「フェアユース」という言葉を聞いて、たいていの人は何のことだかピンと来ないはず。
だが、ネット関連の企業に関係している人なら、その語が何であるかぐらいは最低限覚えておきたい。というのも2009年度、日本の著作権界隈で話題になりそうな重要ワードだからだ。
フェアユースは、ごく簡単に言うと「著作物を公正に利用するなら、著作権の侵害にはあたらない」という法律の原理で、現状、アメリカなどが導入している(関連記事)。
何かの著作物を使う場合、その著作権者に「使っていいですか?」と話を通して、許諾を得てから使用するのが基本だ。さらに場合によっては著作物の使用料を払う。一方、フェアユースがあれば、「公正」な目的で使うときに限って、特に事前に許可を取らなくても著作物を使っていいようになる。
フェアユースの条項は日本の著作権法にないが、インターネットの発達など状況が変わってきたこともあって、ここ数年で導入しようという話し合いが進んでいる。導入にあたって、どういった機関が話し合っていて、何が問題なのか。もし実現したらどんな利益が受けられるのか。著作権に詳しい、メディアジャーナリストの津田大介氏に話を聞いた。
フェアユース導入は文化庁の「仕事」
── フェアユースの導入は、どのような経緯で出てきた話なんですか?
津田:日本版フェアユースは、去年くらいから首相官邸の知的財産戦略本部(知財本部)から「産業振興の観点から著作権法に導入すべし」という話が出ていたんですよ。逆に言うと、これによって文化庁はフェアユース導入を「仕事」としてやらなければいけなくなった。
それで議論を続けていたわけですが、去年は大がかりな著作権法の改正があったため、フェアユースに関する話し合いがきちんとできませんでした(関連記事)。だから、今年は日本版フェアユースの早期導入が重点政策のひとつとして掲げられていて、実際に議論も始まったところです。
実際は、昨年の12月から学者や弁護士などが集まるクローズドな研究会を文化庁が開催し、そこで叩き台となる研究報告書を作っていました(関連PDF)。それを元に4月から文化庁の文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会(法制小委)で話し合いをスタートしました。
法制小委の課題はいくつかありますが、恐らく今年はフェアユースが最も大きい議題になるでしょう。毎年大体年末から年明けくらいまで審議会はやっていますが、夏もしくは秋くらいまでこのフェアユースの議論に費やされそうな雰囲気ですね。
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