2025年02月01日公開

5金スペシャル

フジテレビ問題が露わにした放送という利権産業の堕落と終焉

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1243回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2025年05月01日23時59分
(あと61日13時間56分)

ゲスト

1963年沖縄県生まれ。86年早稲田大学教育学部卒業。同年より日本民間放送連盟職員。立教大学社会学部メディア社会学科助教授を経て2016年より現職。23年より立教大学社会学部長。専門はメディア政策・法制度、放送ジャーナリズム論。著書に『安倍官邸とテレビ』、編著に『放送法を読みとく』など。

著書

概要

 月の5回目の金曜日に特別企画を無料でお届けする5金スペシャル。今回は通常の番組編成で、立教大学社会学部教授の砂川浩慶氏をゲストに、フジテレビ問題をきっかけとして、日本の放送行政が抱えている根本的な問題について議論した。

 フジテレビの幹部が自社の女性社員をタレントの中居正広氏に引き合わせ、その後両者の問で性被害問題が発生していたにもかかわらず、その事実を隠したまま中居氏を番組の司会として1年半以上も起用し続けたことが、社会問題にまで発展している。フジテレビ側のその後の対応の稚拙さも手伝って、70を超える主要な企業スポンサーCMの放送を辞退し、ほとんどの番組にCMが流れないという前代未聞の異常事態となっている。まさに民放放送局にとっては命綱といっても過言ではないスポンサー離れにより、フジテレビは存亡の危機に陥っているといっても過言ではないだろう。

 事案の性格上、巷では性被害の事実関係や事件そのものへのフジテレビ幹部の関与などに関心が集中しているが、この問題の根幹にはより大きな構造的問題がある。それは放送局という政府によって極めて手厚く保護された免許事業を営む事業者が、数々の特権の上にあぐらをかいたまま安直な企業経営を繰り返してきたことで、ガバナンスも経営能力も極度に低下しているということだ。今回の事件ではそのツケがいよいよ回ってきたと考えるのが妥当ではないか。

 中居氏の問題が表面化する前から、日本の放送業界、そして放送行政が重大な問題を抱えていることは明らかだった。それは売り上げの減少や番組の劣化、視聴時間の減少などから見ても明らかだ。そろそろわれわれは、電波の有効利用という意味からも、テレビの終わらせ方を真剣に考えなければならないところまで来ているのかもしれない。

 今回の事件では、トラブルの内容やその後の局側の対応の稚拙さが明らかになればなるほど、数少ない地上波免許を付与された、日本を代表する放送局であるフジテレビが、企業ガバナンスや当事者意識、そして人権意識が国民の有限で希少な資源である放送電波というものを委ねるのに値するとは到底思えないレベルにあったことが露わになっている。

 日本では、極めて希少性が高く、よって価値の高い資源である放送電波を、政府が直接放送事業者に割り当て、占有させている。放送免許を政府が直接付与している国は、少なくとも先進国では日本だけだ。他の国で放送免許を付与する権限が独立した第三者機関に委ねられている最大の理由は、報道機関としての機能をも担う放送局にとって、もっとも厳しく監視をしなければならない対象である政府から免許を与えられ、事実上政府に生殺与奪を握られているようでは、報道機関としての本来の機能を果たせるわけがないことが明らかだからだ。

 実際、日本では政府から言論機関である放送局に行政指導という名の介入が日常的に行われている。これは憲法21条に違反する可能性が高いが、放送局側がその違法性や違憲性を訴え出ないために、一向に問題にならない。そもそも免許というとてつもない利権を与えてくれている役所相手に、抗議したり裁判に訴え出ることなどあり得ないのだ。

 政府が直接放送免許を付与している日本では、自ずと放送に対する政府の介入の度合いは強くなるが、その分、放送局側は政府から様々な特権や保護を当たり前のように受けることができる。つまり政府と放送局はギブ・アンド・テイクの関係にある。他の国では放送電波まで電波オークションの対象にしたり、放送局に電波の管理責任を負わせる一方で、番組制作については一定の比率を外部の制作会社に委ねることを義務づけているような国もある。いずれも権限を放送局に集中させ過ぎないことと、より視聴者、つまり国民に寄り添った番組制作が行われることを意図した施策だ。しかし、日本では電波も番組制作も、つまりソフトもハードも放送局が100%独占することが許されている。これは他に例を見ないほど強大な権限にして利権である。また、BSCSなど新しい衛星放送が始まったり、放送のデジタル化によってチャンネル数が増えた時も、新たな電波が既存の地上波放送局に当たり前のように割り当てられ、まったくそれが問題視されることはなかった。これは他の先進国では決して当たり前のことではない。しかし、新聞とテレビが系列化している日本では、メディア上でもそのあたりの議論はまったく皆無だった。新聞とテレビが系列化する「クロスオーナーシップ」も、多くの先進国では決して当たり前のことではない。

 また、フジテレビには放送行政のトップを務めていた山田真貴子氏を含め4人の総務官僚が事実上の天下りをしているが、免許を付与するばかりか箸の上げ下ろしまで放送局に介入してくる放送行政の当事者である総務省の中で、放送業界を担当してきた上級幹部を役員や顧問に迎えることは、どう考えても利益相反が生じる行為だ。しかし、これもまた日本ではほとんどまったく問題視されていない。

 事ほど左様に放送局は政府と二人三脚の蜜月関係にあり、またその分、甘えの構造の中で温々と事業を営むことが可能になっている。そもそも半世紀もの間、新規参入企業が1つもない産業など、放送業界をおいて他にあり得ないだろう。

 これはフジテレビに限ったことではないが、フジテレビの日枝久氏のような長年トップに君臨する「天皇」と呼ばれるような絶対的な存在が生まれやすいのもテレビ業界の特徴だが、それは強い政治的コネクションを持った長老に放送局の利権を護って貰う必要があるからだ。

 さらに、フジテレビは利益の6割以上が不動産など放送以外の事業に依存している。電波という希少資源を付与されながら、有効に活用できていないのだ。それは株式市場が放送局の経営者に対しては非常に低い評価を下していることからも見て取れる。番組内容の低俗化や劣化は言うに及ばず、今回の事件に限らず、不祥事も後を絶たない。そのような会社や経営陣に国民の希少な資源である電波を付与し続けることが本当に市民社会の利益に適っているかどうかを、そろそろわれわれは真剣に考えるべき時が来ているのではないだろうか。

 フジテレビ問題を奇禍として日本は利権と甘えの温床となってしまった放送行政のあり方を見直すことはできるのか。国民の有限の資源である放送電波を無駄にしないで有効活用するためには何が必要なのかなどについて、立教大学社会学部教授の砂川浩慶氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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