子育てに行き詰まったら…話題の『アドラー心理学』ってどんな考え方?

監修専門家 臨床心理士 佐藤 文昭
佐藤 文昭 おやこ心理相談室 室長。カリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学研究科 臨床心理学専攻修士課程修了。米国臨床心理学修士(M.A in Clinical Psychology)。精神科病院・心療内科クリニ... 監修記事一覧へ

子育てをしているなかで「アドラー心理学」という言葉を聞いたことがあるパパ・ママも多いのではないでしょうか。近年、子育てに役立つ実践的な考え方の一つとして、この「アドラー心理学」が子育て世代に浸透しつつあります。今回はその「アドラー心理学」とはどのようなものか、子育てにどのように取り入れていくものなのかについて、ご紹介します。

アドラー心理学とは?子育てに役立つの?

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「アドラー心理学」とは、オーストリア出身の精神科医アルフレッド・アドラーによって提唱された、幸せに生きていくための思想です。

アルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングに並ぶ世界的な心理学者で、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」とし、その対人関係を改善していく方法を説いています。

アドラー心理学は、決して子供に対してのみ有効なものではありません。大人のカウンセリングなどでも大いに活用できるものです。

しかし、アドラーは「育児や教育を通して個人を変えることで人類を救済できる」という考えを根本に持っていたため、アドラー心理学は、子育てにおいてたくさんのヒントを与えてくれるものとなっているのです。

アドラー心理学の「子育て」の目的は?

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アドラーが考える育児の目標は、「自立し、社会と調和して暮らせる」こと。そのためにはそれを支える「心」が育っていなければならないと提唱しています。

その「心」を育てるには、「問題を自己解決できる能力が自分にある」「人は自分の仲間だ」という自信をつけることだといいます。

子供にとっての最初の仲間は「母親」と「父親」です。

先述のように、アドラー心理学は「対人関係」を主眼としていますが、子育ても親と子供の対人関係、コミュニケーションを円滑にするという視点を持つことを重要としています。

それでは、子供が自信をつけ、「自立し、社会と調和して暮らせる」人間になるために、具体的にどのように子供とコミュニケーションをとっていけばいいのか、ご紹介します。

アドラー心理学は「褒めない」「罰しない」

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子供とは対等であるべき、上下関係でなく、横の関係であるべきであるというのが、アドラー心理学の考え方です。そのためには、子供を叱ったり、罰を与えたりしてはいけません。褒める行為も、対等関係を築くうえでやってはいけないこととされています。

 褒めない

アドラー心理学では、褒めることを認めていません。「褒めちゃいけないの!?」と、子供を持つ親としては驚きますよね。

褒めることは「褒めている人の考えを基に、相手を評価している」ことなので、上下関係を作ることにつながります。これは、アドラー心理学の概念から外れてしまいます。

褒められることに慣れてしまうと、子供は褒められることを目的とした行動をとるようになってしまいます。つまり、認められたいという承認欲求が強くなってしまうのです。例えば、「人が見ていたら、道路に落ちているゴミを拾うけど、誰もいない場所では拾わない」などです。

勉強におきかえると、褒められたいから「勉強する」ことになってしまい、本来の「学ぶ喜び」を感じられなくなり、勉強が苦痛になる可能性があるとしています。

いずれも「親の期待に答えなければいけない」「失敗したら親に見放される」と感じ、失敗を恐れることになり得ます。

叱らない・罰を与えない

叱ったり罰を与えたりすると、子供は「自分に能力がない」「居場所がない」「仲間がいない」と感じます。これは、自己肯定感が低くなることにつながります。

また、話し合いをしようとせずに罰を与える場合は、「相手(子供)に話してもわからない」と相手を軽んじていることにもなります。

特に叩くなど感情的になって罰を与えることは、簡単に問題解決しようしている表われで、それは子供にも伝わります。

アドラー心理学では「存在を認める」

赤ちゃん 足

それでは、「叱らず」「褒めず」、どのように子供とコミュニケーションをとればいいの?と、思いますよね。

アドラー心理学で大切にしているのは、褒めるのではなく、気持ちを共有すること。褒める代わりに、感謝の気持ちを伝えるのです。それも、行為に対する感謝ではなく、存在に対する感謝を伝えることが重要だとアドラーは述べています。

例えば、生まれたての赤ちゃんは何もできませんが、存在するだけで周りの人を幸せにすることができます。存在するだけで自分には価値があると思えることで、他者からの評価を気にせずに生きられるようになります。

また、親に理想の子供像があると、実際に目の前に存在する子供とは乖離することが多いのではないでしょうか。その理想との差が、親を悩ませている種であり、しかし、実際にはそこに子供が「存在している」「生きている」だけで嬉しいはずです。

まずは理想の子供像を描くのをやめて、そこから出発するのでなく、その存在だけを見つめるようにしましょう。そうすれば、どんなこともプラスに見えてくるでしょう。

アドラー心理学では「先回りしない」

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子育てに熱心な親ほど「失敗経験をさせない親」になりがちだとしています。

「こうすればうまくいくよ」「この通りにしないと失敗するよ」とレールを敷かれた子供は、失敗経験ができません。そして、親の力が及ばなくなった受験や就職活動、仕事で失敗をしてしまうと、立ち直ることができなくなってしまいます。

なんでも先回りすることは、子供を信じていないことにつながります。子供を対等な関係でみて、子供が自分の力で解決できると信じてあげることが大切です。

失敗しないように先回りするのでなく、見守ります。子供が何をしているか知ろうとしない放任主義ではなく、子供が何をしているか知ったうえで、見守るのです。そして子供が、自分の課題を自分で解決するという成功体験を積めるようにサポートします。

たとえば、勉強しない子供に対しては、「宿題でわからないところあったら、一緒にやろうね」など、本人の意思で勉強したいならいつでもサポートすると伝えます。勉強は、親の課題ではなく、子供の課題です。

子供は、親の姿勢から、自分と相手の課題を見分けることを学び、自分の課題は何かを考え、それに集中するようになるのです。口出ししないのは難しいですが、いつでも手助けできる準備だけしておいて、ぐっと我慢します。

とはいえ、「いい成績をとって、いい学校へ行き、いい会社へ行く」ことが良しとされ、そのために「失敗や挫折をしない」ようにレールが敷かれ、失敗をすれば怒られる…。子供の頃に自分が受けた教育やしつけ、考え方は体に染み込み、その結果、自分の子供の失敗が気になり、極力失敗しないようにレールを敷いてあげたいと思うことは自然な行動です。

まずは、親自身が子供の失敗を肯定的に捉え直すことが、見守ることの第一歩です。

問題行動があれば「原因」ではなく「目的」を探る

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子供の行動の意味を「原因」からではなく、「目的」から考えるのもアドラー心理学の特徴です。

たとえば、子供が問題行動を起こすのは、親の愛情不足だとするのが原因論で、これが一般的な考え方です。しかし、アドラー心理学では、「親の気をひきたいから」という目的から、子供の行動理由を考えます。

そうすれば、どうすれば良いか解決の糸口が見つかりやすいのです。原因を過去に求めるのは解決策にはならないため、まず目的を探り、その目的にあわせた対処法を考えます。

たとえば、この場合の対処法は、「その問題行動に親が注目しない」ということです。その行動をやめさせることさえも、注目を与えたことになります。とはいえ、放任しろといっているわけでもありません。

その問題行動には注目せず、他の良い行動などに注目することは忘れずに行うことがポイントです。他の行動に注目すれば、「親の気をひくため」の問題行動が減ると考えられます。

ただし、良い行動も特別なことではなく、何気ないことに注目し、決して褒めないようにしましょう。前述のように、「親に褒められたいから」という不純な動機だけで行動を起こすことになりかねません。

アドラー心理学は上手に取り入れよう

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親なら誰しも、子供には幸せになってほしいと思いますよね。

子供が幸せな人生を送るために、上記のような考え方が役に立つとアドラー心理学は教えてくれていますが、これが正しいかどうかはわかりません。この考えに同調する人もいれば、自身の価値観とそぐわないと感じた人もいると思います。

親自身が「こうしなければ!」とストレスに感じるくらいであれば、それが子供に悪影響も与えかねません。自身の価値観や家庭の方針に合わせ、活用できそうな部分だけをピックアップして取り入れるのも良いでしょう。

子育て方法には、ルールも正解もありません。家族やまたは直接子供とよく話し合って、自分たちなりの親子関係を円滑にする方法を探してみてくださいね。

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