地域デビューがうまくいっていない件


 「地域デビュー」を知っているだろうか。
 ぼくがインタビューに答えた週刊ポストの記事は「地域デビュー」の話で始まっている。
 「地域デビュー」とは職業とは別に、リタイアなどをきっかけにして地域で行われている活動に初めて参加することである。


 団塊世代が大量退職している。
 町内会や地域団体は「さあ、これで担い手がドバッとやってくるぞ!」などと期待感いっぱいだった。
「これまで社会を引っ張ってきた団塊の世代には、65歳への到達を機に再び社会を変える原動力になってほしい。働きづめで疲れきった方も、趣味を生かしたボランティアという形で」*1


 うむ。こうやって紹介すると待っている側の眼がギラギラした感じが出て、怖いな。


 しかし「実際にはそれほどではない」 といわれている。
 政府の調査では、団塊の世代(1947〜49年生まれ)の社会活動参加は38.7%で、そのうち「自治体・町内会・老人クラブNPO団体等」への参加は13.8%にとどまっているのだ。 *2


 武蔵野大学院の川村匡由教授は、その理由を65歳前後まで働いているので地域で活動やボランティアをはじめる、いわゆる「地域デビュー」はこれからだと言っている*3


 果たして、この後いよいよ「ドバッ」とやってくるのか。


 このうち、ぼくは、NPOやサークルはともかく、町内会・自治会や老人会のようなものは、なかなか“苦しい戦い”を強いられるのではないかと思っている。


 たとえば老人クラブの会員は、高齢人口が1998年とくらべると1.5倍になっているのだが、全国の老人クラブの会員は1998年をピークにして3割近く減っている。「高齢者が右肩上がりで増える中、会員の減少が止まらない状況だ」*4


 自治会・町内会だって、加入率がふえてんのかというとだいたいどこもゆるやかに減少している。*5



 これは東京・多摩市の「地域デビュー手引書」だが、中をみるとほとんどがNPO活動の紹介である。
http://www.city.tama.lg.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/010/648/tebikisho2014.pdf


 まあ、「イマドキ」の65歳に「お前、明日から老人会な」と言ったら、言われた方は違和感ありまくりだろうけど。65歳に老人て。*6
 しかし、たとえそれを「高齢者クラブ」に変えようが「ねんりんクラブ」に変えようが「リタイア・イニシアティヴ」に変えようが「元気わっしょい隊」(もともとのものを否定しすぎて何が何だかわからなくなったケース)に変えようが、来ない人は来ない。


 簡単にいえば、NPOやサークルは目的がはっきりしている。これにたいして、町内会や老人会はコミュニティであって、目的がぼんやりしている。「ゲゼルシャフトゲマインシャフト」とか言いださなくてもいいけど。
 居心地がよければ最終的には長く居着いてくれるし、それがないと最初はやってきてもすぐ去ってしまうから組織としてそれを用意しておくことはポイント中のポイントなんだけど、問題は最初のきっかけ。つながりのある人をずるずる誘いこみたいなら、あんまり考える必要はない。だけど、つながりのない人を誘い込む場合の強いインセンティブがほしければ、明確な目的があった方がいい。


 町内会の場合。
 たとえば福岡市の自治会加入率は、2010年の調査で88.6%*7という「マジですか」という驚異的な数字を誇っている。
 にもかかわらず、同じ調査で「運営や活動を充実させるために必要なこと」、つまり自治会としての課題を聞かれてそのトップに「人材の育成・確保」(60.3%)があげられている。人材上の課題に絞り込んできくと「役員のなり手がいない」(76.5%)、「運営を手伝う人がいない」(33.1%)となり、住民に関する課題に絞り込んでもトップは「活動への参加者が少ない」(61.8%)となっている。
 9割近くも自治会に加入しながら、担い手がいないというわけである。つまり、「活動家がいない」ということだ。


 輪番で何かの役(だいたいは組長・班長程度、せいぜいヒラ役員)にはなるけども、それ以上にはならない。


 かつて、町内会・自治会の活動家はどういうルートから輩出されてきたかといえば、青年会や子ども会(の面倒をみる親)の活動に多くの若手が自動参加(強制参加)していたので、その中から声もかけられるし、そもそも世代を代わる自覚で若手の方もやっていたのである。
 ところが、青年会・青年団は早くに消滅・衰退し、子ども会も崩壊しているか、母親を中心にした「おざなりな活動」となっていて人材輩出機構として機能していない。いいとか悪いとかじゃなくて、男権的な町内会の世界では、男親ががっつりと地域活動と関わっていく中で地域活動の幹部候補生と見なされるしくみがあった。
 この機能が生きている地域もまだ少なくないが、それがなくなっている地域も多い。


 そこで、町内会は、担い手を確保するという独自の活動、つまりオルグをやらざるをえなくなっている。
 どういうふうにやるかといえば、輪番で出てくる住民の中で活動に協力的な人とイベント準備で親しくなったり、飲みにいったり、関係が深まっていって「活動家」化がはかられていくのである。


 福岡市が「地域デビュー応援事業」といって、今年(2014年)から夏祭りや餅つきなど個別町内会のイベントを出すようになったのは、こうしたオルグルートを意識しているからであろう。それまで福岡市では校区にだけ補助金が出されていて、こうした個別町内会に出される補助金メニューはほとんどなかった。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/42969/1/paper.pdf

 ただ、やっぱり誘因として、「こういう事業をやるからあなたの力が必要だ」という明確な目的はほしいと思うんだよね。
 ぼくのところは、「夏祭りと餅つきだけやってコミュニティとしての意識を保ちたいから協力して」と言って、協力してもらっている。そういうしょぼいものだから、協力してくれる人はけっして多くないけど、この2つに特化しているので「じゃあやりましょうか」と言ってくれる人はいるのだ。ただ、これは魅力的な誘い方じゃないよね。基本、義務感。


 普通の町内会は、もっとマルチな事業をやっていて、さらにぼんやりしている。そして、誘因じゃなくて義務感ベースで強制しようとするから、やる気がなくなる。
 事業ごとにもっと目的や魅力を明確化させて、そこに限定参加させてもいい。
 しかし、一旦足を踏み入れると全般的に活動を担わされる危険があって、近寄りがたい。やっぱり、そこは限定するようなキツいしばりを町内会側にかけておく必要があると思うんだが、まあ、そんなしばりを自らにかけられる町内会はなかなかないんだよなあ…。


 『“町内会”は義務ですか?』では、そういう「断わり」や「限定」を入れる町内会活動についても書いた。

*1:関芙佐子・横浜国立大学准教授/読売新聞2014年1月7日付「論点」

*2:高齢社会白書」2013年版

*3:川村匡由・武蔵野大学院教授/朝日新聞2014年2月2日付

*4:読売新聞2014年7月3日付

*5:横浜市のように加入世帯数そのものは増えているけど、加入率が下がっているところもある。

*6:最近は自治体でも自治会でも高齢者扱いを70歳とか75歳くらいにしようとしていて、自治会・町内会が開く「敬老会」も対象が後ろへズレこんでいる。

*7:平成22年度自治協議会・自治会等アンケート報告書

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