スパイやテロリストの行動を追尾し、不正な情報漏出や破壊活動を防ぐ「外事警察」と呼ばれる警察部門が存在する。中でも、警視庁の公安部外部課はドラマ『VIVANT』(TBS系、2023年7月~9月放映)に登場したことでも注目を集めた。
ここでは、警視庁公安部外事課のOBであり、『VIVANT』の公安監修者を務めた勝丸円覚氏が「カウンターインテリジェンス」の世界について明かした『公安外事警察の正体』(中央公論新社)より、一部を抜粋して紹介する。
“お手伝いさん”として吉田茂邸に住み込んでいた女性の驚くべき正体とは——。(全4回の2回目/続きを読む)
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陸軍中野学校のスパイ養成
1938年7月、日本で初めての諜報機関が東京・九段牛ヶ淵に創設された。その名は「後方勤務要員養成所」。翌年4月、中野に移転したことから、陸軍中野学校と呼ばれるようになった。
中野学校は陸軍における秘密戦、すなわち諜報や謀略、宣伝工作を担う要員を育成したが、その教育内容は軍事学や外国語といった一般的な科目から、細菌学や薬学にいたるまで多岐にわたるものだった。さらには、今では考えられない研修も行っていた。服役中の詐欺師やスリを講師として招いては、言葉巧みに相手を騙したり、相手のポケットからこっそり資料を抜き取る際の手口などを教えたりもしたというのだ。
さらには伊賀や甲賀の忍者の継承者を招いて、忍術について学ばせたり、海外における諜報活動の際に現地に溶け込むよう、フランス料理のマナーや社交ダンスも仕込んだ。中野学校出身の諜報員は、インドやビルマ(現ミャンマー)など海外での活動がメインだったが、稀に日本国内で工作活動に従事することもあった。
太平洋戦争中、陸軍中野学校や憲兵隊が、親英米派で戦争に反対していた吉田茂元駐英大使の周辺を「ヨハンセン」という呼び名を用いてマークしていたのはよく知られた話だ。