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スマホ撮影動画に“チョイ足し”でクオリティ格上げ!? Premiere Pro&After Effects入門
2025年2月28日 08:00
スマートフォンのカメラも優秀で、動画撮影そのものは身近になった。しかし編集作業はどうだろう? 特別な知識がなければ有料ソフトも無駄だろうか。もっと言えば、プロ向けの編集ソフトは何が違うのか? これまで本誌では「動画撮影のためのカメラ選び」についてレポートしていたが、いよいよ動画編集の基本編として、今回はお届けする。
今回は代表的な動画編集ソフトのひとつ「Adobe Premiere Pro」をテーマに、アドビの日本オフィスでレクチャーを受けてきた。基本的なカット編集の操作と、スマホにチョイ足しすれば映像クオリティを格上げできる撮影アイテムをご紹介。また、アドビならではの便利機能についてもお伝えする。
撮影Tipsその1:三脚を使ってカメラを固定しよう
今回、講師を務めて下さったのは映像作家の大須賀淳さん。使用するカメラを身近なスマートフォンに限定して、メリハリのある撮影のアイデアと、それを助けるチョイ足し機材について聞いた。
まず、スマホのポテンシャルを引き出すために便利なアイテムは次の通り。スマホならではの「カメラの形をしていないから撮りづらい」という状態から脱却するのがポイントだ。
・三脚アダプター:カメラ用の三脚にスマートフォンを固定するホルダー
・テーブル三脚or小型三脚:スマートフォンを取り付けて画角を固定する
三脚アダプターは数百円から手に入る。これにより一般的なカメラ用三脚にスマホを固定でき、セットアップの自由度が高まる。また、カメラ用のガンマイクやLEDライトを固定できるものもある。
最近のスマホは手ブレ補正機能が優秀だが、「微妙にでもブレていると画面全体の解像感が下がる」とのことで、三脚に固定するのは効果的だという。面倒かもしれないが、このひと手間の積み重ねが動画の品位を決める。
ちなみに、筆者もよく相談されるのが動画撮影時の「フレームレートの決め方」だ。大須賀氏に質問したところ、基本は60fpsで撮っているとのこと。特にフレームレートを減らすメリットがないからというのが理由だ。実際に60fpsの滑らかさが不要であれば、書き出し時に30fpsを選択すればよい。そうした使い勝手という意味で、撮影時の解像度もHDではなく4Kを選んでいるという。
撮影Tipsその2:人物撮影ではアグレッシブに動こう
人物を撮影するアプローチは、その意図によって以下の2つに分けられるという。
・人を撮るのか
・コトを撮るのか
“コト”を撮りたければ0.5×などの広角レンズを選んで、人の動きに迫っていく。ただ、スマホ単体を手持ちしていると、無意識に手で持ちやすいアングルに限定されてしまう。
そこでオススメなのが、スマートフォンを取り付けられる棒。大須賀氏はベルボンが三脚用に販売している延長ポールにスマホを装着していた。いわゆる“自撮り棒”がノーブランドでも安く売られているが、写真用品メーカーの品は壊れにくいし、カーボン製なら軽くて使いやすいとのこと。せっかくであればしっかりしたものを選びたい。
スマホを棒に取り付けるとカメラアングルに変化を付けやすい。立ち位置を変えずに大胆な寄り引きができたり、映像のインパクトが違ってくる。撮影者もアクティブに迫っていくことで躍動感が出るわけだ。
いっぽう、コトを撮るのが「動」だとすれば、人を撮るのが「静」になる。この場合はカメラを三脚で完全に固定して、2倍以上の望遠レンズで少し離れた位置から撮るのがポイントだという。
ここで三脚の選び方にもヒントがある。カメラを取り付ける雲台(アングルを変える部分)の構造の違いで、大きく「写真用」と「ビデオ用」があるのだ。写真用には自由雲台(ボールヘッド)がポピュラーだが、これはカメラの水平が固定されず、滑らかなカメラワークにも向かない。そこでオススメなのがビデオ用の雲台。これは可動部に油圧的な機構が入っていて、カメラの振りはじめと振り終わりがガクガクせず、スムーズに行える。“パン棒”というカメラを振るための棒も備わる。
さらに余裕があれば、三脚の脚部分にも選び方のコツがある。あまり軽いとカメラを振る動作で三脚そのものが動いてしまうことがある。そのため、風が吹く屋外などでも揺れずに撮影したければ、安定感のある脚を選ぼう。
例えば写真の世界だと、登山など荷物を極力軽くしたいシーンではカーボン脚の三脚が有効で、場合によっては撮影時にカメラバッグやその辺の石などを“重し”にして安定感を高めたりもする。そうでなければ、比較的重さのあるアルミパイプの脚のほうが自重で安定し価格も安い。それぞれが用途で選ばれているわけだ。
さて、スマホを三脚にセットしたら、そのスマホで使える最も望遠のレンズを選んでみよう。iPhone 16 Proであれば5倍望遠だ。これで表情や手元を狙うと、周辺が映り込まず、見る人がより被写体に集中できる。場合によってはスマホ側の「ポートレートモード」(背景ぼかし)で被写体を浮かび上がらせるのも有効だ。
撮影Tipsその3:ブツには動きを与える
次は静物の撮影について。いわゆる“ブツ撮り”だ。人物を撮るのと違って、被写体が何もしてくれないから難しい。そのため動画のブツ撮りは「時間軸にそった変化を作り出すアイデア勝負」になる。
ここで大須賀氏が取り出したのは、電動のターンテーブル(回転台)。数千円で手に入るもので、小物を上に置いて電源を入れるとクルクルと回転する。ブツ撮りに動きを出す場合、まず「回す」というのがテッパンの手法だそうだ。
そして、照明も時間的な変化を与えるための要素。単に明るく照らすという役割もあるが、動画では立体感を出したり、モノの形状をより詳しく伝えられるようになる。正面から光を当てると平面的になってしまうので、被写体の横などから当てて明暗を作るのがオススメ。回っている被写体だと光の受け方も時間的に変化するため、その形状がより伝わりやすい。
また、被写体にハイライト(明るく目立たせる部分)を入れるのも効果的だ。瓶の形状がよく伝わったり、本であれば凝った装丁を見せるなど、静止画以上に質感を伝えられる。この場合、被写体は固定したまま照明を手に持って動かすのも有効だ。
編集Tipsその1:簡単なキーボード操作を覚えて時短編集
そして、次は編集のTipsをご紹介。キーボードを使った操作を確認していこう。まずは……
・Spaceキー:再生と停止
これは動画編集ソフトに限らない操作なので、自然と使っている人も多いだろう。次は、再生ヘッドの移動。
・←→キー:前後のフレームに移動(1フレームずつ。長押しも可能)
・↑↓キー:前後の編集点に移動
恥ずかしながら筆者は、カーソルキー上下で編集点を移動できるとは知らなかった。無駄な時間を過ごしていた……。
・J/K/Lキー:Lが再生、Kが停止、Jが逆再生(連続で押すと2倍速3倍速に)
そしてこれも便利だ。Kを基準に、JとLが隣り合うキーなので配置がわかりやすい。
動画編集時にキーボード操作が有効な理由は、「編集時間のほどんどは“動画を見ている時間”であり、半分以上の操作が再生操作だから」。ゆえに再生操作をキーボードで効率化することが、編集作業全体においても最大の効率化になるという話だ。
このメリットを得たいがために、スマートフォンやタブレット端末で動画編集をしていた人が、わざわざパソコンに移行するケースもあるのだという。筆者自身は「まずパソコンありき」と考えてしまう世代だが、実に現代的なエピソードだなあと、しみじみ。
ちなみに動画編集時にBluetoothイヤフォンを使っていると、発音のレイテンシーにより細かな再生・停止操作時にラグを感じる。トコトン快適に作業したい場合は有線デバイスを選ぶといいだろう。モバイル環境で楽曲制作を行うミュージシャンも、このラグを嫌ってリスニング用とは別に有線イヤフォンをバッグに突っ込んでおくと聞いたことがある。
編集Tipsその2:マウスは使わないと決める
マウスカーソルを使った直感的な操作はわかりやすい。しかし、さらなる効率化のためには「マウスを使わないと決める」というぐらいの意識が大事だという。
・Qキー:再生ヘッドの左側をリップルトリム
・Wキー:再生ヘッドの右側をリップルトリム
・Cmd(WindowsならCtrl)+Kキー:再生ヘッドの位置でカット
動画素材は、最初と最後の不要部分を切ることが多いだろう。先ほどのキーボード操作で該当するクリップを再生しながら、ここから必要だ、というポイントで「Q」を押すと、そこまでの部分がカットされ、タイムラインの左側に詰めて配置される(リップルトリム)。複数のレイヤーを対象にすることも可能だ。
クリップの頭を切って、再生して、「ここからは不要」となれば、「W」キーを押して後ろをリップルトリムすればよい。マウスでクリップの端を掴んで尺を詰めたり、再生ヘッドを移動させてレーザーツールに持ち替えて切る、という作業はもういらない。筆者はとても感動したが、プルダウンメニューに出てくるぐらいの基本ショートカットなので若干気恥ずかしい。
編集Tipsその3:「Lumetriカラー」で映像の雰囲気を演出する
せっかく質感の高い動画を撮ったら、色味にもこだわりたい。そんな時にPremiere Proでは、大きく2つの操作スタイルを用意している。開くのは「Lumetriカラー」のタブ。「基本補正」と「クリエイティブ」のどちらかを使おう。
例えば写真のRAW現像などに慣れている人は、基本補正がオススメ。色温度、露光量、ハイライト、シャドウといった見慣れたスライダーが並ぶ。流石アドビ製品と言うべきか、LightroomとUIを統一しているのだという。筆者もLightroom Classicユーザーなのでこちらを使っている。
専門的なパラメーターに馴染みがない人は、クリエイティブの「Look」からプルダウンメニューでいろいろと選んでみよう。Instagramでフィルターを選ぶことに慣れているようなユーザーを想定したUIで、スマホ世代なら初心者でも分かりやすいはず。特に「フェード」というスライダーは、“エモい”とされる写真によく見られるような、色が浅く、黒が浮いたような表現を簡単に得られる。これにローファイミュージックを組み合わせればオシャレVlogの完成だ(※やってみたい)。
そうそう、こうした調整の適用方法は「クリップひとつずつに適用する」か「調整レイヤーで全体に適用する」の2通りがある。調整レイヤーでおおまかな雰囲気を先に作るのが大須賀氏のオススメ。
そしてこの調整レイヤーに、先の「基本補正」もしくは「クリエイティブ」を使って目的の色味を適用していく。
アドビCCらしい機能その1:BGM選びもPremiere Pro内で。尺も気にしない
動画の雰囲気を作るのに欠かせないBGM。しかし、曲を探しつつ、権利もチェックしつつというのは、すでにカット編集で疲れた頭にはシンドイ。そこで、Premiere Proの“Pro”を感じた機能を使おう。BGMを重要視していなかった筆者でも、これは音楽を使わねば損だと思ったぐらいに便利だ。
「エッセンシャルサウンド」のパネルから「参照」を選ぶと、Adobe Stockの楽曲素材が表示される。無料の素材から選びたい場合にもフィルタリング機能が使える。
この、Premiere ProとAdobe Stockのビューワーが統合されているところが、いかにもプロ向けスイートのCreative Cloudという感じがする。1曲をまるごとダウンロードしなくてもプレビュー再生できるので、曲探しはサクサクだ。
また、気に入った曲と使いたい尺が合わない場合には、「リミックス」という機能もある。AIが曲を分析して、自然に曲の長さを調節してくれる。生産性が高まるプロフェッショナルな機能だ。
波形を見ていると、曲のイントロやアウトロ部分はそのままに、曲中の繰り返しやすい部分を見つけてループさせているような印象がある。BGM用途であれば、継ぎ目もわからないぐらいの仕上がりになるだろう。
アドビCCらしい機能その2:After Effects
アドビのCreative Cloudに「After Effects」というソフトがある。これを使って、動画の中に“すごい動画っぽい”効果を与えられる機能があった。「ロトブラシ」という10年以上前からあるツールだが、近年の進化が著しいとのこと。
Photoshopなどでも、AI技術を使った自動のオブジェクト抽出(範囲選択)がかなり高精度化している。それを使って、動画内の人物と背景を分離するというワザだ。すると、その間に文字などのオブジェクトを入れることができ、“すごい動画っぽい”演出になるというわけ。
また、映像の奥行きを自動認識できるため、目的地を示す矢印を映像にかぶせたりするのも容易だという。人物を分離できるということは、背景を差し替えてクロマキー処理の代替とすることもできそうだ。
書き出しにも時短ワザ便利機能
動画が完成しても、時短ワザはまだある。例えば書き出した動画をYouTubeにアップする場合、Premiere Proの書き出し画面で設定すれば、書き出し完了とともに自動でYouTubeへのアップロードもやってくれる。チームで動画をチェックするならFrame.ioへの書き出しもオススメだ。
実際に使ってみた。「書き出し」ボタンさえ押してしまえば、あとは席を離れても外出してしまっても書き出し→YouTubeアップロードまで自動で完了するのは便利。移動中にスマホから動画をチェックしたり、問題がなければそのまま「公開」設定に変更すればよい。
教訓:あるものはしっかり使ってラクしよう
今回は動画編集の基本編としてお届けした。基本と言いつつ、これまで漫然とPremiere Proを使ってきた筆者にとっては衝撃的に便利なTipsもあった(お恥ずかしい限り)。これをお伝えすることで、「動画編集は疲れるからもうイヤ」と思ってしまった人が、時短ワザを使って再チャレンジしてみるきっかけになれば幸いだ。いま、人間の仕事はコンピューターに仕事をさせることなので、カメラもソフトも、用意されている機能はしっかり使っていこうと誓ったのであった。