キュート先生の『肺癌勉強会』

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【PAPILLON】 EGFRエクソン20挿入変異を持つ非小細胞肺癌にアミバンタマブ+化学療法は化学療法単独よりも有効

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Amivantamab plus Chemotherapy in NSCLC with EGFR Exon 20 Insertions (NEJM 2023, published on October 21 2023)より

まとめ

EGFRエクソン20挿入変異のある非小細胞肺癌にアミバンタマブ+化学療法は化学療法単独よりも有効

要約

○アミバンタマブは、EGFRエクソン20挿入(Ex20ins)進行非小細胞肺癌において、プラチナ併用化学療法治療中あるいは治療後に病勢進行した症例の治療薬として承認されている。

○アミバンタマブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法の安全性と効果が第1相データで示された。

○このPAPILLON試験は、第3相国際無作為化試験である。

○未治療のEGFR Ex20ins進行非小細胞肺癌に対し、

 -アミバンタマブ+化学療法

 -化学療法単独治療

に1:1の割合で割り付けた。

○主要評価項目は、盲検化された独立中央審査による無増悪生存期間PFSとした。

○化学療法群で病勢進行がみられた症例は、アミバンタマブ単剤治療への移行が認められた。

○308例の患者が無作為に割り付けられた。

○PFSの中央値は

 -アミバンタマブ+化学療法群 11.4カ月

 -化学療法単独治療群 6.7カ月

とアミバンタマブ+化学療法群が有意に延長した(ハザード比 0.40、95%CI:0.30-0.53、P<0.001)。

○18ヵ月時で無増悪生存率は

 -アミバンタマブ+化学療法群 31%

 -化学療法単独治療群 3%

○データカットオフ時で奏効率は

 -アミバンタマブ+化学療法群 73%

 -化学療法単独治療群 47%

○全生存期間の中間解析(33%成熟度)では、化学療法単独治療群と比較したアミバンタマブ+化学療法群の死亡ハザード比は0.67(95%CI:0.42-1.09、P=0.11)。

○アミバンタマブ+化学療法群の主な有害事象は、可逆的な血液毒性やEGFR関連の毒性であり、7%が有害事象でアミバンタマブを中止した。

○EGFR Ex20insを持つ進行非小細胞肺癌の一次治療として、アミバンタマブ+化学療法は化学療法単独治療と比べ有効であった。

キュート先生の視点

以前にEGFR Ex20ins変異に対するアミバンタマブの第1相試験である「CHRYSALIS試験」については紹介しました。

今回、ESMO2023のProffered Paper sessionで発表された「LBA5 PAPILLON試験」を紹介します。アミバンタマブと化学療法の併用での第3相試験で化学療法よりも有効であることが示されました。Ex20insに対しては今までに第2世代EGFR-TKIやオシメルチニブによる治療が検討されてきましたが、なかなか化学療法を上回る効果が示せませんでした。

今回の「PAPILLON試験」はEGFR/MET二重特異性抗体で免疫活性のあるアミバンタマブのEx20ins変異に対する効果が評価されました。論文中のPFSも途中でクロスすることがなく、サブグループ解析をみても年齢、地域や喫煙歴などでも区間推定値が1をまたぐことがない圧倒的な効果を見せつけています。

EGFR Ex20ins症例は珍しく、なかなか遭遇する機会は限られておりますが、実臨床でアミバンタマブが活用される日を待ち望んでいます。

【m3 スペシャリストの視点】 HER2陽性肺癌に対するトラスツズマブ(寄稿記事)

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HER2陽性肺癌に対するトラスツズマブ

わたくしが連載していますエムスリーさんの「スペシャリストの視点」第2弾の紹介です。

 

トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ®)は抗HER2抗体としてのトラスツズマブとトポイソメラーゼI阻害薬のデルクステカンが結合した抗体薬物複合体です。HER2変異は非小細胞肺がんの約3%に認められる遺伝子異常となっています。今回、HER2陽性非小細胞肺がんに新たな治療選択肢として「DESTINY-Lung01試験」について紹介します。

 

○HER2陽性の非小細胞肺がん症例を対象としたT-DXdの効果を評価した多施設共同国際、第II相、単アーム、非盲検試験。

○過去に標準治療に対して抵抗性を示した転移性HER2陽性非小細胞肺がん91例について解析されました。

○主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は奏効期間(DoR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)と安全性が評価されました。

○フォローアップ期間の中央値は13.1カ月(0.7-29.1カ月)です。

○患者背景は、年齢の中央値が60歳(29-88歳)、女性が66%、34%がアジア人。

○91例中33例(36%)で登録時に中枢神経系への転移を有していました。

○独立中央評価委員会の評価で主要評価項目であるORRは55%(95%CI:44-65%)でした。

○完全奏効(CR)が1例、部分奏効(PR)が49例。

○病勢コントロール率は92%であり、病勢が評価できなかった4例を除くと病勢進行(PD)判定の症例は91例中3例のみでした。

○PFS中央値は8.2カ月(95%CI:6.0-11.9カ月)

○OS中央値は17.8カ月(95%CI:13.8-22.1カ月)

○安全性のプロファイルは過去に行われた臨床試験での報告に一致。

○グレード3以上の治療関連有害事象は46%で認められ、最も頻度の高い有害事象は好中球減少(19%)でした。

○治療関連間質性肺疾患が26%に認められ。91例中2例で死亡に至った。

キュート先生の視点

この「DESTINY-Lung01試験」では、既治療非小細胞肺がんに対するトラスツズマブの高い奏効率、病勢コントロール率の結果が示されました。

HER2陽性非小細胞肺がんに対する奏効率は55%(CR 1%、PR 54%)、病勢コントロール率は92%と、既治療例に対する効果としては十分期待できる治療だと考えられます。

特にPDと評価された症例は91例中3例のみであり、高い病勢コントール率とともに低いPD率は、失敗の少ない治療と捉えることができます。

▼まとめやコメントはエムスリー「スペシャリストの視点」をご覧ください▼


禁煙が早ければ 肺癌の生存期間が延長する

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『Prediagnosis Smoking Cessation and Overall Survival Among Patients With Non–Small Cell Lung Cancer』(JAMA Netw Open 2023;6:e2311966)より

まとめ

 肺癌診断前の禁煙が早ければ 肺癌の生存期間が延長する

要約

○肺癌は依然として世界の癌関連死亡の主要な原因となっています。

○非小細胞肺癌は肺癌症例全体の 85% を占め、喫煙はそのリスクと最も大きく関連の深い要因です。

○しかし診断前の禁煙からの年数や累積喫煙と、肺癌診断後の全生存期間との関連についてはほとんど分かっていません。

○肺癌サバイバーコホートから非小細胞肺癌患者の診断前の禁煙からの年数、累積喫煙パック・年と全生存の関連性を特徴付けることを目的としました。

○このコホート研究には1992年~2022年の間にマサチューセッツ総合病院のボストン肺癌生存コホートに登録された非小細胞肺癌症例が含まれました。

○患者の喫煙歴とベースラインの臨床病理学的特徴は、アンケートを通じて前向きに収集され、肺癌診断後の全生存は定期的に更新されました。

○肺癌診断前の喫煙期間をExposureとし、主要評価項目は詳細な喫煙歴と肺癌診断後の全生存との関係としました。

○非小細胞肺癌症例5594人で

 -平均年齢 65.6歳

 -男性 2987人 [53.4%]

 -795人 (14.2%)  非喫煙者

 -3308人 (59.1%) 元喫煙者

 -1491人 (26.7%) 現喫煙者

○Cox回帰分析では、非喫煙者と比べた死亡率は

 -元喫煙者で26%高く (ハザード比 1.26、p<0.001)

 -現喫煙者で68%高い (ハザード比 1.68、p<0.001)

○肺癌診断前の禁煙からの年数は、喫煙経験者の死亡率の有意な低下と関連していました (ハザード比 0.96、p=0.003) 。

○診断時の臨床病期で層別化すると、病気が早期の症例では、喫煙経験者で全生存がさらに短いことが明らかでした。

○早期の禁煙は、肺癌診断後の死亡率の低下と関連し、喫煙歴と全生存の関係は診断時の臨床病期で異なる可能性があります。

○肺癌診断後の喫煙歴に関連する治療レジメンと有効性が異なる可能性が示唆されます。

○肺癌の予後や治療法の選択を改善するため、詳細な喫煙歴の聴取は重要です。

キュート先生の視点

喫煙が肺癌発症の重要な原因であることは誰でも知っています。ただ予後にこれほどまで関連していることは知られていません。特に早期肺癌の症例では喫煙が予後に大きく関係しています。

呼吸器内科医として禁煙を勧めることは大切ですが、COPDなどでまだ肺癌発症に至っていない症例では、より強く禁煙して頂くよう心がけ、実臨床でも働きかけることが重要です。

COPD合併肺癌に対する「COPD」の治療は、肺癌の予後を改善する

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『Survival impact of treatment for chronic obstructive pulmonary disease in patients with advanced non‑small‑cell lung cancer』(Sci Rep 2021;11:23677)より

まとめ

COPD合併肺癌に対するCOPDの薬物療法は肺癌の生存を改善。

要約

○COPDは肺がんを併発することがありますが、その予後に与える影響は分かっていません。

○さらにCOPDに対する薬物治療が肺癌の予後を改善するかどうかも不透明です。

○今回、京都大学病院で化学療法を受けた進行非小細胞肺癌症例を後ろ向きに調査しました。

○併存するCOPDは肺機能検査によって診断され、COPDに対する薬物治療と全生存の関係が評価されました。

○2007年~2014年に進行非小細胞肺癌に対して化学療法を行った550例のうち、347例が肺機能検査が行われて評価されていました。

○103例がCOPDを併存していました(COPD群)。

○全生存期間の中央値は、COPD群が非COPD群に比べ短い(10.6カ月 vs 16.8カ月)結果でした。

○37例がCOPDに対する治療が行われており、COPDに対する治療が行われていなかった症例と比較して全生存が改善していた(16.7カ月 vs 8.2カ月)。

○多変量Cox回帰分析では、COPD治療が良好な予後に影響を与えることが確認されました。

○追加の検証でも、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による治療を受けた症例でも同様の結果が得られました。

○COPDに対する治療が行われていない場合、COPDの併存は、進行非小細胞肺癌での予後不良と有意な関連を示しました。

○併存するCOPDに対する治療は 予後を改善する可能性があります。

キュート先生の視点

2021年に発表された京都大学 佐藤晋先生の論文を改めて読ませて頂きました。

肺癌診療にあたる医療者として、改めてCOPDの診断や治療について真剣に考えて治療介入をする必要がある、と考えさせられる報告です。

まず肺癌症例の肺機能検査の施行率が気になるところです。550例中、347例との記載ですので63%に留まります。これが多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれですが、京都大学病院という一流の呼吸器内科医が集う病院での施行率の数値です。

肺機能検査を行えるほど差し迫っており余裕がない、症例の状態が悪い、などの理由は考えられますが、ただただ「肺癌」という重大な疾患を目の前に、肺機能検査がスルーされてしまった可能性は否定できません。

次にCOPDと診断された103例の症例のうち、COPDに対する薬物治療が開始されていた症例が37例と、実に36%の症例でしかCOPDの治療が開始されていませんでした。ここでもCOPD治療が行えないほど状態が悪い、吸入薬の理解ができないなどの理由は考えらえます。

ただしCOPDに対する薬物治療が行われていた症例に関して、全生存は16.7カ月と、COPDでなかった症例と比較しても数字的に大差ないことが分かります。この点が最も本研究が評価され心強いデータであることは間違いありません。

COPDに対する気管支拡張薬や吸入ステロイドがCOPD増悪やCOPD症例の自覚症状を改善し、肺癌の予後も改善することは大変重要です。

喫煙者の多い肺癌症例では必ず肺機能検査で評価を行い、COPDであった場合にはCOPDに対する薬物治療介入が必須であることは間違いありません。肺癌診療にあたる医療者として、明日からの診療につなげていきたいと思い、本研究を紹介致しました。

【ADAURA OS】ステージII-IIIA期での術後オシメルチニブ 5年生存率85%

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Overall Survival with Osimertinib in Resected EGFR-Mutated NSCLC(New Engl J Med 2023 Online ahead of print)

 久しぶりの更新です。

 先日のASCO 2023で発表されました『ADAURA試験』。発表後に即日NEJMに掲載されました術後オシメルチニブのOSを含む長期フォローデータについて紹介します。

要約

 完全切除されたステージIB-IIIA期のEGFR陽性肺癌に対して術後オシメルチニブの投与はプラセボに比較して無病生存期間DFSを延長したことは以前の『ADAURA試験』で示されている。

 この『ADAURA試験』は第III相・2重盲検で、1:1で無作為にオシメルチニブあるいはプラセボが病勢増悪か3年間のレジメン完遂まで治療された。

 主要評価項目はステージII-IIIA期でのDFS。

 副次評価項目はIB-IIIA期でのDFSやOS、安全性などが含まれた。

 682例がランダム化され339例がオシメルチニブ群、343例がプラセボ群に振り分けられた。

 ステージII-IIIA期での5年生存率はオシメルチニブ群とプラセボ群で85% vs 73%(ハザード比 0.49,95.03%CI:0.33-0.73、p<0.001)という結果。IB-IIIA期では5年生存率は88% vs 78%(ハザード比 0.49、95.03%CI:0.34-0.70、p<0.001)。

 初回の解析時と術後オシメルチニブの安全性プロファイルは一致していた。

 

キュート先生の視点

 フォローアップ期間の中央値は59.9カ月と約5年のデータが報告されました。

 5年生存率はオシメルチニブ群が85%、プラセボ群が73%でハザード比は0.49と驚くべきOSのデータが示されました。生存曲線のカーブは5年次に至るまで徐々に引き離されて交わることのない美しいカーブです。

 現在の『肺癌診療ガイドライン』で「推奨度決定不能」とされていますが、今回OSのデータが示されたことでEGFR陽性肺癌の術後オシメルチニブは必須の選択肢となるのでしょう。

 今後、進行肺がんでも周術期でもEGFR-TKIを活用することとなり、より内科/外科の連携が重要になってくることは間違いありません。

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