仕事における生産性を高めるメソッドは、手持ちのToDoリストを見える化して、その優先度を表示し、次に何をすればいいのかを教えてくれます。中には複雑なメソッドもありますが、簡単に使えるものもあります。お好みなら、ポストイットを使ったお手軽な方法も。今回は、そうした生産性システムのひとつ「Personal Kanban」を紹介します。

Personal Kanbanは手軽に始められる生産性システムです。ルールは2つしかありません。そのルールに従えば、手持ちのタスクをシンプルかつ視覚的に把握でき、優先度やどれだけ達成したかもすぐにわかります。

これまで紹介してきた、「GTD(Getting Things Done)生産性システム」や「ポモドーロ・テクニック」にも通じるところがあります。

また、全体の構造も理解しやすく、活用できるツールもたくさんあります。Personal Kanbanは「カイゼン」のような生産性哲学ではありませんが、自分のニーズに合わせて調節する自由度があり、経験からの学びを組み入れることもできます。それではまず、Personal Kanbanとは何かをお話してから、実際の使い方を解説していきます。

Personal Kanbanとは何か?

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Personal Kanbanは、一言でいえば、ToDoタスクを管理するシンプルなシステムです。最大の利点は、同時にタスクを抱えすぎるのを防ぎ、いつでもタスク全体をひと目で見渡せるようになっていることです。まったく同じではありませんが、製造業(特に自動車産業)でよく使われている「かんばん方式」のムダのないスケジューリングと調達方法とも関係があります。

Personal Kanbanのアイデアは生産性の専門家、ジム・ベンソン氏とトニアン·デマリア・バリー氏が2011年に『Personal Kanban:Mapping Work | Navigating Life』を書いたことから始まります。

Personal Kanbanの基本である、タスクの見える化と優先順位づけは、古くからあるアイデアですが、この本は、システム全体の働きをわかりやすく解説し、タスクが多すぎる場合や、優先順位がうまくつけられないときの具体的な対策を教えています。

Personal Kanbanには主要な「ルール」が2つあります。

  • タスクを見える化する:簡単に言えば、常にタスク全体を見渡せるようにして、次に何をすべきかすぐに判断できるようにしておくことです。また、優先度や期限がひと目でわかるようになっていること、タスクを追加したり、削ったり、並べ替えるのが簡単なことも重要です。米Lifehackerではこれまでも、ToDoリストを見える化するさまざまな方法を紹介してきましたが、Personal Kanbanもそうしたものの1つです。
  • 作業中のタスク(Work-in-progress:WIP)を制限する:言い替えれば、同時にやることの数に限度を設けることです。これは2つの利点があります。1つ目は、タスクの見える化が容易になること。同時に取り組むタスク数が制限されるのですから当然です。2つ目は、マルチタスクの危険を回避できること。つまりは燃え尽き症候群になることを防げます。また、仕事量を慎重に管理することで、職場での人間関係を壊さず、上手に「ノー」と言えるようになるでしょう。

この2つのルールを基礎として、Personal Kanbanをいかに実装するかはあなた次第です。複雑なアプリやツールを使ってもいいし、シンプルな掲示板やポストイットやノートを使ってもいいでしょう。公式ツールや製品は特にありません。ベンソン氏とデマリア・ベリー氏は、始めるにあたっていくつかのアドバイスをしています。あなたもライフハッカーか、どこか他のサイトで目にしたことがあるかもしれません。

Personal Kanbanの始め方

Personal Kanbanの始め方は簡単です。必要なのは、タスクを並べる「かんばんボード」だけ。ポイントはタスクをどう整理するか。まずは、かんばんボードに、シンプルに「未着手(To-do)」「作業中(Doing)」「完了(Done)」の3つのカラムを描けばOKです。

「作業中」セクションには、現在進行中のタスクをすべて並べます。すぐに取りかかる予定のものもここに入れます。優先順位がつけられていれば、なお理想的。ぱっと見渡せば、次にどれをやればいいかすぐにわかります。また、まだ手をつけていないけれど、いつかはやらなければならないタスクは「未着手」セクションに並べます。

「完了」セクションはわかりますよね? 完了分もボードに残しておいくことが大切です。どれだけ達成したかを見ることで、モチベーションと生産性が維持できます

これがシンプルなやり方です。米LifehackerでもこれまでポストイットとホワイトボードでToDoタスクを管理するメリットをいろいろ紹介してきましたから、どこかで聞いたことがあるかもしれませんね。

ホワイトボードはPersonal Kanbanにはぴったりです。カラムを描くのも簡単で、タスクもすぐに書き込んだり消したりできます。また、タスクをポスイットに書いてボードに貼ってもいいでしょう。

それならタスクを移動するのにわざわざ書き直す必要もありません。また、ポストイットはさまざまな色があって、優先度に合わせて使い分けられます。たとえば、黄色は中くらいの優先度で、紫は優先度低、赤は最重要のタスク、みたいな感じです。

そうすれば、ホワイトボードをひと目見るだけで、手持ちのタスクが全部でどれだけあって、最も重要なのはどのタスクかがわかります。時間ができたら、「未着手」のカラムからタスクを1つ選び、「作業中」に移動します。このやり方なら、タスクを詰め込みすぎかどうかを簡単に見極められます。

かんばんボードは重要なものですが、機能的にはタスクを見える化しているに過ぎません。

2番目のルール、作業中のタスクを制限するのが重要です。タスクをひたすら貼っていけば、いずれ手に負えなくなって、見える化の意味がなくなります。また、ストレスや不安も増大するでしょう。ベンソン氏とデマリア・ベリー氏も、タスクを詰め込み過ぎないことが重要だと説いています。

「作業中」セクションや、かんばんボード自体に貼るToDoタスクの数を厳格に制限してください。「未着手」のセクションからあふれたものは、バインダーに閉じるか、ポストイット・パッドにためておきましょう。そうすることで、かんばんシステムの秩序を保ち、有用性を維持できるのです。

Personal Kanban(Personal Lanban)の公式サイトに、詳しいTipsを教えるスライドショーが載っています。

Personal Kanbanをサポートするアプリやツール

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仕事場にホワイトボードを置くスペースがなくても、卓上ボードやコルクボードもかんばんボードとして使えます。他にもさまざまな代用品が考えられます。ウェブやダウンロードアプリを使いたければ、以下がお勧めです。

  • Trello:大人気の生産性ツール『Trello』はまさにかんばん方式を参考に作られています。また、Trelloで生活全般をオーガナイズする方法や、TrelloをGTDに使う方法も解説しました。

    Trelloの視覚的なデザイン、カラム重視の整理方法、ToDoタスクをカードとして扱うなどの特徴は、Personal Kanbanに完璧にフィットします。あなたがやるべきことは、カラムを定義して、ToDoタスクを追加するだけ。ToDoタスクには、締切日、メモ、リマインダー、優先度を示すマーク、画像なども付加できます。

  • KanbanFlow:このサービスはTrelloに似ていますが、もう少しかんばん方式にフォーカスしています。KanbanFlowには「Today」というカラムがあり、作業中のタスクから今日やる分だけを取り出して集中することができます。

    その他の特徴はおなじみのものばかり。ToDoタスクにメモやリマインダーを追加したり、優先度にしたがって視覚的に整理したり、作業中のタスク数を制限したり、必要なら、他者と共同作業も可能です。また、ポモドーロタイマーもついていて、集中力を高めるのに一役買ってくれます。

    後ほど紹介しますが、かんばん方式(およびKanbanFlow)のすばらしい点は、他の生産性システムとうまく統合できることです。さらに、KanbanFlowのサイトはスマートフォンやタブレットからもきれいに見れて、専用アプリは不要です。

  • Evernote(とKanbanote):Evernote単体は、かんばん方式にそれほど向いていません。視覚的とはほど遠く、ノートでいろいろ工夫しても、たかが知れています。とはいえ、Evernoteは情報の収集と整理にはめっぽう強いわけで、あとは見える化さえできればOKなのです。

    そこで『Kanbanote』の出番です。KanbanoteはEvernoteのノートを視覚的なアイテムに変えてしまいます。もちろん、未着手、作業中、完了の3つのカラムも使えます。Androidアプリもあるので外出先でも利用できます。

もちろん、必ずしもアプリを使う必要はありません。デジタル好きはそれでも構いませんが、アナログなやり方が好みなら、スケッチブックやポストイットでかんばんシステムを作ればOKです。紙と鉛筆だってかまいません。

また、かんばん専用の黒板やホワイトボードも販売されており、必要な物が最初からそろっていて、机の上でも使えるサイズです。かんばんボードは大きくないといけないという決まりはありません。また、ポストイットを使えというルールもありません。自分のワークフローに合ったやり方を見つけてください。

Personal Kanbanを長期で運用する

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Personal Kanbanはシンプルかつ柔軟なシステムです。壁の一部を使ってもいいし、アプリをダウンロードしたり、ノートに走り書きしてもOK。このシンプルさと柔軟性が、長期的な運用を容易にしてくれます。自分にあった方法を選んでください。ポイントは、あなたのワークフローを壊すのではなく、補強してくれるやり方を見つけることです。

また、ツールに使われるのではなく、ツールを使いこなすことが大切。オフィスのホワイトボードを使えば、振り返るだけで、次にやるべきToDoタスクがわかって便利です。移動が多い人は、TrelloやKanbanFlowを利用しましょう。そうすればホワイトボードを持ち歩く必要もなくなります。

先ほど少し触れましたが、Personal Kanbanのもうひとつの素晴らしさは、他の生産性テクニックとうまく連携することです。あなたがGTDやポモドーロのファンだとしても、Personal Kanbanを諦める必要はありません。ToDoリストを使うどんなシステムも、Personal Kanbanの利益を享受できるのです。いま使っているメソッドを手放す必要はありません。少しリミックスを加えるだけです。

たとえば最近、ライフハッカー[日本版]でも、クリス・S・ペン氏の「付箋とマスキングテープを使ったToDoボード」を紹介しました。このやり方はアイゼンハワー元大統領の意思決定マトリックスを元にしています。

ペン氏はマトリックスを使っていますが、Personal Kanbanとの統合も簡単にできます。マトリックスを「作業中」セクションに流用して、左右に「未着手」と「完了」セクションを追加すればOK。あなたが今使っているToDoリストを調べて、どうすれば統合できるか考えてみましょう。

守るべきポイントは、現在取り組んでいるタスクを「作業中」に、やらなければいけないがまだ手をつけていないタスクを「未着手」に配置することだけ。あとは、完了したタスクをはがしてしまわないで「完了」に移動すれば完璧です。とってもシンプルです。

最後に

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この記事を参考にすれば、Personal Kanbanを始められるはずです。とはいえ、まだほんの基礎を触った程度に過ぎません。たとえば、このメソッドは個人のToDo管理だけでなく、チームのマネジメントにも効果を発揮し、準備も簡単です。もちろん、ベンソン氏とデマリア・ベリー氏の本『Personal Kanban: Mapping Work / Navigating Life』は必携ですが、さらに学びたければ、他にも参考となる資料は見つかります。

Personal Kanbanは、一種の生産性理論みたいに聞こえるかもしれませんが、コアな原則は非常にシンプルです。つまり、「常にタスクを見える化しておく」ということ。それと、「同時に多くのことをやり過ぎない」こと。それだけ守れば、あとは自分のワークフローに合わせて好きなように調整してください。

Alan Henry(原文/訳:伊藤貴之)

Photos by Kanban Tool, Pumsuk Cho, Dennis Hamilton, and Nadja Schnetzler.
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