琥珀色の戯言

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『告白』の感想(再掲)

告白

告白

内容紹介
我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。

内容(「BOOK」データベースより)
愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。第29回小説推理新人賞受賞。

2009年度版の『このミス』第4位。
「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」という教師の衝撃的な「告白」とともに、ひたすら陰鬱な物語の幕が切って落とされます。
さまざまな登場人物の視点から、この「事件」の顛末が語られていくのですが、とにかく読んでいて厭な気分になってくるんですよこの作品。読みながら何度も「ええい、こんな中学校には『ちきゅうはかいばくだん』を落としてやりたい!」と思いました。
まったくもって、すべての登場人物に「救いようがない」。
それでも、やっぱり続きが気になって読んでしまうんだよなあ。

この作品には、単なる「不愉快さを追求したミステリ」に留まっていないところもあるのです。

 熱血先生は授業中にもかかわらず、自分の経験や問題を起こした生徒の心の奥底にある気持ちを熱く語っています。でも、みんなそんな話を聞きたいのでしょうか? そんな話はもういいから授業を続けてください。まじめな生徒が勇気を出して言うと、人という字は……などとさらに無駄話が続きます。挙げ句の果てにはまじめな生徒が問題を起こした生徒に、さっきは悪かったな、などと謝っていることもあります。ドラマならそれでいいのかもしれませんが、実際にそれを持ち込まれたらどうでしょう? そもそも、普段からちゃんとしている人に授業を中断してまで語らなければならないことなんてあるのでしょうか? 道を踏み外して、その後更生した人よりも、もともと道を踏み外すようなことをしなかった人の方がえらいに決まっています。でも残念なことに、そういう人には日常ほとんどスポットが当てられません。学校でも同じです。そして、それが毎日まじめに生活している人に自己の存在価値への疑問を抱かせ、時として、マイナスの思考へと向かわせていく原因になっているのではないでしょうか。

読みながら、これ増田?とか思ってしまったのですが、僕もずっと同じようなことを思いながら生きてきたので、「グレていた人のほうが、なぜか評価される社会」への不快感は理解できました。
ただ、これは小説の本筋とはちょっと外れているので、第1章でこういう「教育論」を主人公の教師に延々と語らせる湊さんの意図は僕にはよくわかりませんでした。これは湊さんの意見なのか、それとも、主人公のキャラクターを際立たせるための「演出」なのか?
でも、こういう部分が、けっこう心に残る作品ではあります。

この作品、徹頭徹尾「不快」なのですが、僕はそこが逆にすごい、とも思うんですよ。
東野圭吾さんの『さまよう刃』を読みおえて感じた「そんなふうに『うまくオチをつける』のって、ちょっと卑怯じゃないか?」という「違和感」を、この作品はちゃんとラストで「解消」してくれます。
考えようによっては、こういう、「子どもを扱っているのに、ひたすら救いようのない話」が、こんなに評価され、売れているという事実そのものが、「現代的」なのではないかなあ。
僕も、読み終えて「これでスッキリした!」と思った自分が、ちょっとイヤになったんですよね。
一昔前だったら、読者にも「こんな酷い物語は、フィクションとはいえ道義的に許されない」という反応を示した人が多かったのではないかと思われますが、いまは、こういう「殺伐とした結末」に「リアリティ」を感じる人が多いのでしょう。
「ミステリ」としてのトリックは弱いし、あまりに「ダークに書きすぎ」な印象はありますが、「こういう物語が素直に受け入れられるような時代」であることは、理解しておくべきなのかもしれません。

「もう見たくない」って顔を覆った指の隙間から覗かずにはいられない、そんな作品。

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