ロシアとのウクライナ停戦協議を終えてインタビューに答えるマルコ・ルビオ国務長官(中央)、マイケル・ウォルツ大統領補佐官(右)、スティーブ・ウィトコフ中東特使(左)、2月18日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ

トランプ・マスクが目指す米国のプーチン化

 日本で言えば「文藝春秋」に当たる米月刊誌「バニティ・フェア」にクレムリン・ウォッチャーのミハイル・ザイガー*1記者が「Putinization of America: Can Trumpov and Musk Outdo Vladimir Putin?」(アメリカのプーチン化、トランプとマスクはウラジーミル・プーチンを追い抜くか)という記事を書いている。

*1=テレビ「Ran」のプロデューサーでクレムリンの記者会見でもかなり鋭い質問をする筋金入りのジャーナリストらしい。

 ザイガー氏はこう書く。

「クレムリンのエリートたちは、急に頭角を現したイーロン・マスク氏を、トランプ氏の(プーチン氏の超側近で新興財閥の総帥だった)ボリス・ベレゾフスキー氏のような存在になると見ている」

「ベレゾフスキー氏はその後、プーチン氏に切られたが、トランプ氏とマスク氏という両雄が果たして同じ屋根の下で共存できるかどうか。こればかりは分からない」

「ただ今は、2人ともプーチン氏顔負けの底抜けなギャングの大ボスのような恫喝外交を繰り広げている」

「クレムリンのエリートたちは、2人の推し進める外交政策のあおりを受けて、古い国際法の枠組みはすでに死んでしまったと見ている」

「国際政治の世界は、外交儀礼も根回しも無視したプーチン化の舞台になってしまった」

「しかも、トランプ氏がロシアの『主権民主主義』(Sovereign Democracy)2を当たり前のように受け入れ、プーチン氏といちゃつくとは、3年前には予想だにしなかった」

The Putinization of America: Can Trumpov and Musk Outdo Vladimir Putin? | Vanity Fair

*2=2006年にロシア大統領府副長官だったウラジスラ・スルコフによって提唱された概念で、大統領に国民の主権に勝る強い権限を与えながら民主主義体制を整えること。

中東特使はトランプの「キッシンジャー」

 2月15日のトランプ氏とプーチン氏との電話会談を受けて、米ロ政府高官は18日、サウジアラビアの首都リヤドでウクライナ紛争の停戦問題を協議した。

 会合は4時間半にわたり行われ、米国からはマルコ・ルビオ国務長官、マイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、スティーブ・ウィトコフ中東特使、ロシアからはセルゲイ・ラブロフ外相、ユーリ・ウシャコフ大統領府外交政策顧問らが出席した。

 米ロは今回の会合で、外交使節団の通常機能を相互に回復させること(ウクライナ侵攻を受け米国がこれまでにロシアに課した外交使節団の制限が大幅に緩和される)で合意した。

 米ロの本格外交交渉の第一歩だ。

「対話の経路を維持するために、通常の機能を果たせる活発な外交使節団が必要になる」(ルビオ氏)わけで、外交使節団の機能を迅速に回復させるための実務者を任命することで合意した。

 おそらく米側は、トランプ氏とは40年来の友人で「不動産王」のウィトコフ氏(肩書きは中東特使だが)が実務者になりそうだ。同氏はすでにプーチン氏と長時間、さしで会談している。

 同氏は、リチャード・ニクソン第37代大統領の外交ブレーン兼特使としてベトナム戦争終結、米中国交樹立を実現させたヘンリー・キッシンジャー氏のような存在になるかもしれない。

 ロシア側はプーチン氏の腹心、ウシャコフ氏が実務者になるものとみられる。