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宮井正樹

コロナ禍、中高生の妊娠相談が増えた背景にあるものは 熊本・慈恵病院に聞く

2020/05/22(金) 11:07 配信

オリジナル

新型コロナウイルスの感染防止で、長期間登校を禁止している学校は多い。その影響か、中学生や高校生の「妊娠相談」が例年より増えている。「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」の運営で知られる熊本・慈恵病院は先日、4月だけで全国から75件の相談があったと発表した。心細く不安な思いの子たちから、どんな相談が寄せられたのか。同病院の新生児相談室室長・蓮田真琴さん(42)に話を聞いた。(ノンフィクションライター・三宅玲子/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「75人」より実際は多い

──慈恵病院では24時間の電話相談「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」を行っています。4月の相談件数は592件、そのうち中高生からの相談が75件、13パーセントとのこと。昨年4月の58件(単月総数515件)に比べて17件増えています。どう見ますか。

私たちは「多い」と感じます。毎年6000件ほどの電話相談があるうち、中高生の割合は10パーセントほどです。月別では中高生の数が5、6人ほど増えたことは過去にもありましたが、それらと比較しても「月の相談75件」は多いです。

他の相談機関には「援交」や「SNSで知り合った人」との性行為に関する悩みもあったそうですが、うちが受けた75件は全員、「彼」や「彼女」との間での性的な関わりに起因する相談でした。

蓮田真琴(はすだ・まこと) 慈恵病院新生児相談室室長。1977年福岡県福間町(現在の福津市)生まれ。慈恵病院蓮田健副院長の妻。6児の母。子育てが一段落し、4年前から「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」に携わる(撮影:宮井正樹)

──75人の内訳は。

中学生が2人、高校生が73人です。全員が県外在住でした。75人のうち、メールでの相談は高校生の4人。あとは電話です。電話もメールも相談は匿名です。

はじめに年齢を聞くのですが、学年を言うのをためらうのか、「10代」とだけしか言わない人もいますし、10代でも働いている人は含めていません。中高生と名乗っていなくても、実際には中高生からの相談件数はもっと多いと考えています。

──「ステイホーム」でも家に親がいるわけではないのですね。

別の記者からも同じ質問をされました。相談では「親がいないときに彼の家に行った」とか「彼女が家にきたときに」という話でした。例年、夏休みなど長い休みの後半になると、中高生からの相談が増えます。今回はコロナ禍で学校に行けない、部活はない、塾もない、という状況が続き、好きな人同士が一緒にいる時間が長くなった。そこから、性行為の機会が増え、妊娠する可能性が高まったのではないかと見ています。

年間約6000件の相談の中でも「妊娠判定」に関する相談が多い(撮影:宮井正樹)

正しい性知識を持たない

──どんな様子で電話をかけてくるのでしょう。

心細そうな声で「どうしたらいいかわからなくて電話しました」と話してくれる子。泣きながらかけてくる子もいれば、おどおどと怯えているのが伝わってくる子もいます。私たちは「勇気を持って電話をしてくれてありがとう」と声がけすることから相談を始めます。

──相談の内容は。

妊娠したのではないか、あるいは、ちゃんと避妊ができていなかったかもしれないという心配です。ネットなどで「妊娠するとつわりと微熱が続く」という知識を得て、性交渉の翌日に「吐き気と微熱がする」と心配して電話をかけてきた女の子がいました。挿入行為をしていないのに「妊娠したかもしれない」と泣いて電話をしてきた女の子もいました。

性行為とはどういうことか、性行為の先にある妊娠とはどういうことなのかの知識がほとんどなく、正しい避妊の方法がわからないままに性行為に至ってしまい、そのあと「妊娠していたら、どうしよう」と不安になる子が多いように感じています。

なかには妊娠検査薬で陽性が出たけれど、結果を信じたくなくて「間違っていませんか」と確かめる電話もあります。現実を受け止めるのが難しい様子が伝わってきます。その裏には、もし妊娠してしまったら、親に言えない、学校を辞めないといけない、といった不安があります。

慈恵病院は1898年にマリアの宣教者フランシスコ修道会が開設したハンセン病患者のための施療院から始まった。蓮田太二院長は熊本大学医学部から赴任後、修道会からの依頼により院長職に。1978年、医療法人聖粒会を発足。2007年に開始した「こうのとりのゆりかご」は太二氏から長男で副院長兼産婦人科部長の健氏に引き継がれ、現在は健氏が推進している。(撮影:宮井正樹)

──男子からの相談もあったそうですね。

5人いました。男子の数については統計をとっていないので、多いか少ないかは比較できないのですが、ときどきあります。3、4年前、関東の男の子からの相談が目立った時期がありました。相談員が「男の子なのによく電話をくれましたね」と声をかけたところ、「学校で性教育を受けた。女の子が妊娠したら男は責任を持たないといけない、彼女が妊娠を心配したら一緒に病院に行きなさいと教わった」と話してくれました。性教育の成果を感じました。

男の子が女の子と一緒に電話をかけてきて、スピーカーモードにして相談員と3人で話したことや、「彼女の生理がこなくて心配だけど、検査薬を使いたくないと言っている」という男の子からの相談を受けて、女の子から電話をいただけるように男の子からフリーダイヤルの番号を伝えてもらったこともあります。男の子がまず電話をくださって、後日女の子がかけてくることもあります。

重たい決断を迫られる

日本性教育協会が6年ごとに行っている「青少年の性行動全国調査」の第8回(2017年)によると、高校生の性交経験率は男子13.6パーセント、女子19.3パーセント。第6回(2005年)から数字は全体に下がっているが、一定数の高校生が性行為を経験している。一方、2017年度の18歳以下の人工妊娠中絶件数は8015件(厚生労働省)で、毎年減少傾向にはあるが、決して少ないとはいえない。

(撮影:宮井正樹)

──相談者の子たちは、これからこうしたいという考えはもっていましたか。

75人のうち10人の相談が「妊娠検査薬で『陽性』になった」というものです。1人は中学生でした。「産みたい」という子は3人、残る7人は中絶を希望していました。

どちらを選ぶにしても、早い段階で相談してくれたことは関係をつなげるチャンスだと捉えて、1度きりの電話相談に終わらず、その後もちゃんとつながっていけるように丁寧にお話しさせていただいています。

──具体的には。

電話をかけてくれる人たちは、誰にも相談できずにいる人がほとんどです。「陽性」の10人のうち親に話した人は1人しかいません。

「陽性」となった場合、当事者となる女の子や男の子にとって、まず「親に打ち明ける」という難関があります。未成年で中絶手術を受ける際でも、親の承諾書が必要ですので。「お母さんに話したら怒られる」と不安がる子もいますが、逆に「今までおかあさんに心配ばかりかけてきたので、これ以上悲しませたくない」と言う子もいました。親からの虐待歴があって「妊娠したことを話したら叩かれる」と怯える子もいます。親子関係はさまざまですが、親に話せるかどうかは重要なポイントですので、親との関係を聞くようにしています。病院の受診についてもお話しします。

また、学校を続けられるかの心配は大きいです。公立高校の場合は妊娠を理由に退学を迫ることは認められていませんが、私立では中退させられることもあり、心配する子は多いです。

「ゆりかご」発足以前から行っていた「電話相談」は、「ゆりかご」開始とともに24時間365日稼働に。12人の職員がシフトを組んで担当する(撮影:宮井正樹)

──「陽性」となった中高生には、家庭環境や生育歴などに一定の傾向がありますか。

私自身、4年前に相談業務に就くまでは、未成年の妊娠について、やんちゃな子たちに起こることかなと思っていました。実際、そういう子たちに多いのは確かです。

慈恵病院では、養子縁組の支援も行っています。小中高生が慈恵病院で出産して養子縁組まで支援した事例はこれまでに69件。なかには進学校に通っていた女の子もいます。出産にあたってご両親は協力的で、一見、家庭の問題があるようには感じませんでしたが、支援チームの精神科医は、親子関係の問題を指摘しました。

ある女の子は、自身が親から虐待を受けていたため、妊娠を知った親にさらに虐待されることを恐れて、親に隠して一人で出産。「ゆりかご」に連れてきたところに看護師が声をかけたことから、相談につながりました。ただ、未成年が出産した実子を養子に出す場合は親の承諾が必要です。そのため養子縁組の支援を行うことができず、赤ちゃんは里親に預けられました。

夫(蓮田健副院長)ともよく話し合うのですが、中高生が性交渉に進んでしまう背景には、親子関係に何らかの問題があるのではないかという結論に行き着きます。

──妊娠を親に打ち明けると、その次には「産む」「産まない」の決断をしなくてはなりません。

中高生という若さで産む決断をした場合、描いていた将来を諦めるなどの問題が生じます。では産まない決断をしたら妊娠をなかったことにできるかというと、決してそうではありません。

ある女の子は「胎内で受精した段階で命が芽生える」と学校の命の授業で教わったことが頭から離れず、「生理が遅れて妊娠に気づいたけれども、中絶を選ぶことができない」と苦しい思いを話しました。また、別の女の子は「産婦人科で赤ちゃんの心臓が動いているのを見て、産みたいと思った」と泣いていました。それでも親御さんの反対や学校を続けたいという理由で、中絶しなくてはならないケースもあります。

私たちは、どんな判断であれ、「自分が一生懸命決めたことだから間違っていません、前を向いて生きていきましょうね」とお話ししますが、中絶した後にご本人が深く傷ついて長く悩まれることは、中高生だけではなく大人の女性にも見られることです。

(撮影:宮井正樹)

──難しい判断を迫られた女の子との相談で、気をつけていることは。

多感な時期なので、私たちの発する言葉で「産む」「産まない」の判断に強い影響を与える可能性があります。本人の気持ちをいちばん大事にしたいので、私たちの発する言葉によって、女の子が本当の思いとは違う方向に進んで後で悔いを残すようなことになったら悲しいと思います。ですので、女の子の反応を見ながら慎重に言葉を選んでお話ししています。

──直面した親が気をつけるべきことは。

大人でも命の問題は難しいものです。子どもひとりでは解決できません。もしお子さんから相談されたら、ショックや怒り、戸惑いなどさまざまな感情が湧くと思いますが、まずは「よく相談してくれたね」と言っていただきたいなと思います。

授かった命を周りが支える

「こうのとりのゆりかご」が2007年に発足して13年を迎えた。「身勝手に子どもを捨てることを助長する」「子どもの『出自を知る権利』が保障されない」など、「ゆりかご」への批判は続いている。慈恵病院では一貫して「制度は変えられる、命は変えられない」という考えで、「出自を知る権利以上に赤ちゃんの生命を守ること」を優先。「命を守られた赤ちゃんを大切に育てる社会」の実現を目指してきた。現在は、母子支援施設の設置に取り組んでいる。

「ゆりかご」に預けられた赤ちゃんは2007年5月の発足から2019年3月までの12年で144人(撮影:宮井正樹)

──母子支援施設とは。

妊娠しても何らかの事情で病院に行くことができない女性が、自宅などで1人で出産して「ゆりかご」に連れてこられるケースは少なくありません。こうした「孤立出産」の問題の解決を目指しています。参考にしているのが韓国の取り組みです。韓国には出産から最大で1年半まで無料で滞在できる民間の「未婚母子支援施設」が全国に22ヶ所あります。実際に副院長とともに見学に行きましたが、ある女性は高2で妊娠し、施設に入所して無事に出産した後、高校を卒業し、資格取得に向けて勉強をしていました。何より施設の雰囲気がとてもあたたかく、母子を支える雰囲気があったのが印象的でした。

予期せぬ妊娠をした女性の出産を支える社会資源が日本には整っていません。事情はどうであれ、授かった命を責めるのではなく、周りが支え育てる。そんな場所は日本にも必要です。3月に熊本市に申請書を提出し、回答を待っているところです。

(電話相談は、慈恵病院0120(783)449  ホームページでも受け付けている。)

(撮影:宮井正樹)


三宅玲子(みやけ・れいこ)
ノンフィクションライター。1967年熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009〜2014年中国・北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルブログ「BillionBeats」運営。著書に『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』ほか。個人サイト

[写真]宮井正樹

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