遂に古巣へ復帰したジョブズは次々と手をうち、そしてAppleを倒産の危機から救い出す。そこには経営者失格の烙印を押された過去の姿はもはやなかった。それだけでない。彼はApple復帰時、やがて音楽産業のみならず人類の生活を一変させる革新的な技術を古巣に持ち帰っていた。没後十周年の連載企画、第十弾。 ■音楽産業を救ったふたつの原石 一九九四年。ジョブズのネクスト社は約百万ドルの黒字を実現した[1]。 地味な数字だったかもしれない。だがApple Ⅲ、Lisa《リサ》、初代Macそしてネクスト・キューブにピクサー・ワークステーションと、その関わったすべてが赤字だったこれまでを思えば、ジョブズがディレクターから経営者へ確かに成長しつつあることの証でもあった。 ハードウェアを切り捨てただけでない。強みに集中するため、ネクストの魂ともいえるOSすら切り離した。ネクストのオブジェクト指向環境を、ライバル
