Author Interview

動物の持つ磁気コンパスの謎に一歩近づく ~光受容タンパク質の電子伝達機構~

濱田 実里 / ダイキン工業株式会社・神戸大学

2021年9月に、Communications Chemistry研究成果を出版されたダイキン工業株式会社の濱田実里氏(研究当時、神戸大学大学院理学研究科化学専攻)に、本研究成果の背景、大学で研究したことと企業でのお仕事の繋がり、業務におけるOA誌の活用方法などさまざまな質問にお答えいただきました。

―― 本論文の研究はどんな研究ですか?背景、工夫したところ、思い入れについて教えてください。

濱田氏: 本研究は、電子スピン共鳴(ESR)法という磁場を用いて内部の電子スピン状態を観測する手法を駆使して渡り鳥などの磁気コンパスとして重要な役割を果たすと考えられている光受容タンパク質の立体構造を解析し、タンパク質内部の電子的機能を明らかにしたものです。この研究を実施するにあたり、サンプルの前処理作業で苦労した思い出があります。サンプル周辺に酸素があるとESR測定はうまくいかないので、サンプルを入れる容器を一から作る必要がありました。また、対象サンプルは光刺激によってダメージを受けるので、暗闇の中、毛細管のような容器をガラス細工で作成しました。何度も失敗しましたが、苦労を経てやっと目的のデータを取れたときはとても嬉しかったですし、それが今回の論文に載ってとても感慨深いです。

―― 現在の仕事の内容とやりがいを感じているところを教えてください。

濱田氏: 空調サービス現場の業務効率化を推進する部署で、困りごとのヒアリングや、業務を改善する為のシステムを導入する仕事をしています。入社してからITのことを学ばせていただく機会もあり、部署にあるデータの分析業務なども行っています。自分の担当したシステムを現場の方に使ってもらい、「業務が楽になっている」などのご意見をいただいたときは、やはりとても嬉しく、やってよかったなとやりがいを感じます。

―― 本論文の研究過程で得られたことは、現在のお仕事にどのように活かされていますか?

濱田氏: 研究時代に学んだことで活かされていると感じることは、仮説検証の考え方です。研究ではやみくもに実験するのではなく、教授とのディスカッションを通して、このような仮説が考えられるから次はこんな実験をして検証しよう、と計画を立てて進めていました。現在の仕事でも部署にあるデータを分析する際には、先ずどのような仮説を立てられるか、次にこの分析からどのような結果を得たいか、さらにそれが最終ゴールにどうつながるかといったところを明確にした上で取り組むようにしています。たくさんのデータの中から重要な知見を見つけ出すデータ分析業務において、この考え方はとても役に立っています。

―― Communications Chemistry はOpen Access(OA)誌です。仕事のなかで「OA誌の論文でよかった」という意見が出ることや、実際にメリットを感じたことはありますか?

濱田氏: 社内で実際にOA誌を活用している方から、「すぐに読める」のが大きなメリットという意見が挙がっていました。社内の規定では、契約していないジャーナルの論文を購入して読もうとすると、取り寄せ依頼の社内手続きをかける必要があり、手元に来るまでには早くとも1週間かかります。とりわけ、実験項だけを読みたいといったことも多いにも関わらず、その為に取り寄せ依頼をして待たなければならないというプロセスが社内の研究開発において律速になる場合もあります。さらには、待ったあげく欲しい情報が記載されていなかったこともあると聞きました。それに対して、内容を一読しさらに熟読できるプロセスを短期間に行えるオープンアクセスは、研究を進めるにあたって非常に有益に活用させていただいているそうです。

―― これから研究をはじめる/これから社会人となる大学生へのメッセージをお願いします。

濱田氏: 答えのない領域でも自分の頭で考えて、試行錯誤し成果を出すというのが研究の醍醐味だと思います。自分なりに工夫した研究の進め方や実験、分析などで結果が得られたときは嬉しいものですし、それらの過程が自分の成長にもつながっていました。こうした学生時代の経験は、今後どのような分野に進んでも大きな武器になるはずです。私も現在は研究職ではなく企画系のグループで働いていますが、学生時代に学んだことは今でも役に立っていると節々で感じています。学生時代の経験はとても貴重ですから、これから研究を始める大学生には一生懸命研究と向き合い、有意義な時間を過ごしていただきたいなと思います。

取材:本多智(Communications Chemistry 編集委員)

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この作品はクリエイティブ・コモンズ表示4.0国際ライセンスの下に提供されています。

Communications Chemistry 掲載論文

Article: クリプトクロムの磁気感受性に影響する二段階目の光電荷分離構造とその水和ダイナミクス

Orientations and water dynamics of photoinduced secondary charge-separated states for magnetoreception by cryptochrome

Communications Chemistry 4 Article number: 141 (2021) doi:10.1038/s42004-021-00573-4 | Published: 30 September 2021

Author Profile

濱田 実里(はまだ みさと)

ダイキン工業株式会社/神戸大学大学院理学研究科化学専攻

経歴:
2019年3月 神戸大学大学院理学研究科化学専攻 修士課程修了
2019年4月~現在 ダイキン工業株式会社(サービス本部企画部)

モットー:
健康第一

濱田 実里氏

Communications Chemistryの対象範囲、編集部、編集委員会、オープンアクセス、論文掲載料(APC) について、About the Journalをご覧ください。
投稿規定については、For Authorsで詳しくご説明しています。

「著者インタビュー」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度
pFad - Phonifier reborn

Pfad - The Proxy pFad of © 2024 Garber Painting. All rights reserved.

Note: This service is not intended for secure transactions such as banking, social media, email, or purchasing. Use at your own risk. We assume no liability whatsoever for broken pages.


Alternative Proxies:

Alternative Proxy

pFad Proxy

pFad v3 Proxy

pFad v4 Proxy