歌声合成ソフトと言えばVOCALOID(ボーカロイド)シリーズだが、今やそれに次ぐ勢力と言えるのが、フリーソフト「UTAU」だろう。2008年3月の登場以降、徐々に進化を続け、ネット発の楽曲制作ツールとして独自の存在感を持つに至った。
VOCALOIDとの大きな違いは「中の人」を自前で作れること。指定された130個程度の音素を録音し、UTAU側で設定すれば、誰でも自分の声で歌わせられる。UTAUの魅力はそうした自由度の高さにあり、ユーザーが制作した音源、UTAUで作成された楽曲が大量に公開されている。
このようにVOCALOIDと比較されがちなUTAUだが、どうやら商用ソフトとはまったく異質の進化を遂げるに至ったようだ。その経緯を開発者の飴屋・菖蒲(あめや・あやめ)さんに伺っている。(以下、文中では飴屋さん)
音響信号処理は専門外だった
―― 飴屋さんは音響信号処理を研究されているとか?
飴屋 いいえ。プログラマーではありますけど、VBやJAVAのような業務系ばかりやってきました。ASCIIを創刊号から読んでいた世代で、ずっとPCには興味を持っていたんですが、音響処理は専門外です。ただ、必要ならばCでもアセンブラでも何でも使いますし、そうして積んできたスキルはあります。
―― じゃあ歌声合成に興味を持たれたのは?
飴屋 2007年の秋頃ですね。人力ボーカロイドという、切り張りだけでボーカロイドっぽく歌わせているものがあって。それより遥か以前から行なわれていた「MAD」の一種なんですが、その手法に感心したんです。
―― タレントさんの声をコラージュして歌わせるアレ、流行りましたよね。
飴屋 そのメイキング映像があって。SoundEngineで切り貼りして、Melodyneのデモ版で音程を作るという。どちらも無料で手に入るソフトだから自分やってみたんです。手間はかかるけど、単純作業で出来るじゃないかと。それを簡単にしてしまえという発想ですね。
―― 楽するための手間は惜しまないと。
飴屋 そうそう。そっちの手間は楽しいじゃないですか、私はプログラマーなので。それで音声ファイルの切り貼りを自動化してみたら、3日かかった手間が数時間で済んでしまったんです。それで味をしめてしまったんですね。
―― さすがです。
飴屋 それから音程を変えることも自分でやってみたくなったんです。
―― Melodyneの機能ですね。
飴屋 普通にDAWにも搭載されている機能なので、資料もあるかと思ったら、ないんですよ。数式と理論ばかりで、それをプログラムにするには敷居が高い。ただ理屈は分かっていたんです。ピッチをあげると周波数特性も上にずれてしまうから、それを戻せばいいとか。それで何とか作り上げたのが最初のバージョンですね。
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