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角川会長が語る「クラウド時代と<クール革命>」(前編)

2010年03月11日 14時45分更新

文● 津田大介/ジャーナリスト 撮影●三井 公一(サスラウ)

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「クラウド時代と<クール革命>」を執筆した角川歴彦氏

Image from Amazon.co.jp
クラウド時代と<クール革命> (角川oneテーマ21 A 112)

 10日、角川グループホールディングスの代表取締役会長兼CEO、角川歴彦氏が「クラウド時代と<クール革命>」という新書を上梓した。

 角川グループといえば、「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」などネットで人気を集めるコンテンツを数多く持っている企業だ。さらにYouTubeと提携して、ユーザーが作ったMADを積極的に認めるという姿勢でも知られている。最近では、本書を発売前に全文無料公開したのが大いに話題を呼んだ。

 角川会長は、なぜ今、この新書を書いて、無料で公開したのか。これからコンテンツ業界や著作権制度はどう変わっていくのか。ジャーナリストの津田大介氏が聞く。



コミケも認めるなら、YouTubeも認める

── 「クラウド時代と<クール革命>」を読ませて頂きました。正直な感想として、本の中にたくさん刺激的な提言が盛り込まれていて驚きました。上場企業の経営者で政府の知財政策にも携わっている角川さんがよくここまで言い切ったな、と。

角川 何でこの本書いたのかってことを乱暴に言えば「やむにやまれず」という部分が大きいんだよね。21世紀になってわれわれは「メディアの大航海時代」に入ったと思ってる。それに対して出版社であり、映画会社であり、内閣の知財本部の中にいる者として僕が発言すべき立場にあるんじゃないかと。

 この大航海時代の中、混乱して間違った方向に行く人もたくさんいる。だから、ここで僕がきちんと話しておくことで、そういう人たちに立ち止まってもらえるんじゃないかと思ったんだ。これからメディア人は何をすればいいのか、何をしちゃいけないのか。そういうことを伝えるには本という形が一番いいだろうと。

 僕にとっても本を出すというのはひとつの試練だった。しゃべったことなら後で逃げられるから楽なんだけど、本だと逃げられないからね(笑)。


津田大介氏

津田大介氏

── この本の中で僕が一番印象に残ったフレーズは、角川グループがYouTubeと戦略的提携する前に、角川さんが「コミケを認めた自分がYouTubeを否定するのは『老い』ではないか」と考えられた部分です。

 それはちょうど2年前くらい(2007年12月6日)に早稲田大学で開いた講演でもお話されていました。本書には、ユーザーの立場に立ってYouTube的なネットサービスを認めることについて「確信を得た」とお書きになっていますが、早稲田の講演以降、そうしたスタンスを得たのでしょうか?

角川 あの講演聞いてもらってたんだ。うれしいな。ただ、確信を得たのは早稲田での講演以前の話だね。自分が大衆と一緒にいなければならないと思ったのは、実は「ザテレビジョン」や「東京ウォーカー」を出そうと思ったときからなんですよ。いつも大衆と一緒に歩こうと思っていたし、大衆との付き合いはアナログ時代から始まっているんです。

 マンガの話もそう。かつて「少年ジャンプ」は一般応募から新規の漫画家を集めて育てて、それを「少年サンデー」「少年マガジン」への対抗軸にした。ジャンプが「サンデー、マガジンとは違うんだ」と言ったことを僕は素直に受け止められたから、メディアワークスを始めるときに「新しさを開発すべき」ということをテーマにしたんだよね。著名な作家とお付き合いするのではなく、コミケみたいなところから新しい文化が生まれてくる。そういう新しい人たちと積極的に付き合え、って言ったの。

 アナログの時代からのそういう感覚が自分の中に強烈にあったから、YouTubeが「新しいコミケになる」と思った途端に、これをお手本とすべきだと思ったんだよね。YouTubeは動画時代の到来を間違いなく告げていて、その中から新しい文化やリテラシーが出てきている。それを僕たちが育てて、新しいビジネスモデルを作らなきゃいけない。


── 角川のアニメ作品はYouTubeでも人気がありますよね。

角川 YouTubeに上げられたアニメの本数で言うと、提携した当時も今も、圧倒的に角川作品が多いんですよ。僕らが彼らと提携したのは、MAD作品を投稿している人たちに対して「あなたがたはこうしてほしい」とこちらからクリエイターとして参加してもらえる道筋を立てたかったから。その一環として、著作権をクリアするための話し合いをYouTubeとしたわけです(関連記事)。

 初めは小さな会社だったYouTubeは、Googleに買われてあっという間に大企業になったけど、僕が誇りにしてるのは、小さな会社だった段階から彼らを交渉相手として認めて、対等に付き合ってきたってことなんだよね。彼らを過大評価することも、過小評価することもなく、フィフティ・フィフティの気持ちで「どうしようか」と提案した。

 最初にこちらからMADを認める提案をしたときに、デービッド・ユン(現グーグル副社長)から「まさか極東からこんな提案を受けるとは思わなかった」と言われたからね。あの提携は彼らにとっても非常に勉強になったわけです。逆に僕たちはノウハウ提供料ももらわないのに彼らにそんなに知恵を付けちゃっていいかなって思うくらい(笑)。

 コミケの人たちに「角川はコミケを認めるスタイルでやってますよ」ということをちゃんと理解させて、新しい本を書いてもらった。そういう我々の今までの履歴をYouTubeやGoogleでも実現したかったんだ。

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