日本の怪異譚から現代のサスペンスまで、幅広いジャンルを描きながら、決してぶれる事の無い一本筋の通った作風の波津彬子先生が、『修善寺物語』や『半七捕物帖』等、これまた幅広いジャンルの作品を世に送り出した鬼才・岡本綺堂の幻想譚『玉藻の前』を漫画
化したものです。
『玉藻の前』は、長い年月を経て不死の魂を得、転生を繰り返しながら人の世に災いをもたらす妖狐・玉藻の伝説をベースに、岡本綺堂が、敵対しながらも玉藻を乞い慕う青年との悲恋の物語に仕上げた作品です。
本作品は、概ねこの原作に沿った形で進行していきますが、そこは幽玄にして繊細な作風の波津先生、原作の雰囲気を損ねることなく、独特の描線や人物描写に代表される、ご自身の持ち味を存分に発揮しておられます。
派手な色合いを抑えた繊細な日本画のような表紙も、また良い味を出しています。
ちなみに、同じ原作を、これまた大御所の漫画家・さちみりほ先生も描いてらっしゃいます。
あちらは持ち味の繊細で可愛らしい描写で、だいぶ少女漫画っぽい仕上がりになっていますが、また違った味わいがあり、どちらも甲乙つけがたいです。
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