インターネットは、TCP/IPというプロトコルを基盤とするコンピュータネットワークである。これからTCP/IPについて復習していくわけだが、まずは基礎的な用語とその概念を復習しよう。
インターネットを支えるTCP/IP
いまやインターネットは、テレビや電話、新聞などと並ぶメジャーな媒体に数えられるようになった。この巨大なインターネットを下から支えているのが「TCP/IP」と呼ばれるプロトコル群である。
そもそも「プロトコル(protocol)」とは、ものごとの作法や手続きを明示的に取り決めて文書化したものだ。特にコンピュータネットワークの世界では、コンピュータ同士のデータのやり取りの方法を厳格に定めた規格(規約)のことを指す。コンピュータはプログラムに従って動作する機械であるため、厳密な取り決めがなければ複数のコンピュータを協調して動かすというのは難しい。
TCP/IPも、そのようなプロトコルの一種である。実際には、TCP/IPといった場合「IP(Internet Protocol)」と「TCP(Transmission Control Protocol)」を中心にした膨大なプロトコルの体系のことを指す。TCP/IPのプロトコルのほとんどは「RFC(Request For Comments)」と呼ばれる文書にまとめられており、RFCを取りまとめているIETF(Internet Engineering Task Force)のサイトから自由に参照することができる。この誰でも参照できるオープン性も、TCP/IPが普及した大きな要因になっている。
ネットワークとは?
基礎の基礎で初めに取り上げたいのが「ネットワーク」という言葉だ。ネットワークとは、複数のコンピュータ同士を接続し相互に通信を行なうことで、1台ではできない仕事をさせるための仕組みである。この程度であれば多くの人が容易にイメージできるだろうが、TCP/IPを理解するためには、さらに「何をもって1つのネットワークと区別するのか?」ということがわからなければならない。
TCP/IPにおけるネットワークとは、「ハードウェア部分で同じ通信の仕組みを利用して通信できる範囲」のことをいう。現在、一般的に使われているPCは「Ethernet」と呼ばれる通信の仕組みが標準搭載されている。したがって、2台のPCをケーブルで接続すると、Ethernetという共通のハードウェアを使い、通信を行なうネットワークができる。たった2台のコンピュータを接続しただけだが、これでも立派な最小構成のネットワークである。
続いてEthernetとTCP/IPの関係について触れておこう。PCで広く使われるOSであるWindowsにはTCP/IPが標準で備わっている。このことから想像できるように、TCP/IPというのはソフト上の通信のやり取りで、その情報がEthernetというハードウェアの仕組みでやり取りされている。TCP/IPでは、このような同じハードウェアの仕組みで通信できる範囲を1つのネットワークと数えるのである。
ネットワークを支える機器
Ethernetを備えたPCを3台以上つなぐネットワークを構成する場合には、スイッチングハブ(スイッチ)という装置を用いる。スイッチングハブはEthernetの通信を中継する装置であり、ハードウェアの通信の仕組みはEthernetなのでネットワークの形態としてはスイッチングハブを中心とした1つのEthernetのネットワークとなる。
スイッチングハブには「ポート」と呼ばれるケーブルの接続口がいくつかあり、そこにPCをケーブルで接続する。スイッチングハブのポート以上にPCをつなげたい場合には、スイッチングハブを複数用意してスイッチングハブ同士を接続すればよい。スイッチングハブが複数あっても、ハードウェアの通信はEthernetなので、この場合はEthernetで通信できる範囲、すなわち1つのEthernetのネットワークの規模を拡張したと見るのである。
それではスイッチングハブをどんどん接続していけば日本全国、または世界を網羅する1つのEthernetのネットワークが作れるかというと、そうはいかない。なぜなら、物理的な電気信号の減衰などの理由や、通信を開始または終了する方法などの制御上の理由、電気通信に関する法律の規定などによって通信できる範囲に制約があるからだ。これは、Ethernetに限らずハードウェア部分のネットワークの仕組みにいえることでもある。そのため、より広いエリア、または離れた拠点間で通信を行なうためには、Ethernet以外のハードウェアの通信の仕組みが使われる。その例が図1である。
図では離れた場所にあるEthernetのネットワークをデジタル専用線というハードウェアの通信の仕組みでつなぎ、Ethernet側とデジタル専用線側のTCP/IP情報の受け渡しをルータという装置で行なっている。PC-Aの発信した情報がEthernetでルータAに届き、ルータAからデジタル専用線ネットワークを経由してルータBへ、そしてルータBからEthernetでWebサーバへ届くという流れだ。
また、ここではスイッチングハブのほかにルータという装置が登場している。スイッチングハブはEthernetしか接続できない。それに対し、ルータはEthernetのほかに別のハードウェアの通信の仕組みを備えていて、デジタル専用線などを接続できる。つまり、スイッチングハブは1つのEthernetのネットワークを構成したり拡張したりする装置だが、ルータはネットワークとネットワークを接続する装置である。このようなネットワークを拡張したり、ネットワーク間の接続に用いる機器を「インターネットワーク機器」と呼ぶ。
よって、図1にはインターネットワーク機器を用いて、Ethernetで通信できるネットワークが2つ、その間にルータ同士をデジタル専用線で接続した最小構成のネットワークが1つの、3つのネットワークがある。
(次ページ、「通信の機能階層という考え方」に続く)
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