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データセンターも「ガラパゴス」か 節電の夏が問う日の丸IT

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原発事故による電力不足で迎えた「節電の夏」。危機回避のため産業界が15%の使用削減を迫られるなか、大事な情報を扱うサーバーは止められないと、データセンターは制限を緩和されている。ところが「日本的なセンター運用が電力の無駄遣いを生んでいる」との声が聞こえてくる。成長するクラウドコンピューティングのインフラ分野でも、日本は「ガラパゴス」なのか。

群馬県館林市。最高気温が30度以上の真夏日になると特別セールを実施する商店街があるなど、暑さで有名だ。この夏も各地で初の猛暑日を記録した6月22日、36.5度を観測した。日本を代表するデータセンター、富士通の「館林システムセンター」がここにある。

データセンターでは大量の熱を出すサーバーの安定的な冷却が重要なはず。素朴な疑問がわいてくる。そんな施設を日本有数の暑い土地に置くのはなぜ――。

富士通によると、データセンターに情報やデータを預けている顧客企業は、1社当たり年に数回センターを訪れる。運用体制やサーバーの状況を見たいという要望が多いのだという。館林市の公式ホームページを見ると「東京との交流は密接。鉄道や道路などの地理的条件に恵まれている」とある。特急列車なら東京・浅草から1時間。「すぐ行ける場所という心理的メリットが大きい」。富士通は館林立地について説明する。

富士通だけではない。新日鉄ソリューションズでも、定期的にセンターを訪れて作業をする顧客企業は多く、常駐するケースさえあるという。同社は東京都三鷹市に120億円を投じるデータセンターを新設中。着工は1月で、その後、東日本大震災が起こったが、計画に変更はなし。「災害時にオフィスから駆けつけられることを事業継続計画(BCP)の要件にする企業も多い。メーンのセンターは東京やその近郊にと考える顧客が依然多い」とみる。

データセンターはサーバーが持つコンピューター能力をインターネット経由で使う。技術的にはサーバーを遠隔管理することも可能だが、それでも「センターに出向いて直接作業」が日本では好まれる。首都圏に7割のデータセンターが集中する背景だ。

今回の電力不足をきっかけに、リスク回避のため西日本にデータセンターを移すといった動きも一部で出てきたが、問題は地域的な偏在に限らない。そもそも、人間が頻繁に出入りすることを前提にした日本のセンターは運用上、構造的に電力効率が悪くなるとの指摘がある。

「日本のデータセンターは人間が涼しいと感じるところまで室内温度を下げている。人間が作業するとなれば照明も必要になる」。こう話すのは、世界のデータセンター事情に詳しいコンサルティング会社カミノス・コーポレーション(東京・世田谷)の西川宏代表取締役だ。

 一般にサーバーは気温35度の環境でも機能するが、例えば富士通の場合、センター内の設定温度は22~26度と日本の標準的なレベル。だが、西川氏は「米国では人間とサーバーを同居させない。設定温度は日本より2~3度は高い」と証言する。

日本マイクロソフトが東京電力管内にある企業内データセンター(富士通のような専門センターではなく一般企業が自社で運用するもの)を対象に調べたところ、サーバー1台を動かすのに必要な総消費電力は346ワット。このうちサーバー自体に回るのは43%で、最も電力を消費するのは52%を占める空調だった。同社はデータセンターの室温設定を2度上げれば20%の節電効果があると試算する。データセンターの運用を総合的に見直せば、サーバーを止めなくても節電の余地があるようにみえる。

データセンターの電力効率を示す「PUE」という指標がある。データセンター全体の消費電力を、サーバーなどIT(情報技術)機器の電力で割って算出する。仮にIT機器以外に一切電力がかからなければ数値は1。空調や照明などの付帯電力が膨らむと数値は大きくなり、非効率となる。カミノスの西川氏によれば、日本のデータセンターは2~3が多く、米国では1.2~2が中心。米国ではセンターを建設する際、水冷や空冷などなるべく電力に頼らず冷却できる立地を意識するという。

日本勢でも複数のデータセンターを持つような大手は必ずしもPUEで米国勢にひけをとらない。富士通(館林新棟)=1.5、新日鉄ソリューションズ(三鷹)=1.4以下、日立製作所(横浜第3)=1.6など1台の数値だ。だが安心するのは早い。米国ではさらに1.07をたたき出す企業が現れているからだ。SNS(交流サイト)最大手のフェイスブックだ。

同社がオレゴン州に持つ最新データセンターは、部品を減らし構造をシンプルにしたサーバーを採用。冷却システムの工夫でエネルギー効率を従来比38%向上させた。技術仕様も公開し、インテルやAMD、デル、ヒューレット・パッカードなど有力企業と連携し改良を重ねる。

「ネットビジネスで最もコストのかかるインフラ部分にメスを入れたい」とフェイスブック幹部。電力を無駄にしないデータセンターを抜きに長期的な成長はないとの危機感が伝わってくる。

「データセンターやクラウド事業で日本が後れをとるのは、ものを大事にしすぎるからではないか」。元ソニー幹部でグーグル日本法人の社長もつとめた辻野晃一郎氏はそんな見方をしている。

「日本はサーバーの寿命を延ばそう、壊さないようにしようと冷却にこだわるが、ムーアの法則がある限りハードは2~3年で古くなる。そうなったら捨てて新しいものに置き換えた方がいい。サーバーを耐久品ではなく、消耗品と考えれば冷却の必要性は下がる。米国はそんな風に割り切った発想をし、グーグルのPUEは1.1~1.2程度。品質を高める、ものを大事にするというのは日本人の強み、美徳だが、それがネットのネーチャー(性質)にあわず、動きが遅くなっているのは否めない」

シスコシステムズの予測では、ネットを行き交うデータの量は2015年に10年の4倍と急増する。膨大な情報の高速処理を求められるクラウド時代には、電力対策でも先端を走らなければIT企業としての競争力を保てない。もしも15%の電力削減を免除され、エネルギー問題に鈍感になっているデータセンター関係者が日本にいるとすれば、それこそ危機的だ。

(電子報道部 村山恵一)

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