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「Amazonクラウド」の威力ネットベンチャーでもできるクラウド(1/3 ページ)

» 2009年08月11日 08時15分 公開
[今泉大輔,ITmedia]

 1997年に視察の一環でシアトルにある米Amazonの本社を訪問したことがある。当時のAmazonはすでに世界最大のネット書店だった。それから10年あまりが経ち、現在は世界最大のレンタルサーバ会社という顔を持つようになった。

 「Amazon EC2(Elastic Computing Cloud)」はクラウドコンピューティング関連の事例において、筆頭に出てくる環境だ。本稿では、既存のホスティング会社からAmazon EC2に移行した経験に基づいて、エンドユーザーの視点で「レンタルサーバ」としてのAmazon EC2の実力を俯瞰する。

初期費用が重くのしかかるホスティング

 わたしが代表を務めるピーポーズでは、利用者の空き時間を売買できる「pepoz」およびブログパーツの「メルPEPO」という2つのWebサービスを提供している。pepozは2008年5月にβ運用を開始し、同年の7月に本開業した。メルPEPOは2009年4月末から運用している。

 サービスの開始に当たり、Webサービスを提供するサーバについて、自前運用も含めて幾つかの選択肢を検討し、コストと信頼性双方の条件を満たす米国拠点のホスティング会社を選んだ。ここは日本語のサポート窓口があり、価格も安価。何かあると夜中でも電話で対応してくれる支援体制もあった。一番多い時には、計5台のサーバを借りていた。

 ホスティング会社同士の価格競争が激しくなっているため、毎月のサーバのレンタル費用は、いいホスティング会社を見つければ安く済む。1〜2万人程度の会員に対して、ある程度のパフォーマンスを確保しながらEC(電子商取引)系のサービスを提供するには、サーバのレンタル費用は月間20万〜25万円程度になる。サーバを3台ほどを借り、セキュリティ関連、サポート関連、バックアップ用ディスクなどのオプションを含めた金額だ。

 毎月のレンタル費用以上に問題になるのが、サーバの「初期費用」である。これはおおむね月間のレンタル費用の3〜5倍で設定されている。月間20万〜25万円のサーバ構成を借りる場合、初期費用は100万円を超えることもある。事業の立ち上げ期には、この価格設定が非常に重くのしかかる。

 ホスティング会社の視点に立てば、初期費用が高いのはごく自然な流れだ。顧客は少しでも安いレンタルサーバを求めて、ホスティング会社をすぐに変えたがる。ホスティング事業者が収益を安定させるには、初期費用をなるべく多めに取って、顧客のスイッチングが起こりにくいようにしなければならない。

*ただし、ホスティング会社の初期費用には、ハードウェアの手当てやオプションの組み込み、セットアップなどの実費的な要素もある。

ホスティングの図式を破壊したAmazon EC2

 この図式にまったく異質のプレーヤーとして参入してきたのがAmazonである。

 Amazon EC2には初期費用という考えがない。ネットワーク経由でサーバの機能を使った分だけ支払う従量制の価格体系である。

 日本では2008年1月ごろにAmazon EC2のもっとも早い利用者が出現している。彼らのブログにたまたま行き当たり、Amazon EC2が劇的に安いサーバ環境であることが分かった。

 AmazonのWebサイトで価格表を確認すると、「Small: $0.10 per hour」「Large: $0.40 per hour」といった見慣れない単位の値段が並んでいる。

 1カ月を30日720時間として計算してみると「Small」と呼ぶメニューの場合は月額72ドルである。「Large」でも288ドルだ。Smallが中位CPUを搭載したサーバ、Largeが上位CPUを搭載したサーバだとすれば、安すぎるぐらいの価格設定だった。だが、すでに上記のホスティング会社のサーバで開発を進めていたこともあり、乗り換えまでは考えなかった。

*重いデータの転送が頻繁に生じるサービスでは、データ転送料が大きくなる可能性があるので注意が必要だ

 サーバ環境を本気でAmazon EC2に移行しようと考え始めたのは、ピーポーズの月々のキャッシュアウト削減でいろいろと手を打ち始めた2008年10月頃だ。弊社は役員であるわたしと石井大輔が設立したが、2008年の3〜4月に増資を行い、複数の企業や個人の方から出資を受けており、公の性格を帯びた会社という認識で経営をしている。7月に始めたpepozの売り上げが伸び悩む中で、会社としては、毎月のキャッシュアウトを減らし、法人として無理なく存続できるように調整する必要があった。

 毎月20〜25万円程度の出費となっていたサーバ費用も、当然コスト削減の対象に入ってきた。

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