中堅システムインテグレーター(SIer)のシーエーシー(CAC)が水産養殖事業に乗り出した。代表取締役社長の佐別當宏友氏は「非連続な事業開発に投資している」と語り、長崎県に同事業を展開する100%子会社「ながさきマリンファーム」を1月初旬に設立したことを明かす。
2022年から新規事業開発に取り組み、養殖事業のほかに就職活動を支援する面接対策用アプリや中小企業向けIT人材シェアリングサービスなど、その数は2025年1月時点で11になる。事業規模は約7億5000万円とまだ小さいものの、労働集約に依存する伝統的なSIビジネスからの事業構造転換を図るためのものと位置付ける。
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CAC 代表取締役社長 佐別當宏友氏
CAC Holdingsの傘下で国内事業を担うCACは、売り上げ約320億円、営業利益率8.4%のビジネス規模になるという。2024年度末の従業員は約1300人、うちITエンジニアが1000人超で、中堅SI並みの1人当たりの営業利益は200万円前後、平均給与は668万円(2023年末時点)。生産性(1人当たり営業利益)は大手SIの半分になる。
そうした経営環境の中、同社は2022年に約10人を配置した新規事業開発部署を立ち上げた。研究開発を含めた投資額は2022年から2025年の4年間で約150億円で、うち事業投資は2022年から2024年に約50億円を割いたという。佐別當氏は「この投資金額を除けば、営業利益率は約13%になるが、今は利益が減っても投資の時期」と新規事業開発に力を入れるという。
同社のホームページによると、「テクノロジーとアイデアを融合し、社会や企業に価値を生み出すスピーディーな事業開発体制を確立している」としており、スタートアップのような柔軟性とスピードを備えたプロジェクト運営を社内に再現し、社員が主体的に行動し、責任を持って業務に取り組める仕組みにしている。
現在、新規事業開発のメンバーは15人で、それぞれがオーナーとなり事業開発に挑んでいる。その1つとなる養殖事業を約3年前から取り組み始めたきっかけは、長崎県に同社のニアショア拠点があった関係からだという。地元への貢献を考える中で長崎県の基幹事業の1つともいえる養殖事業の活性化を検討した。その具体案が、いけすの中の魚の価値を上げるために魚体鑑定や尾数カウント、給餌分析などのシステムを作り、作業の効率化や生産性の向上を図ること。そして得られたデータを活用した、データドリブンな養殖業の経営モデルの可能性も探る。
まずは自ら養殖事業の実証実験(PoC)をはじめ、成果を確認してから、事業会社を立ち上げたというわけだ。「受託開発とは異なる文脈になる非連続な事業を手掛ける中堅SI会社はあまりないだろう」(佐別當氏)と、CACの特徴の1つであるとも強調する。その仕組みを他県の養殖事業者に販売することも視野にある。
創り出したプロダクトはこのほかに、面接対策用アプリ「カチメン!」やIT人材シェアリングサービスなどになる。カチメン!は、就活生らが面接で伝える内容だけではなく、表情や印象などを練習できるアプリ。IT人材シェアリングサービスは中小企業のIT人材不足などを解決するため、同社が中小企業からヒアリングして整理したITの課題に対して、必要なスキルや経験を持つITエンジニアと案件のマッチングを行う。佐別當氏は、「当社はエンジニアを見る目がある」と言い、ITエンジニアの知識やノウハウを生かし、中小企業の生産性向上などにつなげられるようにしたいという。
ほかにも、生成AIなどAIを活用してSIを人月ベースからアセットベース、メニューベースにしていく取り組みも進めている。ITインフラやアプリの運用をサービスメニュー化したマネージドサービスがその1つになる。ITインフラとアプリの運用に関する設計やプロセス、手順などを標準化し、サービスメニュー化したもので、運用などの自動化を図る。約3年前に開発に着手したアセットベースのサービスメニューを、運用から開発へと領域を広げる計画もある。同氏は「生成AIを組み込むことになるだろうが、まだ具体的にできているわけではない」と言うものの、生産性向上に向けたSIビジネスの発展、進化を図ることにもなる。
こうしたサービスの品ぞろえも推進する。2000年に始めた、給与や社会保険などの業務を請け負う人事給与のビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)も2025年4月にサービスメニュー化し、提供を開始する。同氏によると「約20億円の事業規模になるフルアウトソーシング」になり、メニューの充実やコスト削減などによって競争力を増す狙いもあるとしている。
また、アセットの拡充も図るとしている。その一環から製造業向けパッケージソフトベンダーなどの合併・買収(M&A)を推進する。CACは金融と製薬に強いものの、「もう1つの軸を作りたい」とし、製造業の市場開拓を始めた。その一環でTOYO TIREのシステム子会社を傘下に加えたCACオルビスを、2025年4月にもCAC本体に吸収する。これはSIビジネスの業種の幅を広げる意味もあるという。
2000年にCACに入社した佐別當氏は、システムの仕組みや構成を考えるアーキテクチャーを目指したという。そんな50歳になった同氏が2025年1月に社長に就任し、SIビジネスの収益性を高めるとともに、新たなビジネスを創り出し、成長させる仕組みを築き上げようと挑む。まさに佐別當氏が描く“アーキテクチャー”にかかっている。
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- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。