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▼西岸港──。 オーイ、オーイ… 海軍元帥「今回の航海も成功のようですね」 秘書「全隻が無事に戻ってきました。どの船も新大陸の商品を満載にしていますよ」 海軍元帥「たとえば、カカオのような?」 秘書「はい。カカオやたばこ、香辛料などの食料品。それから金や銀…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
海軍元帥「しかし分かりませんな。どうやってあれほどの船を集めたのです?以前なら、商船は2~3艘の船団を組むので精一杯だったはず。ところが今では倍以上の船を集めて航海しているではありませんか」 秘書「シーサーペント対策です。船が多いほうが敵を早く発見できますし、武装を厚くできます」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
海軍元帥「なるほど…。では、1回の航海にかかる費用もバカにならないのでは?」 秘書「その点では、私の『秘策』が役に立っています。航海費用を集めるとっておきの方法があるのですよ」 海軍元帥「興味深い」 秘書「じつは今も3つの船団が航海に出ています」 海軍元帥「3つも!」
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海軍元帥「あなたの『秘策』を使えば、それほどのカネを集められるのですか!」 秘書「しかも銀行が損することなく、です」 海軍元帥「ふむ…。航海中の船団が3つもあるなら、お耳に入れておいたほうがいいかもしれませんね…」 秘書「?」 海軍元帥「…先ほど、偵察隊から報告があったのです」
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海軍元帥「西岸港の沿岸で、再びシーサーペントの活動が活発になっているようです」 秘書「港町沿岸だけでなく、こちらにも?困りましたね…」 海軍元帥「あなたにしては弱気なお言葉ですな」 秘書「こればかりは私にもどうしようもできません。航海の成功は海を荒らすドラゴンの気持ち次第ですよ」
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海軍元帥「…たとえ航海に失敗しても、あなたの銀行は損しないのではありませんか?」 秘書「ええ、その通りです。しかし船乗りたちの命を取り戻せるわけではありません」 海軍元帥「ふむ…」 秘書「すべての船が、無事に戻ってくればいいのですが──」
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▼港町、銀行家の邸宅──。 幼メイド「…本当によろしいのですか~。こんな厩舎のすみっこで…」 勇者「今の僕には広すぎるくらいだよ」 幼メイド「もっといいお部屋もごじゅんびできるのですが~?」 勇者「魔国の隠れ家に比べたら、この『馬具置き場』はスイートルームさ」 女騎士「…」
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勇者「何より、この馬具置き場なら、急な来客があってもすぐに身を隠すことができる──。そうだよね、女騎士さん」 女騎士「あ、ああ…」 幼メイド「分かりました。そういうことなら…いたらぬ点もたたあると思いますが、せいいっぱいおもてなししますっ!」 勇者「ありがとう」 女騎士「…」
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幼メイド「では、さっそくケーキをお持ちしますね~♪」 勇者「ケーキ?」 幼メイド「再来週、おひまをいただいて実家に帰るのですよ~。妹や弟たちにケーキをごちそうしたいのです!」 勇者「それでケーキ作りを練習しているんだね」 幼メイド「そうなのです!ではでは、後ほど~」パタパタ…
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「…」 勇者「あれ?女騎士さん、まだ何か用事があるの?」 女騎士「…うむ」 勇者「どうしたの?さっきから難しい顔をしてるけど…」 女騎士「じつは勇者、お前に言っておきたいことがあるのだ。…今から話すことは、2人だけの秘密にしてほしい」ズイッ 勇者「…な、何かな?」ドキッ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「お前は、魔国に戻るための『ワープのひも』を持ってきたそうだな」 勇者「うん、1本だけ」 女騎士「それは普通の『ワープのひも』だろうな?一度に転送できる人数は何人だ?」 勇者「普通のやつだよ。パーティの人数くらいまでなら、いっぺんに飛べる…」 女騎士「それを聞いて安心した」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「国王陛下との謁見に成功して、魔王の討伐に戻るときは──。そのときは、私も一緒に連れて行ってほしい」 勇者「女騎士さんも一緒に!?」 女騎士「私には、新大陸でやりたいことがあるのだ。やり残してきたことが…」 勇者「もしかして、オークの街のこと?」 女騎士「ああ」
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女騎士「お前たちが到着したとき、あの街はすでに破壊されていた。そうだな?」 勇者「うん。…だけど、生き残った住人の証言では『勇者のしわざ』ということになっていた。だから僕たちは指名手配されて、身を潜めるしかなかったんだ」 女騎士「つまり、お前たちのニセモノがいるはずだ、と…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「あの街を破壊した〝誰か〟を、私も見つけたいのだ」 勇者「…それは、復讐のために?」 女騎士「いや…。その〝誰か〟を探したい理由は、私にも上手く説明できない。ただ、今は知りたいのだ。なぜ、あの街は破壊されたのか。なぜオークさんは死ななければならなかったのか」 勇者「…」
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女騎士「オークさんの会社で働かなければ、私が簿記を学ぶことはなかった。そして、この銀行に雇われることもなかっただろう。…今の私がいるのは、あの街と、オークさんのおかげだ」 勇者「僕と一緒に魔国に行くということは、今の雇い主である銀行家さんを裏切ることになっちゃうんじゃ…?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「その点は、私としても心苦しいのだ…」 勇者「このこと、ダークエルフさんには?」 女騎士「まだ相談していない。と言うより、最後まで教えないつもりだ」 勇者「なぜ?あなたたち2人は、ただの奴隷と主人という以上の関係だと思ったんだけど…」 女騎士「だからこそ、言えないのだ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「私が魔国に行くと言えば、あいつも一緒に来ると言うだろう。だが、この銀行にはまだあいつの力が必要だ。…それに、戦いに慣れていないあいつが一緒に来ても足手まといなだけだ」 勇者「本当にいいのかな、秘密のままで…」 女騎士「あいつを危ない目に遭わせたくない」
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女騎士「なぁに、暗い顔をすることはない!」バンッ 勇者「いてっ!?」 女騎士「お前の強さは無類だ。私たちが手を組めば、その〝誰か〟を探し出すこともたやすいはず。パパッと見つけて、ササッと帰ってくればいいのだ!」 勇者「そ、そうだよね!」 女騎士「頼むぞ、勇者」ガシッ
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女騎士「ともに魔国に赴き、お前のニセモノを探そう」 勇者「うん!そして、できれば魔王も討伐して…」 女騎士「私たちの力で、100年続いた戦争を終わらせるのだ!」 勇者「そうだね!僕たちならできそうな気がするよ!」
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▼翌日。港町、教会──。 司祭補「…状況はそんなに深刻ですの?」 港街商会「だからこそ、こうしてみなさんに集まっていただいたのです」 銀行家「まさかここまでとは…」 貿易商「今の不景気をどうにかしなければ、港町そのものが存続できなくなります!」 女騎士・黒エルフ「「…」」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
司祭補「これでは謁見の手配どころではありませんわね…」 港街商会「謁見?」 司祭補「いいえ、こちらの話です」 貿易商「亡くなった港湾ギルド長の代わりに、私たちギルドメンバーで今後のスケジュールを確認しました」 港街商会「近日中に寄港を予定している船の一覧がこちらです」ピラッ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
銀行家「…来月は寄港予定の船が無い?ただの1艘も?」 貿易商「当然、港には何の商品も届かず…」 港街商会「…私たちは商売ができなくなります。開店休業状態になってしまいます」 女騎士「なぜこんなことに…?」 黒エルフ「やっぱりシーサーペントのせいでしょうね」 貿易商「その通りです」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
貿易商「シーサーペントの出る海域で安全に航行するには、大きな船団が必要です。船足の速い小型艇で偵察を行い、重武装の護衛艦も増やさねばなりません」 銀行家「1回の航海に必要なカネが跳ね上がるのですね」 港街商会「政府の海軍でもない限り、そんな船団を組むことはできないはず…でした」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「でした?」 港街商会「じつは西岸港には、そういう大船団が出入りしているようなのです」 貿易商「どうやらカネを集めるのが上手い商人がいるのでしょう。大きな船団のほうが安全ですから、船主たちも西岸港に船を回すようになりました」 銀行家「その結果、この町に寄港する船が減った…」
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司祭補「つまり今の港町が不景気なのは、西岸港に船を奪われているからですの?」 黒エルフ「これでカカオの謎も解けたわね。向こうの港に着岸する船が運んできているのよ」 女騎士「このまま寄港する船を奪われ続けたら…」 港街商会「この町の港は閉鎖、私たちは路頭に迷います」
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貿易商「何としても、私たちの町からも大きな船団を出港させましょう!西岸港に対抗しましょう!」 港街商会「そのためには『先立つもの』が必要なのです!」 銀行家「状況はよく分かりました。ですが…」 黒エルフ「あたしたちの銀行では、そんな大金は用意できないわ!さすがに不可能よ!」
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