デンマークでは2011年、飽和脂肪酸を含む食品に課税する「脂肪税」を世界で初めて導入したが、わずか14カ月で廃止されてしまった。一体何があったのか。作家のイェンヌ・ダムベリさんの著書『脂肪と人類』(新潮選書)より、一部を紹介しよう――。

デンマークの「脂肪規制」

デンマークの食のイメージといえば真っ赤なソーセージ、デニッシュ、ベーコン、レムラードソース、豚皮のフライだが、だからといって国民の健康にまつわる法制度がスウェーデンより緩いわけではない。見方によっては進歩的とも言えるほどだ。

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2003年にはデンマークが工業生産のトランス脂肪酸を厳しく規制したことが世界的なニュースになった。新しい規制では食品に含まれる人工型トランス脂肪酸は最大2%までで、繰り返し違反した場合には最長2年の禁固刑が科せられることもある。

デンマークでトランス脂肪酸の規制を推進したのは、予防循環器学の教授スティーン・ステンダーだ。規制だけが唯一の合理的な結論だという姿勢で、トランス脂肪酸は他の脂肪と異なりデメリットを補うようなメリットがないからというのが理由だ。つまり人間にトランス脂肪酸は必要ないのだ。

「トランス脂肪酸」規制で心血管疾患の死亡率が減少

デンマークでは1980年以降心血管疾患による死者が70%も減少していて、その傾向はまだ続いている。同じ傾向が他のEU諸国にもみられるが、デンマークは特に顕著だ。

ステンダーによれば医療技術が向上したこと以外にも、デンマークでは厳しい喫煙禁止が実施され、政府が「運動して果物や野菜を食べよう」というキャンペーンを行ったのが大きかったという。その中でトランス脂肪酸の規制がどれだけ貢献したかは判別できないが──とスウェーデン公共テレビのインタビューで語っている。

2000年から2009年の間にデンマークの男性が心血管疾患で死ぬ確率は毎年8%減少した一方で、スウェーデンは4.5%の減少だった。二国で唯一違ったのがトランス脂肪酸の規制の有無だったとステンダーは指摘する。