使用済み燃料の処理・処分
最終処分に関する法律
処分費用
処分場の公募
地層処分の技術
使用済み燃料とガラス固化体
再処理路線維持の方針
根本的な議論を
追記1、追記2
参考資料

 

最終処分に関する法律

 日本での原子力発電で発生した使用済み燃料は、燃料棒のまま保管されているか、再処理されガラス固化体にされて保管されてい ます。(原子力による商業発電が日本で始まってから40年近くたつが、燃料からでたゴミ=核分裂生成物=ガラス固化体は、保管という状態で、処分はされていない。)高レベル放射性廃棄物の処分については、第7回(1987年)原子力開発利用長期計画で、「高レベル放射性廃棄物については、安定な形態に固化し、30年間から50年間程度冷却のため貯蔵を行った後、深地層中に処分することを基本的な方針とする。」との方針が示されました。これに沿って2000年「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(高レベル放射性廃棄物の最終処分の実施主体、処分費用の調達方法、処分地の選定プロセスなどの枠組みを定める。)が制定されました。 この法律に基づいて、2000年に、原子力発電環境整備機構が設立されました。その役割は以下の図のとおりです。「ガラス固化体 約4万本を地下300メートル以深に埋設する。」という「地層処分」の2033年から2037年頃の開始に向けて、原子力発電環 境整備機構は、既に動き出しています。

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処分費用

 現代の社会では、「企業の生産活動に伴って生じた廃棄物は、その企業が責任を持って処分する。」というのが大原則です。原子力発電は、電力会社が独自の判断で導入してきたのではなく、国策として原子力発電が推進されてきました。その結果、廃棄物の処分についても政府の関与が、上図のように大きくなっていると考えられます。電力会社は、処分費用さえ払っていれば、原子力発電環境整備機構へガラス固化体を引き渡した後は、廃棄物に対して責任がなくなります。地層処分の費用は、3兆円と見積もられていて、ガラス固化体1本当たり、約3500万円が積み立てられています(拠出金合計 2006年3月末 約3565億円)。処分計画では、ガラス固化体は、約4万本(2020年頃までに発生する分)となっていますので、1本当たりの金額が変わらないとすると、3500万円~4万本=1兆4千億円となります。処分開始は、計画では、2030年代ですから、2020年までに、積み立てた資金をその後運用しながら、処分終了までの費用を賄うことになります。地層処分費用3兆円に対して積立金は、1兆4千億円ですが、上手に運用して、3兆円にするということのようです。あるいは、1本当たりの拠出金額を、上げるということになります。(拠出金の単価は、毎年見直されることになっています。)対象となる期間がとても長いので、費用については、予測が困難で、このやりかたで、費用を過不足なく用意するのは、難しいと思われます。上図のように拠出金の金額を政府が決めるということは、もしも、処分費用が足りなくなった場合は、国が責任を持つ(=税金の投入)ということになると考えられます。処分事業の実施にあたっては、費用対効果(安全の確保)を秤に掛けて、決断しなければならない場面が多々あると考えられます。その判断を担当する政府の機関として経済産業省が最適かどうか、疑問が残ります。

 

処分場の公募

 原子力発電環境整備機構は、処分地選定の最初の段階として「最終処分施設の設置可能性を調査する区域」について、全国の市町村を対象に2002年12月に、公募を開始しました。応募を検討した自治体はあるようですが、現在のところ応募した市町村はありません。(2006年3月現在)2007年1月25日、高知県東洋町が応募しました
 この公募制には大きくいって2つの問題点があります。1つ目は、処分場に適した地域の応募がなかった場合、いつまで経っても処分場は建設できないということです。2つ目は、地質を調べてその結果から、処分場に適した地層を選ぶのではなく、公募に応じた地域の地層を調べて、判断するという点です。この方法では他に応募がなかった場合に処分場に適さない地層であっても、そこに処分場が建設されてしまう可能性があります。
 第一の問題点は、誰しもが思うことでしょう。地層処分場とは、高レベル放射性物質の「ゴミ捨て場」ですから、自治体が誘致したいと思うような施設ではありません。誘致の動機となりうるのは、多額の交付金です。その交付金について、経済産業省資源エネルギー庁のパンフレットには、「最終処分事業は極めて長期にわたる事業です。地域の実情に応じた共生策を地域と共に検討し、事業を地域の活性化につなげることが非常に重要です。国は、処分候補地に対し、前述の文献調査の段階から、電源三法交付金制度の『電源立地等初期対策交付金』を交付し、最終処分事業の地域共生を支援します。」と書かれています。

 
文献調査段階
概要調査段階
交付先 所在市町村 近隣市町村
所在都道府県
所在市町村 近隣市町村
所在都道府県
交付対象事業 理解促進事業 地域振興策の検討 理解促進事業
事業 地域振興策の検討
福祉向上・地域産業振興のための事業
交付限度額 単年度交付限度額 2.1億円 単年度交付限度額 20億円
期間内交付限度額 70億円
表1 処分候補地に対する「電源立地等初期対策交付金」

 これは、今までの原子力発電所に対するのと基本的に同じ考え方で、多額の迷惑料と引き換えに迷惑施設を引き受けて貰おうというものです。原子力発電所の建設に伴う交付金は、長期的に見れば、「地域の活性化には繋がらなかった。」ということは周知の事実です。(「原子力発電はなぜ推進されるのか」「原子力は本当に安い?」のページ参照)
また、原子力発電環境整備機構は、「応募を待つ。」という形で、「押しつけない。」としています。しかし、法律では、「都道府県知事及び市町村長の意見を聴き、これを十分に尊重」することになっていますが、住民については「住民等の理解と協力を得るように努めなければならない。」となっているにすぎません。このため、住民の意向を無視して、処分地が選定されることが懸念されています。地層処分の研究施設がある地域や、現在ガラス固化体が保管されている六ヶ所村、使用済燃料の中間貯蔵所の建設予定地では、その施設が、処分場に転用されるのではないかと、心配されています。
 「応募がない。」という状態は、日本各地での電力消費の結果として出てきたガラス固化体を、「どこも、引き受けたくない。」ということですが、これをどう考えればいいのでしょうか。以下のような意見があります。

「どこもかしこも反対したら、現にある廃棄物はどうしたらよいのでしょうか。どこでもかしこでも反対されるものは、そもそ も生み出してはいけなかったのです。そのことの確認こそが重要ではないでしょうか。」(「どうする?放射能ごみ」西尾漠 緑風 出版 2005年)

「どこの地域もかしこの地域も軒並みにダメという結果になったらどうなるか。そのときはNIMBYがNIABY(not in anyone's backyard) に行き着く。どこにも造れない、ということはすなわち「造らない」という選択肢を国民が選んだことになる。が、それでは困るという人がいるに違いない。「造らない」という選択肢がそもそも許されないようなケースも確かにありうるからだ。高レベル放射性廃棄物の処分場などはそういう性質の施設かもしれない。全国民が「ノー」の大合唱をしても、造らねばならないものはどこかに造らないわけにはいかない。最終的には強権発動、強制収用しかないのではと考える人がきっといるだろうと思う。~中略~しかし考えてみれば、そうやって国家意思と地域住民意識とが全面対立するような代物を、どうしても力ずくで造らなければいけないものだろうか。われわれは「お国のために」強権発動の横行する世の中を望んではいないはずである。合理的で民主主義的な手続を用意してもなお、全国民がこぞってin my backyard への立地を拒否するような施設は、とどのつまり、建設を断念するのが正しい選択だとは言えないだろうか。そんなものを造らなくても済むような条件づくりをどう進めるか、それが国民的課題になる。(「ニンビイシンドローム考」清水修二 東京新聞出版局)(注:NIMBY=not in my backyard =私の家の裏庭は、イヤ)

 この点については、「根本的な議論を」の項で、検討します。

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地層処分の技術


 上述のように、処分場建設地の公募は始まっていますが、処分場を作るための技術や処分場の設計は完成しているのでしょうか?
原子力発電環境整備機構は、核燃料サイクル開発機構の研究成果に基づいて実際の地層処分場の設計をすることになります。技術開発を担ってきた(核燃料サイクル開発機構)のパンフレット『地球に学び、人の英知を集めて』の内容を簡単にまとめてみました。
パンフレット『地球に学び、人の英知を集めて』から、抜粋・編集

日本に「地層処分に」 適した地層は、あるのでしょうか?
「地層処分」を行う技術はあるのでしょうか?
地層処分」は安全なのでしょうか?
少なくとも今後十万年程度にわ たって火山活動や断層活動などの影響が十分に小さい場所、つまり「地層処分」に適した安定な地層を見つけることも可能になってきた。 現在の技術で人工バリアの製作・施工、処分場全体の設計・ 施工・操業、及び品質管理ができることを示した。 処分後どうなるかを表すシナリオを確立した.。シナリオを構成する個々の現象 を、実験室などで確かめることによって、シナリオに沿ってコンピュータで解析できるようになった。さまざまなシナリオについて解析した結果、処分後のいつの時点でも、生活環境に影響のないことがわかった。

 これに対して、地層処分問題研究グループ「『高レベル放射性廃棄物 地層処分の技術的信頼性』批判」では、以下のように述べています。

  •  十万年経ってみたら地震の大きな影響を受けずにすんだ、という場所が皆無ではないかもしれないが、非常に高度の安全性が求められる処分場として、事前にそのような場所を日本列島で選ぶことは、賭といっても過言ではない。
  • 長期にわたる金属容器の腐食や緩衝材の健全性は十分な時間をかけて実証されてはいないので、その機能にどこまで期待できるかは不確実性が大きい。

 また、土井和巳氏は『そこが知りたい放射性廃棄物』(日刊工業新聞社 1993年)で、以下のように指摘しています。

「岩石圏の中に放射性廃棄物を隔離した場合、この隔離をおびやかすおそれのあるものについては、地球科学をはじめとする多くの分野の人々による議論が行われてきました。様々の意見が登場しましたが、放射性核種を散逸させ、確実に隔離されていなければならない放射性廃棄物の隔離を不確実なものとする要素の中で、最も重要なものが地下水であるという点においては、全ての意見が一致しています。」「(略~)人工バリア、放射性廃棄物固化体を変質・侵食せず、放射性核種を容脱させないためには地下水の無いことが最も望ましいのですが、地球上に地下水の無い所はほとんど無く、特にわが国内では絶無と言っても過言ではありません。」「一方、前記してきたような岩石中の状況を調査し、解明するための現有技術としてはボーリング・調査坑道の開削などがありますが、このような方法を用いた場合、岩石中に新たな地下水の通路を作ってしまうこととなるため深層隔離においては、このような方法の適用は最小限に止めたいものです。」

 地下水に関して、核燃料サイクル開発機構は、「深い地層は地下水が浸透しにくい性質があります。」「深い地層の地下水は物質が溶け込みにくい性質をもっています。」「地下水によって物質が遠くに運ばれるにはきわめて長い時間がかかります。」としています。処分場ではたくさんの坑道を掘りますし、ガラス固化体は発熱しています。その場合にも、これらが当てはまることが検証されたといえるのか疑問です。

 さらに、「(略)、地下深部の岩石中に放射性廃棄物を隔離することを計画する場合、その地点特有の自然条件を前提とした独特のシナリオが必要となります。したがって、深層隔離において、どの地点にでも通用する検討というものはありえず、現在一部で行われているような数多くの地球科学上の条件を仮定して行う検討は、無限に存在するケースの中の一つのケース・スタディを行うことにすぎません。」(前掲書)としています。地層処分は、人類にとって未経験の事業です。少なく見積もっても十万年という長期間を考慮の対象とするものですから、処分地が決まっていない段階で「処分後どうなるかを表すシナリオを確立した。」と言い切ることはできないはずです。処分候補地が決まった段階で、「やっと本格的な研究が始まる。」と考えるのが妥当と思われます。
(注:核燃料サイクル開発機構は、2005年10月1日に、日本原子力研究所と統合し、独立行政法人日本原子力研究開発機構となりました。)

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使用済み燃料とガラス固化体

 使用済み燃料がどのように処分されることになっているかを以下の図に示します。

 図6の中で、地層処分時のガラス固化体が4万本になるのは、「現在は燃料棒のまま保管されている使用済燃料」と「これからの発電によって生じる使用済燃料」を再処理してガラス固化体にすることを前提にしているからです。
既にガラス固化体として存在しているものと、使用済燃料の状態で保管されているもの(をガラス固化体にしたもの)、これから発生する使用済燃料(を再処理しガラス固化体にしたもの)、これらをまとめて、地層処分する計画です。
 既に存在しているガラス固化体を、何らかの方法で処分または保管しなければならないということについては、誰もが認めるところです。しかし、「使用済燃料の状態で保管されているものを再処理するかどうか」「これからも使用済燃料を発生させていくのか」という点については議論があります。

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再処理路線維持の方針

 使用済燃料の状態で保管されているものを再処理するかどうかが、原子力委員会の新計画策定会議で、2004年の秋に、再検討されました。その結果、原子力委員会は、使用済み燃料の全量再処理の方針維持を決めました。「核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ」では、4つの基本シナリオを想定し、10の視点から、総合的に評価したとしています。

シナリオ1 使用済燃料は、適切な期間貯蔵された後、再処理する。(つまり、使用済燃料はまず中間貯蔵し、その後全量再処理し、ガラス固化体を地層処分する。既定路線の維持)
シナリオ2 使用済燃料は、再処理するが、再処理能力を超えるものは直接処分する。
シナリオ3 使用済燃料は、直接処分する。(つまり、再処理せずに、使用済燃料棒のまま埋設処分する。)
シナリオ4 使用済燃料は、当面貯蔵し、その後再処理するか、直接処分するかのいずれかを選択する。
視点 1.安全の確保 2.エネルギーセキュリティ 3.環境適合性 4.経済性 5.核不拡散性 6.技術的成立性 7.社会的受容性 8.選択肢の確保 9.政策変更に伴う課題 10.海外の動向

 原子力委員会新計画策定会議では、シナリオ1の技術的成立性について、「実施が不可能になるような特段の技術的課題は見あたらない。ただし、経済性向上、高速増殖炉核燃料サイクル実用化等の研究開発の継続が必要。」と評価しています。しかし、六ヶ所村の再処理工場は、まだ完成しているとは言えず、操業開始時期は再三延期され、現在では、2007年5月とされています。まだ完成もしていないものに対して、「特段の技術的課題は見あたらない。」と言い切れるでしょうか。高速増殖炉核燃料サイクル実用化は、技術的に困難との見方が、世界の趨勢です。シナリオ1の技術的成立性については、「再処理工場の技術的成立性は、不透明な段階にあり、高速増殖炉核燃料サイクルは実用化の目処がたたない。」が現在の評価としては適当と考えられます。
 シナリオ1の環境適合性については、「再処理により資源を回収利用し、廃棄物量を減らすことを目指す活動は、資源採取量や廃棄物発生量の抑制、資源の再使用や再生利用等からなる循環型社会の哲学と整合的である。」と評価されています。しかし、再処理によって回収したプルトニウムを「利用」するための、高速増殖炉が実用化できない場合は、「回収」してもほとんど「利用」できないと考えられます。(MOX燃料では、回収したプルトニウムを使い切れない。)利用できないということは「資源」ではなく「廃棄物」になります。シナリオ1の環境適合性については、高速増殖炉が実用化できない場合は、{利用できない「廃棄物」を資源やエネルギーを投入して(環境汚染を伴いながら)「回収」することは、「循環型社会の哲学と整合性はない。」という評価が、適当と思われます。
 会議では再処理路線を維持する理由として、1、「直接処分路線より」「エネルギーセキュリティ、環境適合性、将来の不確実性への対応能力等の面で優れている」こと、2、「核燃料サイクルの実現を目指してこれまで行ってきた活動と長年かけて蓄積してきた社会的財産」が「維持するべき大きな価値を有している」こと、3、「再処理路線から直接処分路線に政策変更を行った場合」「立地地域との信頼関係の維持」に「時間を要することが予想されその間、原子力発電所からの使用済み燃料の搬出が困難になって原子力発電所が順次停止する事態が発生することや中間貯蔵施設と最終処分場の立地が進展しない状況が続くことが予想される」こと、を挙げています。
 1についての疑問は、先に挙げました。2は、これまでの努力や投資を無駄にしたくないということでしょうが、このまま再処理路線を続けても無駄にならないという技術的保証はなく、むしろこの路線を続けることが、無駄を増やすだけの可能性があります。3は「当面の混乱を避けたい」ということでしょう。しかし、このまま続けることは、これからもガラス固化体が増え続けることになり却って、「最終処分場の立地が進展しない状況が続くこと」の原因になる可能性もあります。つまり、上記の10の視点から総合的に評価したというより、3の環境適合性や6の技術的成立性を軽視し、9の政策変更に伴う課題を当面回避することを重視したものと思われます。

 新計画策定会議について、委員の一人である吉岡斉氏は、意見書の中で、以下のように批判しています。

 「新策定会議は変な議論をしている」という感想が、周囲の人々の多くから寄せられている。そのとおりだと私も思う。何が変なのかについて、的確な表現はないものかと考えてきたが、その答えが見つかった。「この会議は空想科学政策を議論している」というのが答えである。一方ではフィクティシャスな話をあたかもリアルな話であるかのように論じ、他方ではリアルな問題を無視するか、又は影響軽微ないし解決可能として軽視する、というのが「空想科学政策」の特徴である。「空想重視、現実軽視」の政策ということである。」

 このように、高速増殖炉の実現可能性、再処理の必要性についての現状認識が、委員の中でさえ一致していません。原子力委員会新計画策定会議が出した結論は、正確な現状認識に基づいたものといえるのか、また、国民の意見が反映されているといえるのか疑問が残ります。
また、会議では、「ガラス固化体にして地層処分する」のか「使用済燃料のまま直接処分(地下埋設)する」のか、しか議論されませんでしたが、処分せずに長期管理(保管)という意見(以下に例示)も根強くあります。

長期管理(保管)という意見の例

  • どうするべきかと言えば、少なくともいまの科学で分かる、いま目の前で、1年でも2年でも10年かもしれないが、安全に取っておけるだろうという範囲で、とにかくお守りをするしかないと思います。非常に気の遠くなるほどの時間をやらなければならないわけですが、いま安全だといえないことは、やってはいけない。つまり地層に埋めるなんてことは、やってはいけない。目の前で鋼鉄の容器に入れて、建屋に入れて取っておく。長い時間は責任を取れませんが、少なくともいまはお守りできるわけですから。私は現時点では、貯蔵施設を地上に作って、そこに保管せざるを得ないだろうと思います。 10年20年ではないと思います。多分、50年100年、もっと多くの時間かもしれませんが、もっとサイエンスが発展するかどうか、それも分かりません。でも少なくとも、いまのサイエンスで分かる範囲において一番安全が確保できる手段をとるしかないので、地上に保管施設を作って保管するべきだと思います。(小出 裕章(京都大学原子炉実験所助手)『京 都保険医新聞 “エネルギー・原発を取り巻く現実”を考えるシンポジウム 抄録集』 2004年7月10日)
  • 地上にせよ浅い地下にせよ、初めから管理・回収が容易な形で貯蔵をつづけるほうが、けっきょく負担は小さく、堅実です。「長期管理をつづけていて、自然災害や航空機の墜落などが起きたら安全が確保できない」と主張する人は、地上にある原発や核燃料サイクル施設の危険性をどう考えているのでしょう。(西尾漠(原子力資料情報室共同代表)『どうする?放射能ご み』 緑風出版 2005年)
  • 私は、地下埋設でなく、地上に簡単な構造の施設で監視、漏れ検知などの適当な処理、処置ができるようにして保管し、監視を続ければよい、と考えている。将来事情が変化すれば、それに応じて取り扱いの方法の変更も容易であり、当面の費用も恐らく一桁以上安くなる。(柴田 俊一(元京都大学原子炉研究所長)『新原子炉お節介学入門』 エネルギーフォーラム 2005年)

 先に示したもう一つ問い、「これからも使用済燃料を発生させていくのか」については、原子力委員会は、「原子力発電は必要」という見解のため今回は議論されていません。

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根本的な議論を

 日本の原子力政策は、「原子力発電は必要」→「ウラン資源が枯渇しても、原子力発電を続けるためには、使用済燃料の再処理が必要」→「再処理によって分離されたゴミ(核分裂生成物)はガラス固化体にする」→「ガラス固化体の地層処分場が必要」という論理になっているようです。しかし、大前提とされている「原子力発電は必要」は、もう議論の余地がない程確定的なことでしょうか。
原子力発電しか選択肢はないのでしょうか?誰も引き受けたくないような廃棄物を発生させる技術を、採用しなければならないのでしょうか?私たちは、廃棄物の問題を責任を持って引き受けるつもりで、今、原子力発電を利用しているのでしょうか?原子力発電は、使用済み燃料の処分の他にも多くの問題点があることは、このホームページで示されています。それでも、「電気を得るためには必要。」なのでしょうか?私たちが望む「豊かな暮らし」とは、どんな暮らしなのでしょうか?
原子力発電環境整備機構のパンフレットには「皆さまのご理解を得ながら、最終処分事業を進めていきます。」としていますが、「理解」のためには、まず、十分な議論の場の確保が必要です。高レベル放射性廃棄物の処分問題を考えるには、出発点である「原子力発電は必要か」まで遡って議論を尽くすことが必要であると考えらます。

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追記1、2006年9月

 処分場の公募に正式に応募した自治体はありませんが、検討のために原子力発電環境整備機構の説明を求めた自治体はいくつかあります。 
 例えば、2006年6月22日に鹿児島県の宇検村で村議に対し原子力発電環境整備機構が説明会を開催しています。「誘致に伴う交付金を得るのが目的で、元山三郎村長は「自主財源を拡充できるか検討するひとつの選択肢だ」と話している。」(朝日新聞2006年8月21日から引用)ということです。これに対して鹿児島県の伊藤知事は記者会見で、「(前略)少なくとも県としては、宇治群島の時と同じように、ああいう高レベルの放射能の物質を保管する場所を、少なくとも当分の間、奄美諸島周辺に造るつもりは全くありません(以下略)」と話しています。また、地層処分するという国の方針について問われると、「(前略)まだまだ技術的に得心できるところまでいっていないという感じがしていま」す、と答えています。(知事の言葉は、鹿児島県のホームページから引用)
 また、滋賀県余呉町の畑野町長は、2006年8月8日の町議会全員協議会で、「高レベル放射性廃棄物の最終処分場の応募をもう一度、考え直したい」と発言したそうです。同町は昨年誘致を検討したものの、県が「琵琶湖のある滋賀は近畿の水源県。了解するわけにはいかない」としていました。(中日新聞8月31日から)
 ところで、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会は、今年(2006年)の8月に、「原子力立国計画」という報告書をまとめました。そこでは、「最終処分地確保に向けた国としての取り組み強化」として、「地域振興や産業振興の支援等に資する補助金や都道府県向けの原子力発電施設等立地地域特別交付金等の支援措置を拡充」が提案されています。
 上記部会は、これまでの誘致失敗あるいは、昨年の滋賀県知事の言葉をどう受け止めたのでしょうか。この報告書からは、「県にも交付金を出せば受け入れるだろう」と考えているとしか思えません。滋賀県知事や鹿児島県知事が反対した理由は、「今の処分計画では、誘致の妥当性や安全性について県民を説得できない。」ということのはずで、「金が足りないから」ではないはずです。これまで公募に正式な応募がない理由が、「処分計画への信頼のなさ」であることは、明らかです。それならば、なすべきことは、「処分計画の見直し」のはずです。それなのに現在の処分計画のままで、交付金を上積みし、経済的に破綻した自治体の応募を待つことで解決しようとしているのです。つまり、計画に沿って、候補地が決まりさえすればいいという考え方のようです。これでは、国民の「理解」は得られず、誘致に関する対立が続くことになってしまうのではないでしょうか。

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参考資料

著書
「原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識」広瀬隆・藤田裕幸・共著 東京書籍 2000
「ニンビイシンドローム考 迷惑施設の政治と経済」清水修二・著 東京新聞出版局 1999
「どうする?放射能ごみ」西尾漠・著 緑風出版 2005
「そこが知りたい放射性廃棄物」土井 和巳・著 日刊工業新聞社 1993
「新原子炉お節介学入門」柴田 俊一・著 エネルギーフォーラム 2005

ホームページ
地層処分問題研究グループ  http://www.geodispo.org/
原子力委員会  http://aec.jst.go.jp/
放射性廃棄物ホームページ  http://www.enecho.meti.go.jp/rw/
原子力発電環境整備機構  http://www.numo.or.jp/
パンフレット
「原子力 2002」経済産業省 資源エネルギー庁編集 (財)原子力発電技術機構 2002.10
「高レベル放射性廃棄物の安全・確実な処分に向けて」原子力発電環境整備機構 2002.05
「地球に学び、人の英知を集めて」核燃料サイクル開発機構 1999.12
「地層処分の技術」核燃料サイクル開発機構 2000.3
「高レベル放射性廃棄物の処分について」経済産業省 資源エネルギー庁 2003.5
「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性?地層処分研究開発 第2次取りまとめー  概要」核燃料サイクル開発機構 2002.11  
「『高レベル放射性廃棄物 地層処分の技術的信頼性』批判」地層処分問題研究グループ 2000.7
「考えよう、原子力」 資源エネルギー庁編集 (財)原子力発電技術機構 2003.2
「埋め捨てにしていいの?原発のゴミ」地層処分問題研究グループ 2002
「京都保険医新聞 �エネルギー・原発を取り巻く現実�を考えるシンポジウム 抄録集」 2004
「TALK. 考えよう、放射性廃棄物のこと。」経済産業省資源エネルギー庁 2006.3

 

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