能性を考えながら準備を進めたいと思います。

――『ファミコン探偵倶楽部』の今後も期待しています!

坂本
ありがとうございます。『ファミコン探偵倶楽部』には、それぞれ僕が伝えたいテーマが内包されています。本作のテーマとは何なのか? それを自分はどう思い、どんな答えに至ったのか……。そのうえで、人のために自分は何ができるのか? ということをみなさんが考えるきっかけになれればうれしいです。夢物語かもしれませんが、やさしい世界を実現できるようなメッセージをこのシリーズを通して発信し続けたいです。本作をまだ遊んでいない方は、この機会にぜひ手に取っていただきたいですね。

宮地
3章まで遊べる体験版もありますので。

坂本
セールストークっぽい(笑)。

宮地
(笑)。本作は、任天堂としてもいろいろな面で挑戦的なタイトルになっていて、挑戦してでも伝えたいことがつまっています。どのような感想を持つかは、人それぞれで違うと思いますが、いまよりもまわりに対してやさしい気持ちになって、少しでも笑顔になれる人が増えるとうれしいですね。そしてどんな形でもいいので、本作にインタラクトしたことが、心や記憶に残ってくれたらいいなと思います。

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