326回 自分が今通っているアイドルの曲は『楽曲派アイドル・ガイドブック ももクロ以降のアイドルソング再考』には載っていない
『楽曲派アイドル・ガイドブック ももクロ以降のアイドルソング再考』(著:タナカハルカ、成松哲)という本が一部のアイドルファンの間で話題になっている。著者として名前があがっている二人を中心に複数名の手による音源のレビューとシーンに関わる人たち(アイドル、運営、コンポーザー、イベンター、ライター、音楽雑誌編集者、評論家)に対するインタビューで構成された本である。
非常な労作であるし、特定の界隈のアイドルの音源のレビューがある程度まとまった形で書籍化され記録として残ることになったのは意義のあることだと思う。今まで媒体で取り上げられることがあまりなかったようなグループも多く、メンバー、運営、ファン、特に既に解散してしまっているグループのそういった人には嬉しい本だと思うし、シーンの入門書としては役立つ本だと思う。
ただ、色々気の毒になったり、気になる部分はある。
刊行元である双葉社の宣伝文を引用してみる。
「楽曲派」とはアイドル現場に通うことへの言い訳として、ファンのなかから自発的に自虐的に使い始められた言葉。しかし、字義本来の意味で、楽曲をそのグループの魅力とするアイドルグループは、あらゆる音楽ジャンルを取り込んだももいろクローバー登場以降の2012年から劇的に増加した。本書では、アイドル戦国時代からポストコロナ時代までの、テレビを主戦場にしないライブアイドル達の優れた楽曲・名盤を年代別に網羅的に徹底紹介!
とある。
タイトルに「楽曲派アイドル・ガイドブック」という言葉はあるが、楽曲派とは何か、楽曲派アイドルとは何かということについて明確な定義づけがされているわけではない。
タナカ氏によるイントロダクションでは、
「楽曲派」という言葉は、一般的に「音楽好きなプロデューサーや作曲家が手掛ける、コアでアンダーグランドな音楽性を持つアイドルグループ」という意味で解釈されている。
と一応あるが、その定義にあてはまらないアイドルの音源も数多く掲載されている。それについては、あえて楽曲派だという認識がされていないものも収録し、アイドルというメディアの遊びの幅広さを浮き彫りにしようとしたという意図が説明されているが、その条件にはあてはない、音楽的には先の定義にあてはまらないのに「楽曲派」であるかのように認識されているグループが掲載されてもいる。