「VRじゃない、もっとすごいものなんだ! WOW!」 「携帯電話じゃない、iPhone(後のスマホ)なんだ! YEAH!」 という話が大量に飛び交いそうなんで、とりあえずちゃんと釘を刺しておかねば。Timが発表するときにXRとも、VRとも言わずに「an entirely new AR platform」と言っていた。そう、こいつはVRのように見えるが、AR platformとして発表されたものである。ここを見誤ってはいけない。
またTimはこう続けている。「Vision Pro is a new kind of computer」だと。なので、アプローチとしては(当初の)Meta Quest Proに非常に近いアプローチ。あれも「コンピューターを置き換える」ような言い方をしていた。が、Quest Proと、世に広く使われているQuest 2等の「いわゆるVRヘッドセット」は大きくコンセプト、アプローチが異なる。ここを理解した上で、Vision Proの情報を見ていきたい。
Apple ファンに対して希望的なコメントをするとしたら、これはその昔のPDAとガラケーのポジショニングに似ているかもしれない。ガラケーは何千万台、1億台と出荷されている中、こんなの流行らないよといわれていたPDA。そこに、PDAのコンセプトだけれどものすごいヤツ(iPhone)が出てきて、結果ガラケーたちをドミナントしたわけ。なので、iPhoneが出てきたときにこんなの電話じゃない、という議論をしているのに等しい、とも表現できるわけだ。
XR2は何が素晴らしくてみんなが使っているかというと、ヘッドトラッキング(頭を右に振ったら右が見える、というやつ)とハンドトラッキング、そしてIR-LEDコントローラーのトラッキング、そしてカメラによる現実パススルー映像とバーチャル映像の重畳の機能を持っていること。これらはHardware orientedではなく多分にSoftware orientedだが、それらが動作するだけのパワーをもっている、という意味ではXR2の力だといえる。これら現代のVRヘッドセットに最低限必要とされる機能に加え、ゲームやアプリの3Dレンダリングに必要なパワーを1チップで兼ね備えている。そしてOSであるAndroidがちゃんと動く。ただし、XR2+を採用してもパネル解像度は約2K x 2K(Quest Pro1,800×1,920)に留まる。これ以上の製品が世界のどこからも出てきていない以上、XR2+がドライブできる解像度上限はこのへんにある、と推察してよいだろう。
対してAppleは先に述べた「かぶれる大画面」というアプローチである以上、めちゃくちゃキレイな(高解像度な)ディスプレイを積まざるをえなかった。2K x 2K以上のパネルを用いてスタンドアロン機を作るとなると、Qualcommを積めない。また、OSとして(立場上)Androidは積めないし、スマホでは競争関係にあるQualcommのチップというわけにもいかない(そもそもパネルがドライブできないわけだが)。じゃぁiPhoneで使われているBionicは? となるが、やりたいことにSpecが合わなかったのだろう。そして仕方なく消去法で残ったのはPC用のArmプロセサをクロックダウンして何とかぶちこむ、というアプローチだったんじゃないかなぁと外野からは見えるのである。弊害としては消費電力はとっても厳しくなり(Macbook Airクラス)、大型のバッテリとならざるをえず、本体にはバッテリを内蔵できず、結果として大型外付けバッテリを搭載しても2Hしか動かないという形に。
ファンレスのM2を搭載するMacbook Airの3Dグラフィクス処理性能はノートPC版のRTX3050にすら劣る部分もある。XR2には勝るだろうが、それでも両目2300万ピクセル(4K x 4K x2の80%ぐらい)を描画することを考えると、ピクセル数は多いものの、全体的なポリゴン数だったりシェーダーまわりの処理だったりといったグラフィクスクオリティ的には、XR2程度の表現力に留まると見るのが妥当だろう。