十二夜(1996年、イギリス/アイルランド/アメリカ、監督:トレヴァー・ナン、134分)
シェイクスピアの原作が面白かったから視聴。ほぼほぼ原作の通りに物語が進行していたと思う。冒頭の船が沈没する直前の場面は映画オリジナルかな。台詞まで正確に同じだったかはわからないけど、舞台演劇と実写映画では必要とされるリアリティの種類が違うだろうから、そういうものなのだと思う。
文字情報以上にセザリオ(ヴァイオラ)の惑う恋心が表情と挙動で表現されているのが嬉しい。ただ、現実の人間で表現されると伯爵の言動はいかがなものかと思わざるを得ないし、ヴァイオラさんこの人好きなの……とちょっと困惑するけど、まあこれは時代が時代だからなあ。あと、オリヴィアは結局ヴァイオラの兄であるセバスチャンと結ばれるのだけど、こっちもそれでいいのかと思わなくもない。好きになったのはセザリオであってセバスチャンではないのだし、顔が同じだからいいというわけでもないのでは……。
セットも役者も華やかで、それだけで見る価値はある。恋心と友情の成立と破綻のすれ違いが一挙に解決する場面は、原作でもそうだったけど絡まった糸が一瞬で解きほぐされるコメディの真骨頂で笑って笑顔で、ラストは少しだけ寂しい。お祭りの終わりというか、青春の終わりというか。
《印象的なシーン》トービーとエギュチークの決裂をなんともいえない顔で眺めるフェステ。
侵入者たちの晩餐(2024年、日本、演出:水野格、114分)
程よく力が抜けてフッと笑えるクライムコメディ。狭い空間に所せましと事情を抱えた犯罪者たちが群がり、状況が何度も入れ替わって収束してはまた展開する。彼女のリアクションからなんとなくオチは推理できるけど、オチの理由は全く予想外。本筋の方に気を取られすぎてまったく気にしてなかった。すげえや。
全員が職業倫理違反をしている。勤務先への背信、出向先への背信、事業への背信。
星新一「夜の侵入者」や『悪夢のエレベーター』の類型というか、あれをもっとコメディ寄りに仕上げて、ささやかな日常の喜びをふりかけて完成させた作品、みたいな感じ。上手くて笑えてホッとするストーリー。
ストーリーの規模感は映画というよりテレビドラマっぽいなあ……と思っていたら実際にテレビスペシャルとして放映されたものと後で知った。
《印象的なシーン》当然のように料理を始める小川。
タイムトラベルZ(2016年、アメリカ、監督:ブルース・ウェンプル、99分)
うーん……題材はかなり好きなんだけど、あんまりメリハリが良くないというか、もっと「ここ盛り上がり所ですよ!」ってやってくれたほうがいいと思うんだけどなあ……。良い意味でも、そしてかなり悪い意味でもディックの長篇みたいな映画。
何ができて何ができないのかが不明瞭。時系列が分かりにくいのは作風的に仕方ないとしても、もう少し物語の筋を視聴者にわかりやすく伝える工夫をしてほしかったなあ、というのが正直な感想。登場人物たちもそんなに好感を持てないし、画面もそれほど派手でもないから楽しさが薄い。ただ、終盤の種明かしとかドラッグによるタイムトラベル(というより過去視/未来予知とタイムリープ)なんかのアイディアは目を惹くものがあるし、どうなるのかの予測はつきにくいからワクワクもする。それだけに、もうちょっとどうにかしてくれても良かったんじゃないかな……と思ってしまう。
あと、ちょいちょい字幕に誤字がある。そっちの予算も少なかったのかなあ。
《印象的なシーン》「意外だったな 忘れたかと思ってた」
ゼイリブ(1988年、アメリカ、監督:ジョン・カーペンター、96分)
サングラスを通して見れば世界の真実が分かる、というワクワクするような陰謀論的世界をアクションSFホラーとして描いた作品。ややB級っぽい所を含めて、当時の世情をかなり強めに批判している。商業主義、特に消費を励行するCMへの嫌悪感は同時代のSF作家にもみられたもので、やっぱり時代柄というのが大きいのだと思う。
Wikipediaには本作が本物の陰謀論者に引用されていることに監督が腹を立てているという旨の記述があった。まあ、確かに「この世界は一部の人間(エイリアン)にコントロールされている。俺たちは飼われているだ」「富める者は間違っていて、貧者が世界の真実に気づき反抗する」という世界観はワクワクするし楽しいけど、一歩間違えばそういう方向に行ってしまう危険性もあるってことかもしれない。創作は創作として、もちろん批判精神を含めて、安全に味わっていきたい。
いやいや、その人どう考えても怪しいというか、初めから最後までずっと信用できなムーブメントしていたでしょ、どうして信用したりするの……と思ってたら案の定だった。あと、中盤で眺めの喧嘩シーンがあるけれど、エイリアンと格闘させるのは技術的に難しかったから、人間同士の戦いに尺を割いたのかね。
《印象的なシーン》「ここでガムを噛んで皆殺しにする」
すいません、撮れませんでした。(2024年、日本、監督:林寛人、19分)
へらへらしている製作陣と明らかにイライラしている役者陣の温度差が妙にリアルというか、内輪ノリって傍から見ているとこんな感じだよなあ。垢ぬけてない感じとか喋り方とか笑い方とかが素晴らしくリアル。だからこそ、あの停止の瞬間が気持ち悪くて良い。
《印象的なシーン》黒い男を見つめる一同。
夜勤明け男子のモーニングルーティーン(2020年、日本、監督:耳井啓明、9分)
ヒトコワ系ホラー。無駄なくキッチリ必要なところだけを描いてオチも明快だし違和感をもたせる前振りも上手い。良い短篇ホラーだった。
《印象的なシーン》神経質に物を元の位置に戻す一連の場面。