BUCK-TICKを形作る“ストイックな積み重ね” ちわきまゆみ、『バクチク現象 - New World -』から辿るバンドとの日々

BUCK-TICKの活動を2021年末から2023年末まで追いかけたドキュメンタリー映画『劇場版 BUCK-TICK バクチク現象 - New World -』。その『I』が2月21日から上映中、『Ⅱ』が2月28日から上映開始となる。スタジオでのレコーディングの模様やツアー先でのバックヤードの様子、率直なインタビューなど、貴重な彼らの姿をこの作品は捉えている。『魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~ in 日本武道館』(2021年)、『BUCK-TICK TOUR THE BEST 35th anniv.』(2022年)、『BUCK-TICK TOUR 2023 異空 -IZORA-』(2023年)など、ここで追いかけているツアーのステージはほとんどが映像作品として発表されているが、その裏で彼らはどのように過ごしていたのか。淡々と旅を続け各ステージに全力を注ぐ5人を見ることで、彼らへの思いを新たにする。この撮影を続けている中で、櫻井敦司が急逝。だが彼の不在を乗り越えてBUCK-TICKは再びステージに立つ。折しもコロナ禍でライブ活動が制限された時期でもあり、波乱万丈の2年の記録となった。
このドキュメント撮影時に放送されたラジオ番組『THE MUSIC OF NOTE「BUCK-TICK 櫻井敦司とくるみちゃんの部屋」』(FM COCOLO)でアシスタントとして共演し、BUCK-TICKとも長年親交のあるアーティスト/ラジオパーソナリティ ちわきまゆみ氏に、本作品について話を聞いた。(今井智子)
「“答え合わせ”もできるいいドキュメンタリー」
ーー『劇場版 BUCK-TICK バクチク現象 - New World -』をご覧になっていかがでしたか。
ちわきまゆみ(以下、ちわき):どんな気持ちで観たらいいのかと思っていましたけど、観てよかったと素直に思っています。デビュー25周年の時の『劇場版 BUCK-TICK ~バクチク現象~』から12年近く経っているんですけど、成長ぶりがすごいなと思って。もちろん昔から彼らなりのリズムというか、バンドの和気藹々とした空気、若くてわちゃわちゃした感じがあったけれども、今回の映画を観て10年ちょっとの間に、内面的にとても豊かな時間を過ごしたのかなと。言葉数は少ないけどメンバー同士が通じているような部分が見えましたし、カメラに対しても、昔はもうちょっとカッコつけた感じというか、鎧があったように思うんですけど、今作ではすごくリラックスしていて。
ーー2021年12月29日の日本武道館公演から始まり、年が開けると『異空 –IZORA-』(2023年)のレコーディングに入ったことがわかります。2022年9月の横浜アリーナ公演で「絶賛レコーディング中」とMCで櫻井さんが言っているので、ツアーの合間を縫って制作していたこともわかりますね。
ちわき:レコーディングはこんなに淡々としているのねって。音楽に集中している。後半で今井寿さんが「昔のほうがバカで勢いでやれちゃってたけど、今のほうがプレッシャーとか責任感がある。大人になっちゃったということかな」とおっしゃってるんですけど、そこがすごくいい。最近の彼らは『No.0』(2018年)、『ABRACADABRA』(2020年)、『異空 –IZORA-』とすごく芳醇な音楽を残してきたじゃないですか。自然とそうなったんだと思う。もっと新しいことを5人でやろうと。そこには責任感やプレッシャーもあったんだろうし。それがバンドの成長記としてひしひしと伝わる。「いいバンドだね」と改めて思いました。特に『I』のほうでは、こうやって彼らの音は作られていくんだとか、音の重ね方とか、インタビューではわからないスタジオ内でのやりとりが見れて、面白かったですね。
ーー櫻井さんと今井さんの談笑シーンがあったりして、スタジオでメンバーの皆さんがどんな風に過ごしているのかが垣間見えますよね。レコーディングにはとてもシリアスに取り組んでいることもわかります。
ちわき:櫻井さんが一人で歌入れをするシーンは、楽器の音が聴こえなくて素の歌だけになるじゃないですか。マイクを通さず、エフェクトを使わなくても、これだけビブラートしてるんだと驚きましたし、本当に歌が上手い人だと思いました。一方、当たり前のことなんですけど、仮歌は作曲者が歌っていますよね。これまで私たちはほとんど櫻井さんの歌しか聴いていないわけで、今井さんは時々歌っていたけど、星野さんのメインボーカルなんて聴いたことがなかったわけですよ。『スブロサ SUBROSA』(2024年)が出て、私がDJを務めている番組『THE MAJESTIC SATURDAY NIGHT』(FM COCOLO)に今井さんと星野さんがゲストで来てくれた時に「(歌声に)そんなに違和感ありますか?」「俺たちはレコーディングの時にお互いの歌を聴いているから全然違和感ないんだよね」とおっしゃっていて。違和感というわけじゃないけど、すごく新鮮ですよね。だからレコーディングの時の仮歌で、「これは今井さんの曲だから今井さんが歌ってるんだな」って気づいて、答え合わせみたいなこともできて、いいドキュメンタリーだなと思いましたね。制作という部分についてはとても興味深い。いろんな楽器が至近距離で見れますから、バンドをやってる人は楽しいんじゃないかなと思いますよ。「こんな風に弾いてるんだ!」とか。
「5人とチームの皆さんの細かい積み重ねがすべて」
ーーその後はツアーのドキュメンタリーになっていきます。折しもコロナ禍でライブの現場は厳しい状況になっていますが、そのリアリティも含め、観ていると彼らのツアーに同行しているような気持ちになってきます。
ちわき:ちょうどその年のツアー(『BUCK-TICK TOUR THE BEST 35th anniv.』)が始まった頃と、私が櫻井さんとご一緒していた番組『BUCK-TICK 櫻井敦司とくるみちゃんの部屋』がリンクしているんですけど、そこでもドキュメンタリー映画の話をしていて、「(ツアーの移動中に)振り向くとカメラがいるんです、駅とかに」とおっしゃっていて(笑)。ラジオの収録にカメラが来るという話もあったんですが、スタジオではあまり絵にならないから実現しなかったようです。まだコロナ禍で、私たち番組チームもすごく気をつけて収録していたし、それ以上に櫻井さんたちは日々気をつけてツアーしていたと思います。そういったストイックなトーンもありつつ、でも大人のツアーですから、そんなに騒いだり飲んだりしないので、いい感じの空気だったのかなと思います。皆さんが思っている以上にロックミュージシャンの日々ってストイックなんですよね、大人になると。ステージですべてを出すために、さすがのBUCK-TICK兄さんたちも節制してるんです(笑)。
ーー『Ⅱ』のインタビューで櫻井さんがそういうことを話されていますね。若い頃は違ったけど、今は全力を出すためにツアー中はステージに集中して体を休めると。
ちわき:そういったステージに懸ける思いの強さはわかりますね。ツアーって基本的には毎回が同じじゃないですか。移動して楽屋に入って、会場の人たちに「今日もよろしくお願いします」って挨拶して、サインして物販が始まって……その繰り返しを長年やってきたからこそ、ああいうパフォーマンスが成り立っているんだということを、まざまざと見せられた気がします。私たちを別世界に連れていってくれるようなBUCK-TICKの素晴らしいステージが、ポンとできているわけではなくて。35年間これを続けてきた彼らのやり方とかチームワークを活かして、より良いやり方を模索しながら。途中で、演出の直しとかをするじゃないですか。「この照明ちょっと気になるんです」とか。そういう日々の小さな積み重ねから、私たちがいつも「素敵!」と思っている世界ができているんですよね。レコーディングとは違うベクトルで、メイクや衣装、照明やセットの皆さんをまとめていく、5人とチームの皆さんとの細かい積み重ね。これがすべてだと思いましたね。
ーーリハーサル終わりでスタッフの皆さんに、櫻井さんが「よろしくお願いします」と毎ステージ必ず言うのも印象的でした。ちわきさんとの番組でツアーのこともよく話題になっていたようですね。特に記憶に残っていることはありますか。
ちわき:櫻井さんが原田真二さんのことがすごくお好きだということで、番組でも原田さんの曲をよく選曲してかけていらしたんですよ。櫻井さんのファンが全国からあの番組を聴いてくださっていたので、この話が原田さんご本人に伝わったようで、原田さんの出身地である広島公演の日、原田さんのマネージャーさんが大量のお好み焼きを楽屋に差し入れしてくださったそうです。「リハをしていたら大量のお好み焼きが。とても美味しかったです」と櫻井さんがおっしゃっていました。ファンの皆さんがSNSで拡散して、原田さんご本人の耳にも入ったという。お魚さん(ファンクラブ FISH TANK会員の愛称)たち、すごいですよね。
ーーリスナーの皆さんから番組へのリアクションも多かったようですね。
ちわき:映画の中で、群馬公演の時に上毛かるたの札の言葉を使ってメンバー紹介をしていますよね。あのことは番組に報告が来ていました。メンバーの名前に合わせて、今井さんは「い」の札とか。でも櫻井さん自身は「さ」ではない札を言っていたので、番組で聞いたら、「さ」の札は「三波石と共に名高い冬桜」だと教えてくれましたね。「三波石という変な石があって」とおっしゃるから「珍しい石なんですね」ってカットされないようにフォローして(笑)。偶然ですが、桜が入っているのが櫻井さんらしいですよね。
ーー番組ではドライブや車についておしゃべりするコーナーもありました。何か面白いエピソードはありましたか。
ちわき:ファンの皆さんの間では定番のエピソードを櫻井さんが話してくれたんですけど、デビュー間もない頃「BUCK-TICK号」と呼んでいたオンボロな機材車にメンバーが乗ってツアーを回っていたそうで。たしか大阪からの帰り、東名高速を走っている時、櫻井さんは別のレンタカーで走っていて、先にサービスエリアに着いてBUCK-TICK号を待っていたけど、待てど暮らせど全然来ない。そのうちにずーっと向こうから、すごーくゆっくりとBUCK-TICK号が進んで来るのが見えて、「もしかして手で押してる?」みたいな(笑)。『異空 –IZORA-』に入っている「Boogie Woogie」の歌詞に〈オンボロ車はガス欠〉と出てくるので、もしかしたら歌詞でも書いたことを、そのトークで思い出したのかもしれないですね。
ーー映画の中でもBUCK-TICK号のことを櫻井さんが話しているシーンがありましたね。
ちわき:アニイ(ヤガミ・トール)の衣装を見て、「BUCK-TICK号、いいよね」とか。そういえば映画のエンドロールで櫻井さんがドラムセットに座っているシーンがあったんですけど、その話もしていました。「アニイのドラムセットの椅子に座ったことがあるんですよね」「こうやってアニイからは見えているのかって、アニイの視線を体験しました」って。その時はドラムを叩いたとはおっしゃってなかったけど、映画を観て「このシーンのことかな?」と思いましたよ。櫻井さんは番組のスタッフにもすごく愛されていて、ミキサーさんたちとか男性陣が「こんなに可愛い人だと思わなかった」とメロメロになっていました(笑)。お人柄ですよね。