タッチデバイス時代の“スペースキー”を目指した「ATOK Pad for iPhone」林信行が開発者に聞く(1/3 ページ)

» 2010年09月22日 16時00分 公開
[林信行,ITmedia]

iPhone版ATOK開発への長い道のり

 今回、ATOK Pad for iPhoneの開発で中心的役割を果たした、コンシューマ事業部開発部の齋藤大輔氏、仁科伸一氏、本田浩章氏、金森照明氏、そしてコンシューマ事業部企画部長の佐藤洋之氏に話を聞いた(聞き手:林信行)。

――まずはATOK Pad for iPhoneの開発にいたる経緯を振り返りたいのですが、これはタッチパネルに対応したATOKとしては初めての製品、ということでいいのでしょうか?

インタビューは徳島の開発部とテレビ会議システムを通して行われた。画面内が開発部の齋藤大輔氏、右手が企画部の佐藤洋之氏

齋藤 いえ、実はこれまでにもスタイラス採用のPDAとして古くはPalm用、最近ではWindows Mobile搭載スマートフォン用などにATOKを提供してきました。

――なるほど、それではすでにタッチインタフェース開発に挑む下地はあったわけですね。

齋藤 そうなのですが、これまでに開発したものは、あらかじめOS開発者の側で文字入力のためのフレームワークを用意してくれていて、後はATOKをそこにはめ込むような形で開発をしていました。

 iPhoneが出てすぐに飛びついたのですが、最初のころ、OS 2.xの日本語入力は単語単位の入力しかできませんでした。そのため、iPhoneにATOKを組み込めるような状況になり次第、すぐにでもATOKを提供しようと考えていたのです。しかしその後、何度か新バージョンのOSが発表がされても、なかなかATOKを投入する機会は生まれませんでした。

コンシューマ事業部企画部長の佐藤洋之氏

佐藤 そこで昨年、Windows版ATOKの発表の時に、先んじてiPhone版開発の意向だけ表明しました。事態をどう解消したらいいかを考え、優秀な若手社員なども引き込み、その意見なども取り入れながら、最終的にはアプリケーションという形に仕上げることにしましたのです。

 そこから少しじっくり時間をかけて開発に取り組んできました。ほかのiPhoneアプリベンダーの方には「ちょっと時間をかけ過ぎじゃないか。もっと早く出したほうがユーザーも喜ぶのではないか」とアドバイスをされたりもしたのですが、会社として初めてのiPhoneアプリケーションなので、中途半端なものにしてもいけないし、ある程度、開発のほうで満足できる形にしてから出す、ということで会社にも了承してもらいました。

――改めて確認ですが、ジャストさんの方ではiPhone用IM版ATOKの開発もあきらめていないのですよね?

佐藤 あきらめていません。iPhone向けにIMとしてATOKを投入できるようになったらすぐにでも対応したいと思っているので、ぜひユーザーの方々に、他社製IM採用の必要性を認識してもらい、アップルにその声を届けてもらいたいと思っています。

アプリ連携や組み込みにも期待

――ところで、今回のATOK Padは、価格の方も1200円とかなりアグレッシブですね。

開発表明から約9カ月、ようやく登場した待望のiPhone版ATOK。アプリという形でのリリースとなった

佐藤 そうでしょうか。いずれにしても最初から数千円ということは考えていませんでした。115円で提供することは無理だけれど、300円代など、会社の側を納得させながらも、できるだけ安い値段で提供できないか、あらゆる価格を検討してみましたが、最終的には、一番バランスがいい、ということでこの価格に落ち着きました。

――iPad版だと、やはり、もう少し高くなるんでしょうか。

佐藤 iPad版のATOKは、まだ検討段階ですが、ライターの方など、業務で使われる人も多そうなので、もう少し違った価格体系になるかもしれませんね。

――この値段で踏みとどまる人がいるとしたら、やはり、標準の日本語入力環境を置き換えるのではなく、アプリケーションという形になっているからでしょう。

佐藤 そうですね。そういう意味では、我々としては、今後、ほかのアプリケーションとの連携や、ほかのアプリケーションへのATOK機能の組み込み、といったことに期待をしており、そのための開発者向け情報の提供も始めています。

 例えば、iPhoneを採用している医療機関向けの独自開発のアプリケーションに医療辞書をセットにしたATOKを組み込んでもらうなど、BtoBでの利用が広がってくれることにも期待しています。

――それはいいですね。ただ、Google Docsと連携するアプリケーションやOffice書類を取り扱うアプリケーションなど、ATOKを使ってバリバリ文字入力をしたくなるようなアプリケーションは案外、海外製のものが多い気がします。開発者情報の英語での提供も行うのでしょうか?

佐藤 それは、やらないといけないですね。

――それについては、iPhoneユーザーの側でも、お気に入りアプリケーションを作っている海外の開発者に対して、日本語入力メソッドの重要さを説得して、搭載や連携を呼びかけてもらう必要がありますね。ちなみにATOKを他のアプリに組み込んでもらう場合ですが、容量的にはどの程度あるのでしょう?

齋藤 約17Mバイトなのですが、今回、音の部分は開発チームの最年少の金森が非常に

こだわっていて、ピアノの音などを高音質で入れているので、それが容量をとっています。

――このピアノの効果音は、確かに耳に心地いいですが、これを聞いて何を入力しているか分かってしまうんですか?

齋藤 テンポよく変換候補の選択を行うことで、ゲームの連鎖音やコンボのように心地よい音がなるようになっています。何を入力しているかは分からないと思います。

――楽しい一方で、真剣に文字を入力する時には、少し耳障りな感じも受けますが。

齋藤 そうですね。その場合には、音をオフにして使うか、シンプルなタイプ音(キータッチ音)で使っていただければと思います。

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