ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月から3年が経った。トランプ米大統領が和平仲介に乗り出したが、ウクライナを「戦争を始めた当事者」と責めるなど、暴論も目立つ。一体何を考えているのか。ジャーナリストの岩田太郎さんは「そもそもトランプ氏の狙いは、ウクライナの平和でも、鉱山資源でもない。一見支離滅裂な言動も、本当の狙いがわかれば筋が通る」という――。

「親ロシア的」な発言の数々

ロシアが2022年2月に開始したウクライナ侵攻が、4年目に突入した。

軍事・経済面で疲弊した両国の継戦能力が限界に達しつつある中、「ディール好き」で知られる米国のトランプ大統領が和平の仲介に乗り出した。「これ以上、多くの人が死ぬのを見たくない」からだという。

だが、同情心から休戦を提案したはずのトランプ氏は、交渉が始まるやいなや、侵略された被害者であるはずのウクライナこそが、ロシアとの戦争を始めた当事者だと暴言を吐いた。また、米メディアによると、トランプ政権は、主要7カ国(G7)の首脳声明で、これまで使われてきた「ロシアの侵略」という表現を使うことに反対している。

それだけではない。ウクライナの豊富な希土類(レアアース)資源の半分を、これまでの米国からの無償軍事支援への代償として、「後出しじゃんけん」で要求するなど、植民地主義的かつ法外な条件を連発している。

トランプ大統領は、わざとウクライナが受諾できない条件を突きつけ、ロシアのプーチン大統領を一方的に利そうとしているのだろうか。

ロシアとアメリカの国旗
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非現実的な和平案

和平交渉では、仲介役の米国が当事者のウクライナの頭越しに話を進め、ウクライナに無理難題を押し付けているように見える。

米国の軍事支援の見返りに、ウクライナ鉱物資源の輸出収入を米国が完全管理下に置く基金に配分するは、その最たるものだ。これは、トランプ大統領が主張する、「これまでに米国がウクライナに支援した5000億ドル(約75兆円)の米国民の負担」に対する返済のためとされる。

ところが、この金額は「ふっかけ」もいいところである。

なぜなら、つい最近までトランプ氏本人が、米国の支援合計額を3500億ドル(約52兆円)としていたからだ。なぜ急に1500億ドル分も増えたのだろうか。

しかも、その本来の数字さえも怪しいものだ。米政府が運営する海外向け国営ラジオ放送のボイス・オブ・アメリカによれば、米議会が計上したこれまでの支援額の合計は1830億ドル(約27兆円)にとどまる。ちなみに、ウクライナは、実際に受け取った額は900億ドル(約13兆4300億円)だと主張している。

さらに笑えるのは、5000億ドルの要求額を返済しようとしても、ウクライナの2024年の鉱物輸出額は11億ドルに過ぎず、その全額を基金に分配したとしても、完済には利息抜きの元本だけで455年ほどかかる計算になる。

同国の未開発レアアース鉱床の多くは採算性さえ見通しが立っておらず、どう考えても、経験豊富なデベロッパー出身のトランプ氏が本気で追求しようとする現実的なディールには見えない。