京都芸術大学で3月末まで「藍の學校」という講座が行われています。

 大学の資料によれば、この講座はこれからのアートマネジメントと作品制作に関わる人材を育成するプログラムです。特に藍を取り上げるのは、藍が世界各地で文化を形成しているため。「文化、技術、科学などさまざまな視点から改めて藍を捉え直すほか、世界の工芸へ視点を広げることで、現代社会に求められる新しい思考を見いだすことを目指すものである」と書かれています。

 チェコ・プラハに住んでいたことで欧州の藍染めの伝統を知り、日本でその普及を始めた私の関心に合致する内容と思い、「伝える・つながる・受け継ぐ」というテーマの連続講演会の聴講を始めることにしました。

 産業革命以降、手で物を作り出すことに価値が置かれなくなり、時代の変化や分業体制の不振により産地は課題を抱えています。それを乗り越えるため、土地の文化を学び、技術を高めた上でさらに進化させなければという考え方が示されると同時に、講座を担当する先生方がこれからの人たちに大きな期待を抱いていると感じました。

 2022年の経済産業省説明資料には、伝統的工芸品産業の現状として次のような数字が挙げられています。

 1998年度に2784億円だった伝統的工芸品の生産額は、2016年度に1千億円を下回って以降、漸減傾向。また、1998年度に11万5千人だった従業員数は2020年度に約5万4千人に半減し、伝統工芸士も職人の高齢化に伴って減少傾向にあります。こうして見ると、現状が相当厳しいことが分かるでしょう。

 講演を聴きながら、私はモラヴィア博物館・民族誌研究所におけるさまざまな活動や取り組みのことを思い出していました。

 チェコ第二の都市ブルノにある民族誌研究所は、テキスタイルの収蔵品だけでも6万点を超える大変大きな研究機関です。資料を収集、保存、展示するだけでなく、モラヴィアの伝統と現代デザインの融合に努めるという長年にわたるコンセプトがあり、その考えに呼応して制作された現代のクリエーターによる作品も積極的に収集しています。

 伝統とデザインの融合のために活用されているのが、18世紀以降の伝統的な生活文化を伝える数多くの収蔵品です。素材や技法、工程、文様などの要素を徹底的に調査、研究して実現される変容こそが、文化の存続を真に可能にすると考えられているのです。

 今日までの状況を見ても、伝統工芸は守るだけでは到底生き延びることはできません。大学や博物館における深い学びや思索によって生まれる作品や未来像が、現状を変えていく力となることを心から期待しています。

 【略歴】高崎市美術館学芸員を経てチェコ・プラハに4年間在住。帰国後に同国の藍染めの普及活動を始める。成城大大学院美術史専攻博士課程前期修了。高崎市出身。