1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は上海に2023年にオープンしたビジュアルアートの「フォトグラフィスカ上海」。世界のアートシーンで注目を集める同施設ですが、上海が「アジア初」。どんな場所なのでしょうか。
川内倫子さんの大規模個展
「a faraway shining star, twinkling in hand」が上海上陸
2月20日の夜、ビジュアルアートミュージアムである「フォトグラフィスカ上海(Fotografiska Shanghai)」で写真家・川内倫子の大規模個展 「a faraway shining star, twinkling in hand」の開催に先駆け、オープニングパーティーが開催された。
私が到着した頃には、すでに人の波は落ち着いていたものの、カメラを手に真剣に作品を撮影する人や、展示の前で会話を弾ませるグループの姿があった。それぞれ思い思いに作品を楽しんでいた。会場では嬉しいことに、知り合いの漫画家で作家のTANGOや、惜しまれつつ閉店した伝説のレストラン「M on the Bund」のオーナー、ミッシェルに再会できた。受付で手渡されたコインと引き換えに、日本を彷彿させる桜をあしらった特製カクテルを手にしてまずは乾杯!そしてギャラリーへと向かった。
本展では、「日常の詩」 を描く写真家・川内倫子の代表的なシリーズ、「M/E(Mother Earthの略)」 と 「An interlinking」 という2つのシリーズの作品が展示されている。
「M/E」 は、2019年にアイスランドで撮影した壮大な自然の風景と、パンデミック中の北海道で捉えた日常の風景を組み合わせ、自然への賛歌を表現したシリーズだ。タイトルの「M/E」には 「me(私)」 という意味も込められており、個と「母なる地球」との深い結びつきを象徴している。
もう一方の 「An interlinking」 は、20年以上にわたり撮影された長期プロジェクトで、川内自身の日常を記録した作品群だ。親密な瞬間と壮大な自然現象を対比させることで、ミクロとマクロの視点の対話を生み出している。会場には、重なり合う光と影が美しい大判プリントや、柔らかな輝きを放つライトボックスのインスタレーションが並び、時間の流れや儚さの美を体感できる空間が創り出されている。光と色の相互作用が展示全体の視覚的な統一感を生み、静かでありながらも予期せぬ衝撃をもたらしていた。
「フォトグラフィスカ上海」とは?
「フォトグラフィスカ」は2008年にスウェーデン・ストックホルムで創設された写真とビジュアルアートに特化したミュージアムだ。単なる美術館にとどまらず、レストランやバー、イベントスペースを併設し、訪れる人々に多面的なカルチャー体験を提供する場として知られている。現在は上海とストックホルムのほか、ニューヨーク、タリン(エストニア)、ベルリン、オスロ(ノルウェー)と世界6カ所で展開、アートシーンにおける重要な拠点となっている。
「フォトグラフィスカ上海」 は2023年10月20日にオープンしたアジア初のフォトグラフィスカで、グループの5番目のミュージアム。上海・静安区の蘇州河沿いに位置する約4600㎡の広大なスペースで、多彩な展覧会やイベント、コンサート、ワークショップ、トークを開催、特に中国やアジアのアーティストのプロモーションに力を入れている。館内には、地中海料理をベースとしたフュージョン・ビストロ 「MONA」、ジェラテリア、ギフトブティック、屋上ラウンジレストランなど、充実したライフスタイル施設も併設している。夜11時まで開館しているため、食後にゆったりとアートに浸れる贅沢な大人の時間を楽しめるのも魅力的だ。上海ではぜひ訪れたいアートスペースの1つである。